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本編
7歳-5
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レクから粗方の話を聞き終えて、今日の所は一旦孤児院に帰す事になった。
碌な食事を用意して貰えない孤児院で、レクの狩ってくる肉が唯一の栄養源と言ってもいいらしい。それなのに我が家に押し留めては、孤児院に残された他の子供達がお腹を空かせてしまうから。
「でも一人でどうやって運ぶつもりだ?魔法使ったとしても目立つだろ」
「そうでもないよ。光の屈折とか霧とか、結構遣り様は有る。
ただ今回は量が多いから何回かに分けて運ぶ事になりそうだけど」
へあー。たった7歳でここまで頭が回るもんかね。レクって実は俺と同じ前世の記憶持ちか?
疑問に思って確かめる為に、幾つかこの世界には無いだろう技術や物の話をしたけど、どんな本を読んだか逆に訊かれた。どうやらただの天才らしい。
肉運ぶの手伝おうと思ったけど、どうやら関係者以外が出入りしたらわかる結界が張られてる様なのでそれは断念した。代わりにオルティス家御用達の商家の馬車で、近くまで隠して運んで貰う事にした。
話が終わってレクを帰した後、俺の家族とガイウス団長他騎士数名だけが集まる場で、俺は正式に謝罪を受けた。俺を森に吹っ飛ばした謝罪だ。その後俺の捜索に騎士達を総動員で動かした責任も含めて、ガイウス団長はクビ(物理)覚悟の降格処分を願い出たからビックリだ。
確かに普通の貴族子息だったら下手したら死んでた様な事態だ。でも普通の子息相手なら起らなかったであろう事態でもある。一重に俺の我儘と弱さと詰めの甘さが招いた事だし、何より俺は強いし無事だった。寧ろ低迷していた調査を解決に導けそうになったし、結果オーライだと思う。
だから俺は必死にガイウス団長を擁護した。ガイウス団長がそれに驚いて目をかっぴらいて俺を凝視してきたのはちょっと面白かったな。そんなに意外だったのか。ガイウス団長程情け容赦無く俺を鍛え上げてくれる人はいないってのに。怖いけど。優しさも欲しいけど。
でも優しさだけじゃ強くはなれないから。
結局直ぐに対処した事と大事にならなかった事、最終的に一つの悪を裁ける結果になりそうな事、そして何よりガイウス団長の代わりになれる人材がいない事を考慮して、一時的な権限制限と減俸で済んだ。権限制限の間は本格的な俺の講師を務める事も含まれていて、これからは休憩時間に気まぐれで行われる鍛錬じゃなくて、本格的な学習をする事になった。勿論、森に飛ばさない様に内側からも結界を掛け直して、だけどな。
「これからも厳しく扱いて良いって事だよな?」
「うぐっ、や、優しさもっ、下ちゃいっ」
あ、噛んだ。
その後の話だけど、俺がレクと出会ってからのオルティス家の動きは速かった。
レクの証言で今まで手が付けられなかった所を調査出来る様になった途端、汚れ切った埃が出るわ出るわ。
俺も手伝いたくて父さんに掛け合ったけど、家族大好きパパンは断固拒否の姿勢を崩さなかった。
そりゃそうだよな。俺自身は大人のつもりでも、世間一般的には庇護対象の7歳児なんだから。だからちょっと試しに言ってみただけだい。ハブられて悲しんでなんかないやい。
そんな訳で俺の目の届かない所で速やかに事件は解決してた。
調査の途中で明らかに出来た孤児院の現状に、強制的に子供達をオルティス別棟に保護された。
勿論その中にはレクも居て、俺は調査に出来ない鬱憤を晴らす様に孤児院の子達の世話をした。
孤児院の子達はレク以上にガリガリだったけど、俺監修の元一番不足してただろう野菜と魚を惜しみなく使った食事のお陰で子供らしいふくよかさを取り戻しつつある。可愛い。
世話をするにあたって、前世の経験から手に職大事だと思うから俺の先生に孤児院の子達の先生もお願いした。快く受けてくれたのは有難いけど……暫くしてから子供らしい授業が可愛くて癒されるって、どういう意味だ?
