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25.姫月絵玲奈
しおりを挟む僕の目の前に、姫月絵玲奈がいる。およそ5ヶ月前、引っ越しして転校して、僕の前から消えた。僕と、彼女は友達だと思っていた。彼女も僕を友達だと思ってくれていると、信じて疑わなかった。
「ねえー、園村クン、毎週一回、メールしてきてた?」
「……うん、してた。でも、一回も届かなかった。既読にならなかったからね」
「見てたよ、うふふ……」
「……見てたんだ、……既読つけないようにして?」
「だーって、『久しぶり』とか『また会いたい』とか」
「その通りだよ。……僕は君に会いたかった」
姫月絵玲奈は口元を抑えて、笑うのをこらえているような素振りをしていた。
「あんな、気持ち悪いのに、返事するわけないじゃん?」
「……そっか」
「何?その、『最初から分かってた、だから僕は傷付いてない』みたいな反応。キッモ!」
「……そんな人だと、思わなかったな」
「どう思おうが、君の勝手だからネ。どうぞ、ご自由に妄想してくださいマセ」
彼女がラファトゥマの転生憑きであるのは間違いない。イグラシアスは先から何も言わないけど、それぐらいは僕にでも分かる。好かれていないまでも、そこまで嫌われているとは思ってなかったから、正直、かなりショックだった。
「あー、でもネ。ワタシ、園村クンに感謝してることが一つだけ、あるんだー」
「……なんだい?」
「ワタシのママ、殺してくれたじゃん?」
「……は?」
「ほら、ワタシのアパートに来た時にさあ、ワタシに覆いかぶさって殴ろうとしてたママを、背中からグサグサーって刺してさ、殺してくれたじゃん?」
僕は、姫月の母親なんか殺してない。僕が刺したのは、君が変なオヤジに襲われていたから……。そのオヤジを刺してしまった。実際に殺したのは、イグラシアスだけど。
「……あ、そっか。そーゆーことか」
「何が、だよ……」
「あー、とことん鈍い男だねェ」
『そういう事だったか。……今頃気付くなんて、わたしも朦朧したもんだな』
「だから、なんだよ?」
「ああ、独り言?……違うかぁ、ワタシとおんなじだもんネ」
ワタシとおんなじ……だと?同じ、……そういうことか。
「園村クンがワタシのスマホ持っているわけじゃないんだよね?持っているんなら、あんな間抜けな連絡しないもんね」
「持ってないよ、姫月はスマホ、持ってないの?どうやってSNSの内容を見たの?」
「これだから情弱と話してると疲れる。ま、わかんないなら知らなくていいよ、どうでもいいし。ワタシの撮った動画は見た?」
「……見てないよ」
「すごかったよね、園村クン。2人を惨殺してさあ、ケロッとしてんの。あれはクールだったなあ~」
「姫月のスマホって、やっぱりアレか」
「……誰が持ってんの?」
「教えない。教えたら、殺すだろ?そいつ」
「そうだね、当てようか?……ヒルコでしょ?」
「姫月がバカで良かったよ」
「……はぁ?」
姫月絵玲奈の表情が歪む。馬鹿にされたのに腹がたったのだろうか。いや、違う。今、一瞬、別の人間になったような感じがした。雰囲気が変わった。
「少しは感謝してもらいたいなあ、僕ちゃん」
「あんたがラファトゥマか」
「お前が思う存分に殺しまくった人間を隠してやってきたんだからな。相当な貸しだぞ?イグラシアス……!」
『あいつの能力は、幻覚を見せる事だ』
「幻覚……?」
「聞こえが悪いぞ、夢を見せてやってるんだよ、私は……」
『おそらくあいつのいる位置から、どれぐらいの距離が能力範囲かは分からんが少なくとも100メートル四方は、あいつの能力の射程範囲だ』
「幻を見せる能力か」
「夢と言え。私に相応しい力だ。国家の飼い犬だったキサマにも、それ相応の、お前らしい能力が備わっているじゃないか、イグラシアス?」
「よく喋るな……、相変わらず耳障りな喋り方だ。ニオイも臭くて堪らんぞ、ラファトゥマ」
いつの間にかイグラシアスに体を交代させられ、一触即発のムードだ。すぐにでも殺し合いが始まってもおかしくない。
「貴様が基樹の母親を殺めたのは知っている。キサマは何度生まれ変わっても、クズのままだな」
「お前の御主人様の母親?私はそんなもの、殺していない。そもそも、私はこの世界に転生して、まだ一人も殺してないぞ?」
「ふざけるな、……彼の母親からキサマのニオイがした、言い逃れなど見苦しいぞ」
「ああ、それなら、殺したのワタシらじゃないよ?」
自分たちもそうだから、人の事を言えた義理ではないが、人格が交代してるみたいにコロコロと交代されると誰と話しているか分からなくなる。
「殺したのは、園村クンだよ」
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