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本編
10歳-3
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カン!
キン!
騎士団の修練場に甲高い音が響く。
ヴァンと打ち合いを始めてからどれ位の時間が経っただろうか。
初めの頃はお互いに力量を図る様に打ち合っていただけだった。
でも……ヴァンは強かった。
あっという間に剣を弾き飛ばされて泡を喰った俺は、悔しくて悔しくて直ぐ様再戦を申し込んだ。
二度目は実戦のつもりで打ち合ったけど、未だに勝敗は付いていない。
「っは!っくそ、反則級にっ、強いなっ、このヤロ!」
「っへ!ソックリそのまま返して、ヤラァッ!」
打ち合いながら軽口も出る。
俺が斜め上段から斬り込んで、ヴァンが剣で流した所を蹴り技で追付いする。けれどそれも返した剣で斬られそうになった。
「っとと。ふへ~、あっぶね」
蹴りの軌道を逸らして何とか剣を避ける。
「っし!」
体勢が崩れかけた所で更に剣の軌道を変えて来る。
ヴァンの剣は豪胆なのに蛇の様に滑らかに動く。軌道を読んでも幾らでも変えて来るから手強い。
「ん。でも、本気の勝負じゃ負けらんねぇっ、けどな!」
俺だって生まれた頃から鍛えまくってんだ!
ヴァンが天性の才能があったって知るか!努力舐めんな!
斬りからの突きに転じたヴァンの剣を、上体を捻りつつ剣の腹を滑らせて軌道を逸らす。そこから一歩深く懐に入り込んで足を払って勢いを利用して回転投げ飛ばしを掛ける。
「っふ、甘いな」
えええー。投げ飛ばし最中に更に回転加えて体勢立て直しやがったよ。
まあ、こんな具合で終始決着が付かずに今に至ってる訳だけど。
「あいつら本当に10歳か?」
「いや、あれはバケモンの類いだろ」
「ヤメロ。考えるだけ無駄だぞ。
何せあの二人は、あのオーウェン団長と、あのオルティス侯爵の子供だ」
「「「あー」」」
ちょっと前から外野が声も気にせず言いたい事言ってる。
っていうかあのって何だあのって。
確かにオーウェン団長の強さは人間離れしてるって噂だけど。
何でパパンまでそういう言われようなのん?
「そこまで」
周囲の騎士(見習い含む)を左右に散らしてオーウェン団長が近寄ってきた。
丁度互いに剣を振り下ろす所に割って入る。
って、危ないんだけど!?っと思った瞬間にはオーウェン団長が俺とヴァンの剣を軽く指に挟んで止めていた。
……模造刀とはいえ結構威力乗せてたんだけど……。
俺は遠い目をしたくなるのをグッと堪えて歯を食いしばった。
いつか越えてみせる。
「如何やら随分と打ち解けた様だ。
これからも仲良く切磋琢磨して励む様に」
オーウェン団長は軽く俺達の頭を撫でて言うと、訓練を終えた騎士達を集めるべく招集を掛けた。俺もそれに従って騎士見習いの列に並ぶ。
並んだ騎士達を見ると、騎士見習い達はヘトヘトに疲れ切った顔をしていた。訓練に雑務に大変だったんだろう。
逆に騎士達はある程度息は整っている。訓練自体は見習いより過酷だったけど、やっぱレベルが違うって事かな。強いそうな奴ほど平然としてる。
「……では本日は解散!」
おっと、周りに気を取られてる間にオーウェン団長の話は終わった様だ。
まあ、俺に関する話は無かったし、帰るとするかな。
「よっ。これから時間あるか?」
帰り支度してたらヴァンが片手を上げてやって来た。デートのお誘いだろうか。
「ごめん。俺は可愛い子が好きなんだ」
「奇遇だな。俺もだ」
真剣に伝えれば軽く返された。
ちぇっ、この手の話はヴァンのが上手か。俺の意趣返しが通用しない。
「じゃあ飯食い行こうぜ」
「は?」
おや?ヴァン君も侯爵子息、貴族だったよな?
