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27.似てないと、おかしいよね?
しおりを挟むワタシは、小さい頃、ママとパパと3人で暮らしていた。ママはパパが大好きで、いつも一緒にいた。3人でいれた時期は、本当に幸せだった。
パパは仕事が忙しくて、週に2日ぐらい、平日に家にいた。その間は、ママもパパにベッタリ。パパはそれなりにお金を稼いでいたみたいで、ワタシ達はささやかではあるけど、普通の生活を送っていた。
ワタシが小学校に上がる少し前、保育園の年長さんぐらいの時から、パパは急に家に帰って来なくなった。パパがママに渡していたお金は、一切無くなり、生活が苦しくなって、通っていた私立の保育園から別の公立の保育園に移った。ワタシは保育園に仲のいい女の子が一人いたから、本当は転園したくなかった。
ママは働きに出て、遅くまで帰ってこなかった。お迎えが、いつもワタシが最後の一人になっていた。保育園の先生と一緒にママが来るまで、待っていた記憶がある。
小学校に上がると、ワタシはすぐに学童クラブに預けられた。放課後、家に帰っても誰もいない。ママは保育園の頃よりもずっと、遅い時間まで迎えに来てくれなかった。
小学校で、同じクラスにワタシと同じように、お母さんと2人暮らしの男の子がいた。名前は園村基樹くん。同じ境遇だったから、ワタシと基樹くんは学童クラブでとても仲良くなった。
基樹くんは、学童クラブにいる時以外は、いつも別の女の子と一緒にいた。その子は活発な子で、まるで男の子みたいな子だった。結構、グイグイくる感じの子だったから、ワタシはあまり好きじゃなかった。でも、基樹くんは、彼女といる時のほうが、なんか楽しそうで、ワタシは胸がぎゅーってなった。
ワタシは学童クラブでもいつも一人で残された。でも、基樹くんのお母さんも遅くまで働いていたみたいで、彼のお迎えも遅かった。基樹くんのお母さんはすごく優しくて、ワタシは羨ましかった。
ママはワタシが1年、2年と年を重ねるにつれて、だんだんとワタシと話さなくなった。化粧も濃くて、学校にくると目立つ。夜の仕事を始めた頃には、見た目も随分かわって、ワタシは家に一人でいることが多くなった。
全然帰ってこない日もあれば、知らない男の人と帰って来て、ワタシはベランダに出されて鍵をかけられることもあった。だんだんとエスカレートして、一人で酔って帰ってくると、叩かれたり、蹴られたりした。
――おまえなんか産まなければ良かった――
――おまえさえいなければ、私は好きに生きられる――
――おまえがいると、私は幸せになれない――
――おまえを見ているとイライラする――
――おまえなんか、死んでしまえばいいのに――
沢山の言葉や暴力、もしくは無視、放置を繰り返されて、ワタシの心は日に日におかしくなっていった。家に転がっていた小銭をかき集めて、お菓子を買いに出かけた時、久しぶりに園村基樹くんを見た。
基樹くんはお母さんと一緒に、楽しそうに買い物していた。声をかけようと思っていたのに、ワタシの体は勝手に隠れていた。彼の笑顔を見る度に、ワタシの心はどんどん追い詰められていった。
――同じ境遇なのに、なんで彼は幸せなのか――
――同じ境遇なのに、ワタシはなんで殴られるのか――
――同じ境遇なのに、彼は笑っている――
――同じ境遇なのに、ワタシはずっと泣いている――
――同じ境遇なのに、彼はお母さんと一緒――
――同じ境遇なのに、ワタシハ、ヒトリダ――
胃が痛い、腸が痛い、心臓が痛い、頭が痛い。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
なんでワタシはこんな苦しいのに、なんでアイツはあんなに幸せそうなの?
そうか、ワタシは人間として認められていないんだ。生まれてきてごめんなさい。生きていてごめんなさい。
ごめんなさい、ママ、謝るから、もう無視しないで。殴らないで。一人にしないで。生きていてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。
「あのさ、姫月って好きなヤツいんの?」……誰だよ、おまえ。雄平?知らねえよ、寄るな、気持ち悪い。
「好きな人?……いるよ?」
「誰だよ……?オレよりもかっこいいやつか?」
「うん、かっこいいよ。園村基樹クンだよ」
馬鹿なヤツは手なづけるのが楽だなあ。バカはいいね、何も考えてなくて。直情的で、前しか見てない、バカはいい。……バカになりたい。ワタシはバカになりたい。
中学に上がるまで、雄平は基樹を虐めて虐めて虐め抜いた。選ばれた、人間として認められた存在が堕ちる姿は楽しいネ。
ああ、楽しい。楽しくて、楽しくて、たまらない。
「あれ?!もしかして、絵玲奈!?」
ああ、またバカがいた。ここにも、バカが。
「ワタシ、園村クンにずっと片思いしてるんだ~」
「……へぇ~。……そうなんだ」
虐めはどんどんエスカレートして、ワタシの虐待もどんどんエスカレートして。
なんかワタシ達、似てるよね?
似てないと、おかしいよねぇ。
「ね……、園村クン……」
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