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本編

15歳-10

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 「お前がっ、お前が悪いんだ!俺がいるのにっ!あんなアバズレ女なんかと抱き合いやがって!でも俺は優しいからな。今から俺以外触れられない様にタップリと体にわからブゲヘェッ!!」

 はい。終~了。
 倉庫に着くまで何事も無く辿り着いた俺達。
 途中から聞こえて来たセリフに、俺の足は更に加速した。相手に気付かれない様に木の上を音も無く伝ってだ。
 そして着くや否や最後まで言わせる前に俺の落下スピードをプラスした蹴りが炸裂した訳ですな。
 不届き者はギャグ漫画の様に笑える顔で派手に吹っ転んで行く。

 「ご無事ですか?会長」

 俺はスチャッと華麗に着地を決めると、声も無く震える会長の可憐な手を恭しく取った。気分はお姫様を助け出す王子である。本物の王子はそこにいるけど。

 「~~~っ」

 会長は余程怖かったのか、言葉が上手く紡げなくなっている。

 「落ち着いて。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐き出して」

 目線を合わせ、なるべく穏やかに、警戒心を解す様に、見本を見せる。
 会長は片手で乱れた服をかき抱き、瓶底眼鏡の無い素顔を見せている。涙で潤み揺れる目を何とか俺に合わせているのがわかる。暫く口を真一文字に結んでいたが、根気強く待っていれば俺に合わせてゆっくり呼吸をしてくれた。

 「すみ、ま、せん……」

 大分落ち着きを取り戻した会長が途切れ途切れに謝罪を口にする。

 「もう大丈夫ですか?」
 「はい。ありがとう、ございます」

 思いの外しっかりした返答だ。顔色も大分戻ってるし、会長の手を離さず一緒に立ち上がる。

 「あっ」

 けれど会長はまだ足に力が戻っていなかったみたいだ。よろけて崩折れる所だったが、手を引っ張り抱き留める。
 会長の空いてる手が俺の胸元にくる。俺の空いてる手は会長の腰を支えてる。そして視線は交差する。

 「アレク」

 そこにデイヴが声を掛けて来たから振り返る。

 「ん?何?」
 「会長は私が保護しよう。アレクはあの者の捕縛を頼む」

 アルカイックスマイルで俺の手から会長の手を取るデイヴ。流れる動作で会長はデイヴの懐に収まった。
 デイヴに限って俺以外に恋情を表す事は無い。とは確信してるんだが……。ちょっとムカっときた。可愛い会長に対して嫉妬の炎がチラついた事に、俺は戸惑う。

 「ウン。ワカッタヨ」

 でも俺が片言対応になったのはそれが原因では無い。

 デイヴの眼の奥の芯の辺りで、怖い何かが見えたからだ。

 怖い。何が怖いって、何が怖いのかわからないのが怖い。
 ただ、俺はこれ以上会長と過多なスキンシップはしない方が良いと感じた。
 渋々吹っ飛んで気を失ってる男の元へ行く。

 「あー。」

 男は見知った顔だった。
 いや気配で何となくそれっぽくは思ってた。でも親しい訳じゃ無くて、相手の気配もきちんと覚えて無かったから。
 男はカーメムー侯爵子息だった。
 うん。勘違い男の暴走は方々で迷惑を振り撒いていた様だな。

 「おーい。コイツどうする?」

 取り敢えずふん縛って今は起きない様に睡眠の魔術で深い眠りに誘った。健やかな寝息を立てるのを見て、デイヴに振り向く。
 そこで俺は眉間に皺を寄せる事になった。

 「……デイヴ?」

 デイヴは会長の前髪を掻き上げ、視線を交差させている。それに何かイライラムカムカ胃が気持ち悪くなってくる。
 俺の呼び掛けに「アレク」と返すデイヴ。その時にはもう視線は俺を向き、手も会長から離れた。それにホッとする自分がいる。

 「見事な阿呆面だね」

 周囲に他に気配も無く、会長の安全も確認出来た事で、会長から離れて俺の側の定位置に来る。それに少しの優越感が芽生え、さっきから自分の体が自分の物じゃないみたいで気持ち悪い。

 「アレク?」

 ままならない不調に黙り込む俺の顔を、デイヴが覗き込む。その時にサラリと流れる前髪に、俺の心臓がドキリと跳ねた。

 「~っ、な、何でもないっ」
 「?何が?」

 勢いで言ってしまったが、デイヴにとってみれば脈絡の無いセリフで、聞き返されるのは自明の理だった。何やってんだ俺は。

 「あ、あー。いや。コイツってアレだよなーって、ほらあの戦闘学の」

 我ながらキョドりがやばい上に誤魔化しが拙い。泣けてくるぜ。
 でもデイヴはキョトンと目を瞬かせて、フッと笑うと姿勢を戻して俺の手を軽く握った。

 「そうだね。あの時の阿呆の子だね」

 どうやら俺の誤魔化しに乗ってくれるらしい。手を握る意味はわからんが。まあ、俺に対するスキンシップは割と多い方だし、然程気にする事もない。

 「カーメムー侯爵家の阿呆振りは救い用が無いな。
 カマドゥラ子爵家が処罰された時に身の程を弁えれば良い物を」
 「それが理解出来ない愚か者だからあんな小物に良い様に使われていたのさ。
 あの時は、私を亡き者にしようとしたカマドゥラ子爵に手を貸していなかったから処罰は免れたけど、今回は最後まで叩き潰してあげるよ」

 侮蔑を込めてカーメムー侯爵子息の面影に侯爵本人を見る。
 デイヴは更に冷めた目で言う。王族として国家の膿みは早めに切り捨てたいのだろう。
 なまじ古くからある貴族は逃げ隠れが無駄に上手いからな。歯痒い思いも多い事だろう。

 「デイヴがこの先成し得たい事が有れば、俺が力を貸す。
 だから無茶はするなよ」
 「ありがとう、アレク」

 デイヴは国の為なら平気で身を挺する。心配になって言えば、デイヴは本当に嬉しそうに破顔してくれて、次いで言われた言葉に俺の心臓はドキリと高鳴りをみせた。

 「ああ、私は本当に君が好きだな」
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