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10.人形②

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 父親は不思議な力を持っていた。彼に逆らう事が出来ないのだ。兄も同じような力を持っていた。だから、私は2人に対して、恨みや憎しみといった感情を少なからず持っていたが、彼らを攻撃することができない。それが催眠術に近い力だと気付いたのは中学を卒業する頃だった。

 目を見てはいけない

 そう気付くのに十年近くかかった。体の自由が奪われ、感情がフラットになるのだ。そして、自分にも同じような力があることに気付く。十年もその力の被験体になっていたせいか、私も他人の目を見ていると、その人がどういった人間で、どういう生き方をしてきたのかが、頭の中に浮かぶと言うか、そこから更に踏み込んで自分の意志を直接相手の頭に挿入することができるようになっていた。

 ただ、残念な事に、私よりもその力に長けた2人には全く効果が出なかった。私では、2人をどうすることも出来なかった。

 私は高校に進学して、表面的には普通をできる限り装って過ごしていたが、そもそも普通が分からないので、傍から見れば歪な存在に映っていただろう。そんな折、私は一人の男性に偶然出会った。彼は私の中に朧気にイメージしていた「普通」を体現したような存在だった。

 そんな「普通」な彼の事が気になって、彼を電車や通学に利用していた道で何度か見かける度に、何故か無性に気になって、彼を追いかける日々が続いていた。ある時、彼がコンビニで仕事をしている事に気付き、数回そのコンビニに行った。彼は「可もなく不可もなく」周りに同調して「普通」であることに徹しているように見えた。そんな彼が、コンビニの同僚と思われる男性と2人で深夜のホテル街に吸い込まれていく姿を目撃した。

「お、男同士で、ホテルに……」

 私は何故かワクワクしていた。ホテルに入るからには(必ずしもそうとは限らないが)期待通りの展開になっているかもしれないと思った。しばらく身を潜め、2時間ほどすると、2人は腰に腕をまわして、如何にもデキている様子でホテルから出てきた。

「……また、いつ会えるか分からないから、名残惜しいよ、みやび

「小林くん、今日も激しかったね」

 雅くんって言うんだ。雅くんか……でもあまり「みやび」感が無いビジュアルなのが気になったけど、名前が分かったのが凄く嬉しかった。

 2人は数分間抱き合って(周りの視線は一切気にせず)激しく舌を絡ませ合うキスをしていた。

「……ご、ごちそうさまでしたぁ」

 私は誰に言うでもなく、小声で呟くと、名残惜しそうに離れた2人を遠目に観察し、いよいよ一人になった雅くんの後をストーキングした。


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