心外なのでジト目で返しといた。
何はともあれ事件が解決した後でも、協会が正しく機能するまではこの子達はウチ預かりになってる。
「おーい!レク行こうぜ!」
レクとは今じゃマブダチだ。
年に似合わず大人びたところがあるレクは、一緒にいて楽しい。
今はもう森に狩りをしに行く必要は無くなったから、空いた時間は大体一緒に遊ぶようになった。
今日はこれから街に行く。
孤児院に囚われてたレクも街で遊ぶのは初めてらしくて、好奇心に満ちたキラキラの瞳が眩しいぜ。
二人とも年齢に合わない規格外の強さを持っていても、所詮はまだ7歳児だから警護は付く。その筆頭がガイウス団長と、俺とレクの魔術の先生である。
魔術の先生はオルティス家専属の女魔術師で、名前をマチルダという。まだ20代なのに凄腕の魔術師で、国家魔術師になる話を蹴ってオルティス家に来た変わり者でもある。
ちなみに見た目はちっぱいなチンチクリンで、本人のコンプレックスらしくて話題にすると……地獄を見た……。あ、でも顔は理知的な可愛い系なので、割と裏ではコアなファンがいるらしい。本人知らないけど。
何はともあれ今日はこのメンツで街に繰り出すのだ。
門で待ち合わせてたレクと落ち合った俺達は、門番に門を開けて貰った。そしていざ行かんとしたところで、フレディがまろびながら駆けてきた。
「にいさまー!にいさま待ってー!」
半泣きで擦り傷作って駆け寄る弟が可愛すぎる。
心臓をズッキューン!と撃ち抜かれた俺は、次の瞬間にはフレディの前で膝を付いた。
「どうしたんだ?今はお勉強の時間だろ?」
膝の擦り傷小僧をポンポン軽く叩いて砂を落してやりながら問えば、フレディは裾を両手で掴んで涙を堪えていた。
「ぼくもーっ、ぼくもいきたいっから、つれてって~」
フルフル震えながら俺に手を伸ばして懇願する弟。天使かな。あ、生まれた時から天使だったわ。
眉尻をだらしなく下げ、緩み切った頬で口角が上がるのを感じるが、フレディの可愛さの前では直す気にもならない。それが天使パワーというものだ。
だがしかし、時にはその天使に背を向けねば成らぬ時も有るのだ。
街では何が起こるかわからない。ガイウス団長とマチルダとはぐれない様な大人な行動と、ある程度自己対応出来る能力が問われるのだ。
7歳(小学生)と6歳(保育園もしくは幼稚園)の違いは大きいのだ。
「フレディには街は危ないから連れてけないよ。せめて俺に剣か魔術で勝つ位じゃないとね」
そう言って頭を撫でてやんわり拒絶を示せばフレディは半泣きで震える手を離した。
ゴメンよ俺の可愛い天使。天使は天使だから下界の毒に直ぐに汚染されちゃうからお兄ちゃん心配なんだよ。
見送りに来てたウルに涙を呑んでフレディを任せて、俺達はオルティス家を後にした。
碌な食事を用意して貰えない孤児院で、レクの狩ってくる肉が唯一の栄養源と言ってもいいらしい。それなのに我が家に押し留めては、孤児院に残された他の子供達がお腹を空かせてしまうから。
「でも一人でどうやって運ぶつもりだ?魔法使ったとしても目立つだろ」
「そうでもないよ。光の屈折とか霧とか、結構遣り様は有る。
ただ今回は量が多いから何回かに分けて運ぶ事になりそうだけど」
へあー。たった7歳でここまで頭が回るもんかね。レクって実は俺と同じ前世の記憶持ちか?
疑問に思って確かめる為に、幾つかこの世界には無いだろう技術や物の話をしたけど、どんな本を読んだか逆に訊かれた。どうやらただの天才らしい。
肉運ぶの手伝おうと思ったけど、どうやら関係者以外が出入りしたらわかる結界が張られてる様なのでそれは断念した。代わりにオルティス家御用達の商家の馬車で、近くまで隠して運んで貰う事にした。
話が終わってレクを帰した後、俺の家族とガイウス団長他騎士数名だけが集まる場で、俺は正式に謝罪を受けた。俺を森に吹っ飛ばした謝罪だ。その後俺の捜索に騎士達を総動員で動かした責任も含めて、ガイウス団長はクビ(物理)覚悟の降格処分を願い出たからビックリだ。
確かに普通の貴族子息だったら下手したら死んでた様な事態だ。でも普通の子息相手なら起らなかったであろう事態でもある。一重に俺の我儘と弱さと詰めの甘さが招いた事だし、何より俺は強いし無事だった。寧ろ低迷していた調査を解決に導けそうになったし、結果オーライだと思う。
だから俺は必死にガイウス団長を擁護した。ガイウス団長がそれに驚いて目をかっぴらいて俺を凝視してきたのはちょっと面白かったな。そんなに意外だったのか。ガイウス団長程情け容赦無く俺を鍛え上げてくれる人はいないってのに。怖いけど。優しさも欲しいけど。
でも優しさだけじゃ強くはなれないから。