あれ?何だろ。この部活後の軽いノリ。
「下町。初めてじゃないだろ」
「そうだけど。良いのかよ。家の人に何か言われねえ?」
「ウチの鍛え方は柔じゃねえんだよ。
下町程度、物心付いた頃には一人で行かされてた」
いやいやいやいや!?
幾ら騎士の家って言っても獅子の子育てより厳しくねーか!?この世界の治安は割と物騒だぞ!?
「事件は現場で起きる。
現場を知り、現場に馴染む。だからこそ迅速な対応が出来る。
ってのが家訓」
警察官かっ。
はー、ヴァンが強いのも頷けるわ。
「その調子じゃちっこい頃から盗賊退治してそうだな」
「してたぞ。親父に連れられて」
乾いた笑いで冗談を言ったらニヤリ笑いで肯定された。
流石の俺でも笑みも凍るってもんだ。
騎士ん家パネエ。
「言っとくっすけど、そんなのオーウェン団長ん家だけっすからね」
騎士の過酷さに慄いてたら、背後から影が伸びてきた。
振り向くと騎士の兄ちゃんが腰に手を当てて見下ろしてた。
……誰だ?
考えたらヴァンとの一騎討ちに夢中で騎士の訓練もガッツリは見れてないんだよなー。
あー、でも何か。んー、ヴァンに勝てなくて参考にした騎士の一人か?何かトリッキーな動きが視界に映ってスゲーなぁって思った気がしなくもない。
「チワッス、オルティスの坊ちゃん。
俺っちはビンズ。騎士団のエースっすよ」
ニカリとウィンクを決めるチャラメン。言葉に信用感がまるで無い。
でも確かに動きは凄かった気がする?うーむ、ちゃんと見学しとけば良かった。初日なのにヴァンに夢中過ぎたな。
「宜しくおねしゃーっす。アレクサンダーっす」
真顔で腰を九十度曲げて運動部のノリで返したらビンズさんにウケた。ケタケタ楽しそうで何よりだ。
「んで、ヴァンの家系は騎士としてもズレてるって事っすか」
「はははっ!そーっす!」
うわー、スゲーなこの人。本人前にして思いっきり言い切った。
キン!
騎士団の修練場に甲高い音が響く。
ヴァンと打ち合いを始めてからどれ位の時間が経っただろうか。
初めの頃はお互いに力量を図る様に打ち合っていただけだった。
でも……ヴァンは強かった。
あっという間に剣を弾き飛ばされて泡を喰った俺は、悔しくて悔しくて直ぐ様再戦を申し込んだ。
二度目は実戦のつもりで打ち合ったけど、未だに勝敗は付いていない。
「っは!っくそ、反則級にっ、強いなっ、このヤロ!」
「っへ!ソックリそのまま返して、ヤラァッ!」
打ち合いながら軽口も出る。
俺が斜め上段から斬り込んで、ヴァンが剣で流した所を蹴り技で追付いする。けれどそれも返した剣で斬られそうになった。
「っとと。ふへ~、あっぶね」
蹴りの軌道を逸らして何とか剣を避ける。
「っし!」
体勢が崩れかけた所で更に剣の軌道を変えて来る。
ヴァンの剣は豪胆なのに蛇の様に滑らかに動く。軌道を読んでも幾らでも変えて来るから手強い。
「ん。でも、本気の勝負じゃ負けらんねぇっ、けどな!」
俺だって生まれた頃から鍛えまくってんだ!
ヴァンが天性の才能があったって知るか!努力舐めんな!
斬りからの突きに転じたヴァンの剣を、上体を捻りつつ剣の腹を滑らせて軌道を逸らす。そこから一歩深く懐に入り込んで足を払って勢いを利用して回転投げ飛ばしを掛ける。
「っふ、甘いな」
えええー。投げ飛ばし最中に更に回転加えて体勢立て直しやがったよ。
まあ、こんな具合で終始決着が付かずに今に至ってる訳だけど。
「あいつら本当に10歳か?」
「いや、あれはバケモンの類いだろ」
「ヤメロ。考えるだけ無駄だぞ。
何せあの二人は、あのオーウェン団長と、あのオルティス侯爵の子供だ」
「「「あー」」」
ちょっと前から外野が声も気にせず言いたい事言ってる。
っていうかあのって何だあのって。
確かにオーウェン団長の強さは人間離れしてるって噂だけど。
何でパパンまでそういう言われようなのん?
