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26.あの夜の
しおりを挟む「……僕が、母さんを殺した?」
「そうだよ、思い出してみなよ」
母が帰ってこなかった日。僕は、母が帰ってこなかったから、心配で探しに出かけた。そう、夜の10時を回っても帰ってこなかったから。
「君は、何をしてたのかなあ?」姫月絵玲奈は、僕の顔を下から睨め上げるように見て、微笑んだ。
「イグラシアス、僕は何をしていた?」
『わたしは、君が家を飛び出して、……次に君が、母親が倒れている姿を発見する瞬間まで、意識がなかった』
「僕は、何を……」
「分からないかなあ、それとも思い出したくないだけ?」
「君の母親を見た。繁華街で。後をつけた」
「ワタシのママは、どこにいたのかなあ?」
「交番だよ……そこから出てきた」
「中に、誰がいたかなぁ」
「お婆さん。知らない人。あと警官。お婆さんは君のお母さんにありがとうって言ってた気がする」
「お婆さん、困ってたのかなあ?もしかして、道に倒れていたのかも。だから、助けてあげたのかもね?助けるのに必死で、電話が鳴っても気付かなかったのかも」
「君のお母さんは、そんな事しないだろう」
「……そう、正解。ワタシのママはそんなことしない。他人なんてどうでもいいから」
僕の心臓の鼓動が早くなる。
「君は、ワタシのママを見て、後をつけたんだよね?」
「……はあ、はあ」
『……基樹、君は、何をしていたんだ』
姫月絵玲奈の母親を、川の近くで呼び止めた。呼び止められた姫月絵玲奈の母親は、振り返ると笑っていた。
――ごめんね、心配かけて。帰って、一緒にご飯食べよ――
そう言ったんだ。誰に向かって話しているのか分からなかった。だって、僕が、お前の心配なんかするわけないだろう?
『まさか……、基樹』
「僕は、姫月絵玲奈の母親を、殺した」
「ワタシのママは、君が、とっくに殺してくれてるヨ?」
僕が初めて、自分の意志で粛清したのが、姫月絵玲奈の母親。だって、あんな奴、生きてる価値、ないだろ?だから、イグラシアスの声がしない間に、殺した。また、イグラシアスに代わられる前に。
「なんで、ワタシのママを殺したの?」
「……君が、君が、好きだから。君が、辛い想いをしていると知ったから。だから、君に自由になってほしくて」
「うはは、余計なお世話」
僕の意識は沈み、イグラシアスの意識が表面に浮かび上がってきた。
「お前が、幻を見せて、基樹の母親を殺させた?」
「人聞きが悪いなぁ。ワタシとラフは、夢を見させるだけ。その人がそうあって欲しいと願う、夢を……」
「近くで、見ていたんだろ?」
「うん、見てたよ?……なんで、自分の母親、殺してるんだろーって」
わたしは我慢できず、姫月絵玲奈の首を狙って爪を突き出した。彼女は、瞬き一つした後には、目の前から消え、奥に倒れこんでいる蛭子悠希絵の傍らに移動していた。
「……ラファトゥマ!貴様あッ!!」
「ワタシは、ずっとここにいたよ?ブツブツと遠くで喋って、腕振り回して、バカみたい」
姫月絵玲奈は、蛭子悠希絵を背中から生えてきた触手のようなもので巻き取ると、次の瞬間には雀荘の入口に手をかけて、こちらに顔を向けて笑っていた。
「とりあえず、今日は、この子が欲しかっただけだから。また近いうちに会いましょう」
「キサマ、待て!」とわたしが叫んだ時には、もう、そこに姫月絵玲奈と蛭子悠希絵の姿は無かった。
ガラン、ガランと、雀荘の入口のドアが虚しく揺れていた。
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