せっかくだから男になって攻めてみたい

無月

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本編

16歳-8

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 如何に疲労困憊だとしても、学園は俺に併せてはくれない訳で。

 「無理しないで休めば良いよ」

 とデイヴィッドは言うが。
 セックスで疲れたので休みます。……って言えるか!最後までしてないから余計言えねえよ!
 寝不足の顔に良く冷やした濡れタオルで無理やり覚醒を促して、馬車に揺られて学園に来ましたとも。
 学園に着けば、俺と同じ寝不足の顔した奴がもう一人居た。ジェームスである。
 その隣にはツヤのある良い笑顔のエヴァンがジェームスの腰を支えてた。

 「ジェームス……」

 憐みと文字通りの同情を込めて名前を呼べば、ジェームスはぐったりした体でゆっくりこっちを見た。
 うん。俺って全然元気だわ。ごめんジェームス。全然同じじゃ無かった。
 
 「やあ、エヴァン。君もお楽しみだった様だね」
 「お陰様で」

 謝罪代わりにそっとジェームスの腰に回復魔術を掛けてる間に、デイヴィッドとエヴァンがヤリ切った良い笑顔で挨拶を交わしてた。

 「有難う御座います。もう、大丈夫です」
 「おう」

 大丈夫とは言っても疲労まで治せる訳じゃないからな。ジェームスも体裁を保てる程度には回復してても疲労の色は未だ抜けてない。
 ていうか何処まで何をどの様にシたんですか。エヴァンさん。
 非難の目で見てやれば、良い笑顔で白い歯を輝かせて親指立てて来た。ニカっじゃねーよ。ニカっじゃ。

 「とっとと教室行こうぜ」

 座ってりゃちっとは楽だと思って提案すれば、ジェームスもあからさまにホッとした。

 教室に着いて直ぐに席に座ると、俺とジェームスの前をデイヴィッドとエヴァンが陣取った。

 「座らんのか?」
 「まだ授業も始まって無いし(視界の防波堤の為に)立ってるよ」
 「そうだな、今のジェームスの顔は他のヤロー共には見せらんねえ」

 エヴァンに言われて納得する。
 確かに今の扇情的なジェームスは思春期の男女には刺激が強すぎるよな。
 ウンウンと納得すれば、デイヴィッドには何か言いたそうな笑顔を向けられ、エヴァンには莫迦を見る目で見られ、ジェームスには呆れた目で見られた。
 なんやねん。

 「知らぬは本人ばかりか」
 「良いんだよ、アレクはそれで。僕が他の誰にも近寄らせないからね」
 「何だよ、言いたい事があるなら言えよ」

 釈然としない思いで口を尖らせれば、デイヴィッドはただ俺を見つめて微笑むだけだ。
 余りにキラキラしい微笑みに俺の方がだんだんと居たたまれなくなって視線を逸らした。
 横ではエヴァンとジェームスが互いの視線を交わしてヤレヤレとジェスチャーしてる。
 だからなんやねん。

 「おはようございま~す♪」

 俺ばっか意味が判らず疎外感に憮然としてたが、底抜けに明るい演技で入って来たモーリス男爵令嬢によって気が抜けた。
 昨日の今日で良くそんなに馬鹿みたいにニコニコ出来るな。
 とは思うものの、よく見れば目元が赤かった。あと心持隈もある。

 「あの娘割と強かだなー」

 感心してモーリス男爵令嬢を凝視してたら目が合った。
 およ?いつもと反応が違う?
 俺と目が合ったモーリス男爵令嬢は、何時もみたいにスルーせず若干頬を赤らめて視線を逸らした。
 こ、これわ!

 「アレ~ク?」

 昨日の敵は今日のモテ期だとワクテカしてたら、デイヴィッドに視線を遮られた。
 しかも怖い時の良い笑顔だ。

 「え?え?なんでそんな急に怖い顔してんだよっ」
 「お前な……。最愛の婚約者の浮気現場目撃したら誰だって怒るっつの」

 意味が判らず焦ってれば、エヴァンに心底莫迦にした顔で窘められた。
 最愛……!
 そのフレーズに思わずデイヴィッドの目を見れば、確かに嫉妬を感じた。
 瞬間、照れた。
 うわわわっ。何だコレ!?嬉しい!?
 こんなに怖い目で見られてるにも関わらず、俺は心がムズムズとして面映ゆく思う自分に狼狽した。
 鏡見なくてもわかる。多分今俺相当赤い。
 思わず両手で顔面を覆えば、デイヴィッドから優しい吐息が聞こえた。
 
 「嬉しい。何だか今報われてる気がするよ」

 見なくても判る。満面の笑みを湛えてるデイヴィッドが。
 何故なら今、抑えきれない幸福の感情が魔力から溢れて包まれたからだ。
 しかも何も魔術を発動していないにも関わらず、その魔力は桃色に見えた。

 「うわ。魔力って感情が高ぶっても色変わるんだ」

 余りにも嬉しく、恥ずかしく、居た堪れなかった。
 だから頓珍漢な事を言って場の空気を変えたかった。
 
 「今すぐ連れ帰っても許される気がする」
 「駄目だからな!?サボり。ダメ。絶対!」

 かなり本気の声で宣うデイヴィッドに、俺の純尻じゅんけつの危機を感じて全力で否定する。
 かなり残念そうな顔をして、直ぐ悪い顔で「いっそ全休に……」とか言い始めた所で担任がやってきて事無きを得た。危ねぇ、危ねぇ。
 怖い事に嫌だとは思えなかった。
 
 「ヤヴァイ。俺のタチとしての自尊心が揺らぎかけておる……」
 「ソリャ結構ナコトダナ」

 俺が焦燥感に打ち拉がれてると、エヴァンに白けた目で片言で言われた。味方はいないのかっ。
 
 魂が抜けた状態でも授業を滞りなく終わらせた放課後。
 何時もの如く剣術棟でエヴァンと打ち合いをしていた。
 一日授業を受けてる間に冷静に戻ってくれたデイヴィッドに安堵を隠せない。
 デイヴィッドは一日中機嫌よくニコニコ愛想を振りまいて、今もまだニコニコしながら見学してる。
 エヴァンに一本取られた所で一旦休憩に入ると、フワフワと幸せの花でも咲き誇らせそうな笑顔でデイヴィッドがタオルで汗を拭ってくれる。
   
 「もう直ぐアレクの誕生日だね。
 パーティーのドレスは受け取って貰えたかな」

 幸せそうに俺の汗を拭う、これでも一応一国の王子。いいのかそれで。と思わなくは無いが、本人が幸せそうだし好きにさせとく。
 それよか先日届いたドレスのが問題だ。
 母さんが嬉しそうに顔を染めて乙女の如くキャーキャー言ってたドレス。それを思い出し、思わず呆れた溜息が出た。

 「あれな。あまりに自己主張と独占欲が凄くて一瞬時が止まったぞ」

 デイヴィッドカラーのそのドレスは、当日までクローゼットの中で眠っている。
 因みに父さんも反発して俺のドレスを買おうとしたから母さんに止めて貰った。
 今年は最終学年という事もあって、デイヴィッドの婚約者(仮)として大々的に行われるらしい。
 殆どの貴族が顔を見せる事になるけど、はてさてどうなる事やら。
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