「そこまで」
周囲の騎士(見習い含む)を左右に散らしてオーウェン団長が近寄ってきた。
丁度互いに剣を振り下ろす所に割って入る。
って、危ないんだけど!?っと思った瞬間にはオーウェン団長が俺とヴァンの剣を軽く指に挟んで止めていた。
……模造刀とはいえ結構威力乗せてたんだけど……。
俺は遠い目をしたくなるのをグッと堪えて歯を食いしばった。
いつか越えてみせる。
「如何やら随分と打ち解けた様だ。
これからも仲良く切磋琢磨して励む様に」
オーウェン団長は軽く俺達の頭を撫でて言うと、訓練を終えた騎士達を集めるべく招集を掛けた。俺もそれに従って騎士見習いの列に並ぶ。
並んだ騎士達を見ると、騎士見習い達はヘトヘトに疲れ切った顔をしていた。訓練に雑務に大変だったんだろう。
逆に騎士達はある程度息は整っている。訓練自体は見習いより過酷だったけど、やっぱレベルが違うって事かな。強いそうな奴ほど平然としてる。
「……では本日は解散!」
おっと、周りに気を取られてる間にオーウェン団長の話は終わった様だ。
まあ、俺に関する話は無かったし、帰るとするかな。
「よっ。これから時間あるか?」
帰り支度してたらヴァンが片手を上げてやって来た。デートのお誘いだろうか。
「ごめん。俺は可愛い子が好きなんだ」
「奇遇だな。俺もだ」
真剣に伝えれば軽く返された。
ちぇっ、この手の話はヴァンのが上手か。俺の意趣返しが通用しない。
「じゃあ飯食い行こうぜ」
「は?」
おや?ヴァン君も侯爵子息、貴族だったよな?
あれ?何だろ。この部活後の軽いノリ。
「下町。初めてじゃないだろ」
「そうだけど。良いのかよ。家の人に何か言われねえ?」
「ウチの鍛え方は柔じゃねえんだよ。
下町程度、物心付いた頃には一人で行かされてた」
いやいやいやいや!?
幾ら騎士の家って言っても獅子の子育てより厳しくねーか!?この世界の治安は割と物騒だぞ!?
「事件は現場で起きる。
現場を知り、現場に馴染む。だからこそ迅速な対応が出来る。
ってのが家訓」
警察官かっ。
はー、ヴァンが強いのも頷けるわ。
「その調子じゃちっこい頃から盗賊退治してそうだな」
「してたぞ。親父に連れられて」
乾いた笑いで冗談を言ったらニヤリ笑いで肯定された。
流石の俺でも笑みも凍るってもんだ。
騎士ん家パネエ。
「言っとくっすけど、そんなのオーウェン団長ん家だけっすからね」
騎士の過酷さに慄いてたら、背後から影が伸びてきた。
振り向くと騎士の兄ちゃんが腰に手を当てて見下ろしてた。
……誰だ?
考えたらヴァンとの一騎討ちに夢中で騎士の訓練もガッツリは見れてないんだよなー。
あー、でも何か。んー、ヴァンに勝てなくて参考にした騎士の一人か?何かトリッキーな動きが視界に映ってスゲーなぁって思った気がしなくもない。
「チワッス、オルティスの坊ちゃん。
俺っちはビンズ。騎士団のエースっすよ」
ニカリとウィンクを決めるチャラメン。言葉に信用感がまるで無い。
でも確かに動きは凄かった気がする?うーむ、ちゃんと見学しとけば良かった。初日なのにヴァンに夢中過ぎたな。
「宜しくおねしゃーっす。アレクサンダーっす」
真顔で腰を九十度曲げて運動部のノリで返したらビンズさんにウケた。ケタケタ楽しそうで何よりだ。
「んで、ヴァンの家系は騎士としてもズレてるって事っすか」
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