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21.走馬灯
しおりを挟むアタシの家は金持ちで、小さい頃から経済的な面では、不自由な思いをした事はない。この地域でニイハマ工業の名前を知らない者はいないほどの大企業だ。曾祖父さんの代から開業し、今では従業員数が一万人以上いる。
アタシはバカだし、家業に興味が無い。どんな仕事なのか、詳細も知らないが、とにかく儲かる仕事みたいだ。アタシが今歩いている工業地域にも、いくつか工場があるが、それよりもうちの会社の下請け会社の方が多い。
街中に比べると、華やかさは微塵もないし、住宅地を抜けると、寂れた工場や、工場跡地がいくつもある。いたいけな少女が一人で訪れるような場所ではない。治安が悪いとまではいかないが、いつ犯罪に巻き込まれてもおかしくない雰囲気はある。
「こんなボロいビルに呼び出すなよな……」
以前はいくつか店が入っていたのかもしれないが、今では使われていない雑居ビル。そこの2階にある潰れた雀荘の跡地が、アタシらが待ち合わせをよくしていた場所だった。最近は近づいてすらいなかった。仮に待ち合わせをしたとしても、繁華街の遊戯場かホテルの一室だ。この雀荘跡地は中学生の頃は毎日たむろしていた、懐かしい場所だ。
「着いたけど」アタシは約束した相手に電話した。10秒ほどコールした後に、相手が電話に出た。声がおかしい。
「誰だよ、アンタ」
荒れに荒れた雀荘の奥の方の暗闇から現れたのは、見た事もない強面の男だった。はめられたか……。来るんじゃなかったと後悔したが、もう遅い。
「おかしいな、アタシは腐れ縁の幼馴染に電話したはずなんだけど、なんでその携帯をおじさんが持ってるのかな?」
「それは、何故だか分からないかい?」
「……グルだったのか?アンタみたいな如何にもな裏社会人間の知り合いがいるとは思えないけど」
「その幼馴染と、俺が仲間だとは、まだ一言も言ってないけどね」
アタシの背中に何かが押し当てられた、と感じた瞬間に意識が飛んだ。
*
「オラ、起きろよ」という言葉が聞こえたかと思ったら、顔面に向かってバケツで水をぶっかけられた。両手を縛られて、ベッドの上に転がされている事に気付いた。
「はあ、まいったな……」アタシは水浸しのベッドの上で下着姿で拘束されていた。更に運が悪い事に、クスリを飲まされたのか、打たれたのか知らないが、体が怠くて動かせない。頭もボンヤリしている。
私の周りには仮面をつけた下着一枚の半裸の男が3人いた。ここはさっきまでいた雀荘ではない。見た感じだとホテルの一室のようだ。気絶した後に拉致られて、連れ込まれたという感じだった。
少なくとも強姦はされそうだ。命までは取られない事を祈るしかない。
「幼馴染がどうなったか、知りたくないか?」
「……あ、アンタはさっきのおじさんか。仮面付けてるから、わからなかったよ」
「彼女は最後まで君を守ろうとしていたみたいだったが」
「……そうなの?……そんな奴だったかなあ?」
「口を割ろうとしなかったからな、仕方ないからお仕置きしておいたよ」
「……殺したのか?」
「いや、生きてはいるよ。……あとは君の出方次第だな」
「どうすればいいんだ?このままレイプされれば許してもらえるのか?」
「まあ、それは最低限の誠意として必要だが、それだけじゃ、なあ?」
悪縁を断ち切れなかったことが、アダになって返ってきたか。あのバカは一体何をやったら、こんな怖い人達に目をつけられるんだろうか。理解に苦しむ。
仮面の男が夜寿華のカラダをゆっくりと撫でまわし始める。
「……くそったれが」
眩暈がする。意識が遠くなる。
こんな事で、アタシの人生は詰んじまうのか。
意外と呆気なかったな。
夜寿華は遠のいていく意識の中で、自分の過去が走馬灯のように頭の中に流れ込んできた。
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