結局直ぐに対処した事と大事にならなかった事、最終的に一つの悪を裁ける結果になりそうな事、そして何よりガイウス団長の代わりになれる人材がいない事を考慮して、一時的な権限制限と減俸で済んだ。権限制限の間は本格的な俺の講師を務める事も含まれていて、これからは休憩時間に気まぐれで行われる鍛錬じゃなくて、本格的な学習をする事になった。勿論、森に飛ばさない様に内側からも結界を掛け直して、だけどな。
「これからも厳しく扱いて良いって事だよな?」
「うぐっ、や、優しさもっ、下ちゃいっ」
あ、噛んだ。
その後の話だけど、俺がレクと出会ってからのオルティス家の動きは速かった。
レクの証言で今まで手が付けられなかった所を調査出来る様になった途端、汚れ切った埃が出るわ出るわ。
俺も手伝いたくて父さんに掛け合ったけど、家族大好きパパンは断固拒否の姿勢を崩さなかった。
そりゃそうだよな。俺自身は大人のつもりでも、世間一般的には庇護対象の7歳児なんだから。だからちょっと試しに言ってみただけだい。ハブられて悲しんでなんかないやい。
そんな訳で俺の目の届かない所で速やかに事件は解決してた。
調査の途中で明らかに出来た孤児院の現状に、強制的に子供達をオルティス別棟に保護された。
勿論その中にはレクも居て、俺は調査に出来ない鬱憤を晴らす様に孤児院の子達の世話をした。
孤児院の子達はレク以上にガリガリだったけど、俺監修の元一番不足してただろう野菜と魚を惜しみなく使った食事のお陰で子供らしいふくよかさを取り戻しつつある。可愛い。
世話をするにあたって、前世の経験から手に職大事だと思うから俺の先生に孤児院の子達の先生もお願いした。快く受けてくれたのは有難いけど……暫くしてから子供らしい授業が可愛くて癒されるって、どういう意味だ?
心外なのでジト目で返しといた。
何はともあれ事件が解決した後でも、協会が正しく機能するまではこの子達はウチ預かりになってる。
「おーい!レク行こうぜ!」
レクとは今じゃマブダチだ。
年に似合わず大人びたところがあるレクは、一緒にいて楽しい。
今はもう森に狩りをしに行く必要は無くなったから、空いた時間は大体一緒に遊ぶようになった。
今日はこれから街に行く。
孤児院に囚われてたレクも街で遊ぶのは初めてらしくて、好奇心に満ちたキラキラの瞳が眩しいぜ。
二人とも年齢に合わない規格外の強さを持っていても、所詮はまだ7歳児だから警護は付く。その筆頭がガイウス団長と、俺とレクの魔術の先生である。
魔術の先生はオルティス家専属の女魔術師で、名前をマチルダという。まだ20代なのに凄腕の魔術師で、国家魔術師になる話を蹴ってオルティス家に来た変わり者でもある。
ちなみに見た目はちっぱいなチンチクリンで、本人のコンプレックスらしくて話題にすると……地獄を見た……。あ、でも顔は理知的な可愛い系なので、割と裏ではコアなファンがいるらしい。本人知らないけど。
何はともあれ今日はこのメンツで街に繰り出すのだ。
門で待ち合わせてたレクと落ち合った俺達は、門番に門を開けて貰った。そしていざ行かんとしたところで、フレディがまろびながら駆けてきた。
「にいさまー!にいさま待ってー!」
半泣きで擦り傷作って駆け寄る弟が可愛すぎる。
心臓をズッキューン!と撃ち抜かれた俺は、次の瞬間にはフレディの前で膝を付いた。
「どうしたんだ?今はお勉強の時間だろ?」
膝の擦り傷小僧をポンポン軽く叩いて砂を落してやりながら問えば、フレディは裾を両手で掴んで涙を堪えていた。
「ぼくもーっ、ぼくもいきたいっから、つれてって~」
フルフル震えながら俺に手を伸ばして懇願する弟。天使かな。あ、生まれた時から天使だったわ。
眉尻をだらしなく下げ、緩み切った頬で口角が上がるのを感じるが、フレディの可愛さの前では直す気にもならない。それが天使パワーというものだ。
だがしかし、時にはその天使に背を向けねば成らぬ時も有るのだ。
街では何が起こるかわからない。ガイウス団長とマチルダとはぐれない様な大人な行動と、ある程度自己対応出来る能力が問われるのだ。
7歳(小学生)と6歳(保育園もしくは幼稚園)の違いは大きいのだ。
「フレディには街は危ないから連れてけないよ。せめて俺に剣か魔術で勝つ位じゃないとね」
そう言って頭を撫でてやんわり拒絶を示せばフレディは半泣きで震える手を離した。
ゴメンよ俺の可愛い天使。天使は天使だから下界の毒に直ぐに汚染されちゃうからお兄ちゃん心配なんだよ。
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