我は最凶の魔王にして腐男子なり!

無月

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我は魔王。腐海の森を行く者なり。

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「おい。言っておくが俺はお前を倒す事を諦めていないからな。魔王軍が存在しないなら魔王城へ着く迄お前を見極め、悪と判じたならばその時は容赦なく切る」

砂漠を抜けて岸壁の連なる山を進む勇者一行。先頭を行くのは砂漠を抜けて元気溌剌な武闘家。その後ろを保護者の目線で見守る魔導士。その後ろを巫女。そして勇者と我が続く。
そこで巫女に聞こえない様に勇者が我に聞こえるギリギリの声量で言って来たのがこれである。

「そうか。ならば我も言っておこう。我は勇者×盗賊を目指して盗賊の情報を得たいから早く近くの街か村で情報を集めよう」

キリッと眉を上げて言ったら胡乱な目で見られたよね!

「そのかけるってのは何だ」
「攻めと受け」
「?前衛と守衛……か?しかし盗賊では守衛にならないだろう」
「攻めは突っ込む側で、受けは入れられる側だお」
「入れる?肉を切らせて骨を断つって事か?それはあまり推奨出来ない。無傷で勝つのが理想だ」
「んー。肉は割り入れるけど、骨は絶たないお。正確に言うと受けの肛門をクパクパになるまで解して攻めのでっかいおちん〇んを入れて前立腺とか結腸をガンガンに突くんだお。因みに解さないでいきなり入れる系は我のポリシーに反するのでそういう嗜好も否定はしないけど我としてはハピエン厨な訳で」
「もういい……」

えー?我まだ語り足りないのに。

「要はマーは俺に花嫁を宛がいたい訳か」

頭を押さえて首を振る勇者は我の言葉を理解しようとしてくれてるらしい。良い奴である。

「しかし俺は子を設ける気はない。現状は魔王の討伐で忙しいしそれからも世界を旅して悪を討つつもりだ」

しかして理解出来ていない。
我は残念感からか眉間を寄せて眉尻を下げてしまう。

「人間は男同士で子は出来なかった筈だ」
「男?」
「攻めと受けは男と男だぞ」

そこまで言って勇者は衝撃を受けた顔で歩を止めた。

「な、な、お前は矢張り邪悪な者か!そうして緩やかに人間の衰退を図っていたのか!」

チャキリと音をさせて剣の柄を握る勇者に、我は真っ向から対峙する。

「我にBLを齎したのはその人間だぞ」

大事な事なので真面目な顔して言えば勇者は愕然とした。
初めて手にしたBLがキョーコ先生の薄くて分厚い本だったのだ。今では布教用に常に持ち歩いている。因みにサイン会で貰ったサイン入りの本は額縁に入れて魔王城のエントランスに飾っている。

「そんな……確かに人間の中には悪事を働く者がいるが……まさか、そんな……魔王に邪悪な知識を与えていただなど……」
「ちょっと。BLは邪悪じゃないお!最高にして最愛の萌えなんだお!読んでも無いのに馬鹿にしないでよね!」
「……気になってはいた。そのコロコロ変わる口調。近所のオタクに通じるものがある」
「知り合いにオタクがおったのか。それで妄想という言葉を知っておったのだな」

到頭膝まで折って頽れてしまった勇者に、我は仕方なく前を行く者達に一時休憩を申し渡した。
丁度良く雨が降ってきたのもあって近くの岩が突き出た所の下で火を焚く。その間も勇者はショックが抜けないのか茫然自失として心ここにあらずだ。
我もショックである。BLを受け入れられない人種がいる事は把握していたが、まさかそれが勇者であるだなど。

「珍しいな。ユウが動けなくなるなんて」
「仕方ありません。ずっと寝ずの番をして頂いていたのです。マー様が来て落ち着きはしましたが疲労は蓄積していたのでしょう」

巫女が野菜と肉が溶け込んだスープを作って皆に振舞いつつ言う。
勇者も巫女の手からスープを受け取り口にした事で少し落ち着きを取り戻した様だ。

「すまない。俺としたことがこんな事で足を止めてしまった」
「何を言うんだい。君はいつも頑張り過ぎている。僕は常々たまには自分から休息を申し出て欲しいと思っていたんだよ」

意気消沈する勇者に魔導士が優しく語り掛ける。
それに武闘家がウンウンと勢いよく頷いている。

「そうだぞ勇者よ。腹が減っては戦もBLも出来ぬ。健康管理も勇者の務めと覚え置くが良かろう」
「誰の所為で」
「ふむ?この場合貴様の言葉を借りれば人間の所為、という事になるのか。最も我はキョーコ先生には感謝してもしきれぬが」

代わり映えの無い日常。毎度同じ行いを繰り返す勇者一行やその他大勢。年々色褪せていく我が魔王生に生きがいを与えてくれた。

故に我は人間を滅ぼそうとはもう思っていないのだ。

まあ、掛かって来る者は皆殺しだが。
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