上 下
40 / 47
ラント外伝 求めているもの

1 何もかもがつまらない

しおりを挟む
 ラントは裕福な家の生まれだ。優しい家族に囲まれて、広大な畑地に受け継ぐ領地と財産には事欠かず、一生涯働かなくても良い位の資産があった。身の回りの必要以上の物まで全て揃い、最高級の教育に有能な人材達に囲まれて幼少期から大人達の中で対等に扱われながら育って来た。

 ラントのただ一つの不幸と言えば、ラントの周りにいた人材があまりにも優秀すぎた事だろうか?彼らによってラントの成長に合わせ必要なものは全て与えられた。本当に全てと言っても過言でないほど、財力にものを言わせ買い揃え与えられた。全てにおいてラントが求めるよりも先に彼らは動き、ラントが求めるよりも先にラントに与えるのであった。主人に求める物を言わせずとも必要な物を用意出来る事は仕える者達にとっては使用人の鏡ですらあり、彼らはそれを常に誇りに思いラントの変化には気が付けなかった。

 そんな中ではラントは求める事が分からなくなっていく。
 
 ある日、婚約者に問われた。

「何か欲しい物はないでしょうか?ラント様はあらゆる物を持ってらっしゃるから私ではご満足差し上げることはできないかもしれませんの。けれど、婚約の記念になる物をお送りしたいと考えておりますの。」

 頬を赤て恥ずかしそうに言う彼女に何も求める物は無い、と俄然悟ってしまった。必要な物ならば有能な部下達が全てにおいて用意済みだ。機を見て彼らがそれを出してくるだけでいい。なのにこの女はどうだ?妻となるべく身でありながら今ラント自身が何を求めているのかを分からないでいる?こんな事は初めてだった…そしてこんな使えない人間を見たのも初めてだった。
 
 何の為にこの女はここにいる?後継者を残すためか?ならば時折閨に充てがわれる別の女でもいいはずだ。彼女達の方がこちらが何をして欲しいのか良くわかっているではないか。では、領地を盤石なものにするためか?しかし既に揺るぎ無い領土と資産がある。今更他の領地の後押しなど必要もないほどに。

 結婚に対し夢など持っていなかったが、少々退屈な日常に変化があると思えば楽しみにもしていたのだが、大した興味も抱かせず何か言わなければ悟らない頭の持ち主とこの先何十年と共にいる……?こう考えただけでもうこの女はとなった。

 与えられすぎて、欲望に喘ぐことも満足することさえも知らないラントはこの世の全てが一気につまらない物に見えて、絶望に喘ぐことになる……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

愛し子

水姫
ファンタジー
アリスティア王国のアレル公爵家にはリリアという公爵令嬢がいた。 彼女は神様の愛し子であった。 彼女が12歳を迎えたとき物語が動き出す。 初めて書きます。お手柔らかにお願いします。 アドバイスや、感想を貰えると嬉しいです。 沢山の方に読んで頂けて嬉しく思います。 感謝の気持ちを込めまして番外編を検討しています。 皆様のリクエストお待ちしております。

祝福のキスで若返った英雄に、溺愛されることになった聖女は私です!~イケオジ騎士団長と楽勝救世の旅と思いきや、大変なことになった~

待鳥園子
恋愛
世界を救うために、聖女として異世界に召喚された私。 これは異世界では三桁も繰り返した良くある出来事のようで「魔物を倒して封印したら元の世界に戻します。最後の戦闘で近くに居てくれたら良いです」と、まるで流れ作業のようにして救世の旅へ出発! 勇者っぽい立ち位置の馬鹿王子は本当に失礼だし、これで四回目の救世ベテランの騎士団長はイケオジだし……恋の予感なんて絶対ないと思ってたけど、私が騎士団長と偶然キスしたら彼が若返ったんですけど?! 神より珍しい『聖女の祝福』の能力を与えられた聖女が、汚れてしまった英雄として知られる騎士団長を若がえらせて汚名を晴らし、そんな彼と幸せになる物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...