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19.これ、あなたのでしょ?
しおりを挟む私は気がつくと、病院のベッドに寝かされ、首に包帯、腹部に縫合されたのか、違和感があった。手首から伸びる点滴の管の向こうに人が座っていた。
「ヒルコっち!この子目を覚ましたみたいッス!」
切れ長の目をした、特徴的な紫色の髪の少女。見たことがない娘だった。彼女が発した声に反応して、かけよって来たのは蛭子悠希絵だった。
「結賀崎さん、大丈夫!?」
「あの、なんで私は、ここに寝かされているの?」
起き上がろうとしたら、痛みが走る。慌てて2人は、「何してるの!起きたら駄目!大怪我してるんだから!」と言って、ベッドに寝るように促してきた。
意味が分からなかった。私は、家に戻ろうとして、駅に向かった。そこから先の記憶が無い。思い出そうとすると、頭に痛みが走る。
「そ、園村基樹くんは……」
「え?園村?園村は、見てないけど……」
「君は夜10時頃に、暴漢に襲われていたッス!」
私は、蛭子悠希絵と一緒にいる少女と面識がない。その事を察知したのか、蛭子は紫髪の少女を紹介してきた。
「あ、この子は新浜夜寿華。私の中学まで一緒だった友達。結賀崎さんが襲われているって気づいたのも、夜寿華なの」
「はじめまして、新浜夜寿華っス。路地の奥からなんか声が聞こえたから、確認に行ったら、君が変なおっさんに絡まれてて、慌ててヒルコっちに警察呼んでもらって。警察の人達と君が倒れてる方によって行ったら、おっさん、ガタイがいい割に足が早くて逃げられちゃったんスよ……」
どうも、私は夜まで街にいたみたいで、変なおじさんに絡まれている所を、この2人に助けられたようだ。全く記憶に無いが、怪我をしているのは事実だし、今もまだ頭がボンヤリとしている。
すると、新浜という子の携帯から変な着信音(任侠者の映画のテーマソングみたいな)が鳴り、彼女は慌てて病室の外に出ていく。
「ごめん、ヒルコっち。電話してくる、後はお願い!」
「ちょ、夜寿華……!」
2人きりになった病室に、しばらく無言の時が訪れた。外を見ると、まだ真っ暗だ。私は、病室に連れてこられて、まだ数時間という事か。……今頃、妹とお母さんが心配してるだろうな。
「結賀崎さん……さ。昼間に、私に会ったの覚えてる?」
「昼間……、今日の昼間?」
「そう、駅の前で……。なんか慌ててたみたいだったから声かけようか、迷ったんだけど……」
「駅の前……?」
「うん、なんか足早だったし、何かあったのかなって」
「昼間……?」
頭が急にキリキリと痛みだした。私の表情が痛みで歪んできたからか、「む、無理して思い出さなくていいよ!……だって、へ、へんな人に絡まれて、暴力振るわれて、ショックだっただろうし、まだ、落ち着いてないでしょ……?」と蛭子は申し訳無さそうにしていた。
また、しばらく無言が続いたが、蛭子は思い切った様子で、また話し始めた。
「や、夜寿華がね、変なおじさんに絡まれてるって言ってるんだけど、……あの、私には結賀崎さんの側にいたのが、おじさんじゃなくて、大きな犬だったみたいに見えたんだけど……」
「……犬」
「あ、でも、私達とか警察の人が近づいたら、逃げちゃったってのは、夜寿華が言ってるのと同じだけど……」
頭の痛みが少しずつだが、和らいできていた。ボンヤリと頭の中にある記憶が、明滅するライトのように、浮かんだり消えたりを繰り返している。
「……蛭子さん、私、昼間に何を話してた?」
「あ、実は、……ほとんど会話はしてなくて。私と目があったのかなって思った瞬間に、私の横を通り過ぎて、そのまま駅とは違う方向に歩いて行っちゃったの」
「確かに、あなたを見たような気がするけど、その後、私はそのまま駅には行かなかったって事……?」
「多分。少なくとも、その時は駅には入って行かなかったよ?呼び止めようとしたんだけど、足早に行ってしまったから、そのまま別れちゃったんだけど」
私は自分がそれ以降、何をしていたかがどうしても思い出せない。籠の中に私が着ていた衣服と一緒に2台のスマホがあった。ピンクのスマホを見た時、私はとっさに手に取り、それを蛭子悠希絵に手渡した。
「……え?」と、蛭子は困った様な表情で、私と手渡されたスマホを交互に見ている。
「蛭子さんのだよね?姫月絵玲奈さんのアパートの近くで落としたんだよね?探してたみたいだったから、あの、今まで渡しそびれちゃってて、……ごめん」
「……わ、私のスマホじゃないけど?自分のは、あ、ほらコレ。これが私のスマホ」
彼女がパンツの後ろポケットからだした白いスマホを見せてきた。……どう言うこと?それは、蛭子悠希絵のスマホでしょ?あなたが、落としたんだよね?……違うの?
「あれ、このスマホ……どこかで見たことある気がするんだけど。どこだったかなぁ」
すると、病室の外からバタバタと走る音が聞こえた。
「お姉ちゃん!!」
「実莉!!」
母と妹が血相を変えて、病室内になだれ込んできた。「大丈夫!?」「本当に良かった!!」泣き崩れる母と妹。その様子を見て、蛭子悠希絵が静かに席を立ち、病室の外に向かおうとしている。私は、咄嗟に叫んでしまった。
「蛭子さん!!まだ話しがしたいの!お願い、帰らないで!」
「だ、大丈夫。私、一旦出るだけだから。お母さんと妹さんが来てくれてるし……ね?」
「……あ。ごめん。気を使ってくれて」
「また、少ししたら戻ってくるから、ね」
蛭子悠希絵は病室を出て、院内の通路を歩いていく。足音が聞こえなくなるまで、耳を澄ましていた私。彼女と話をしなければ……という焦りを感じた。だけど、家族の涙を見ていたら、自分は本当に危ない所だったんだ、という自覚が出てきて、知らないうちに、私も涙が出ていた。
*
病室から離れ、自動販売機が並ぶスペースに向かい、コーヒーを買うと、近くのソファに座った。体がソファに沈み込むような感覚。私も、相当疲れている。明日は学校だけど、行く気がしない。サボっちゃおうかな……。
手渡されたピンクのスマホを触ってみるが、ロックされていて、まったく操作出来ない。ため息を付きながら、「また後で、結賀崎さんに聞いてみるかぁ……」とぼやいて、ポケットにしまう。
そういえば、夜寿華は何処まで電話しに行ったんだ。そうこう考えてたら、私は疲れからか、少し意識を失った。
*
「あの……、あんまり電話かけてこないでほしいんス。アタシら、あんまり関わらないほうがお互いの為なんで。昔の事も、思い出しちゃうし」
電話相手から何かを言われたのか、夜寿華は通話終了のボタンを押してから、小さく舌打ちをした。
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