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29 悲しみは直接響きます

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 あぁ!こんなに痩せてしまって!?ご飯は?どこが悪いの?お医者様には見てもらえたの?

 後からあとからカディナの想いが溢れてくる。支えられてやっとの思いで立ち上がったカディナの父は細い手をいっぱいに伸ばしてカディナを抱きしめた。

"嬉しさと一緒に浮かび上がるのは絶望?"

 会いたかった親子である筈なのにこの絶望感は何だろう?

「お医者様には?」

 カディナの質問に父はゆっくりと首を振る。

「そんな!!お医者にかかるって約束だったでしょう?だから、私…母さんの言う通りに……」

 カディナの膝がくずおれた…父も一緒にその場に座り込む。

「母さんはな……母さんは……」

「どうしたって言うの?こんなになるまで、何もしてくれなかったって事?」

"あぁ、心が締め付けられそう………!"

「許して…くれ、カディナ……母さんは、あのまま居なくなって…しまって………」

「え………?」

「お前を……売った、金を持ってあの後直ぐに………」

「………うそ……」

 うそ、うそうそ、うそうそうそうそ!!
だって知っていたのよ?父さんにお医者が必要な事!でもうちは貧乏で払えなくて…
だから私が、私が娼館に売られて………


"待って!!待ってカディナ!聞こえてないの?お願い!"

 心の中で絶望が渦巻いている……今までこんなにドロドロとした感情に流されることなんて無かったのに!

「母さんは知っていたのよ!父さんの事も!私がカインにプロポーズされていた事も!それでも私………!!なんで?なんでなの!!」

「許してくれ……カディナ…出て行く母さんを止められなかった………」 
  
 もう、立つこともままならなかったであろうこの父親に止める意思があろうと止められはしなかったのが現実だと思う。

「わ、わたしが…!どんな想いで!!あんな所に…あんな所に!!!」

 泣き崩れるカディナを父親はただただ細く折れそうな手で優しく覆う様に抱きしめていることしかできない…
 
 苦痛と絶望、後悔と怨恨。売られてすぐにカディナが味わった諸々が竜巻の様に渦巻いて荒れ狂っている。

"カディナーー!!!お願い!!やめて!"

 力の限り心の内で叫んでみるけどカディナには届かない……!

「許さない…!母さん……あんたを許さない!!!」

 大地を握りつぶすんでは無いかと思うほど強く強く土を握りしめるカディナ……涙を流しながらカッと目を見開き大地を見据えている。

"苦しい!苦しい…く、るしい…………"

  カディナの痛みが憎しみが直接私の中に流れ込んでくる。何かしなければこれから解放されないのでは無いかとただただ無意味にもがきながらカディナの中で苦しみにのたうちまわった……
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