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本編

2歳-4

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 目を覚ました後、俺は体調が戻るまで絶対安静を言い渡されていた。
 ベッドとお友達になってる間、何度も宮廷医師が診察に訪れた。
 宮廷魔術師もいて、体に不具合が出ていないか細かく検査してくれた。
 ま、そこはスキャンしながらやってたし大丈夫だけどな。

 「素晴らしいです。何度検査しても御子様が元ご令嬢だとは信じられません」
 「いやはや、誰も成し得た事の無い性転換をまさか幼児が完成させてしまうとは」

 へー、性転換は存在しなかったんだ。
 良かった、文献探さないで作り上げて。
 時間無駄にするとこだったぜ。
 俺はむふーっと安堵の息を吐いた。

 「あっはっは。宮廷魔術師も形無しだよねー」

 出たな危険人物!
 胡乱な目で見る先、両開きの入り口を全開に開けて王が意気揚々と入って来た。
 背後には官吏と護衛しかいない。
 どうやら王妃と王子はいないらしい。

 「まー君も割と粗忽ものっぽいけどねー。
 何で性転換するのに身体強化や精神強化しなかったかな。
 あれしてたら3日も寝てなかったんじゃない?」

 !?
 その手があったか!
 性転換する事しか頭になかった俺は、魔法あるあるのその存在をすっかり思いつかなかった。
 幾度となくメイドや使用人が使ってたのに!
 まあ、成功したし良いか。

 「あははははははははは!
 全然考え付かなかったみたいだね!」

 俺が百面相をしてたら王が腹を抱えて笑い出した。
 その通りだけど腹が立つ!
 くそー、幼児脳に高性能さを求めんなし!
 そうだ!まだ幼児だからいけないんだ!きっとそうだ!
 悔し目で王を見る。不敬罪が怖いから睨みはしない。
 保身大事。絶対。

 「ははっ、やっぱ良いね君(面白弄りがいあって)」

 うわー、何でこの王の言動には副音声が聞こえるんだろう。
 脱兎の如く走り去りたいトコだけど、相手の土俵(城内)じゃ意味無いしな。口を引き攣らせるに留める。

 「息子がさー。目の前で変身した君を偉く気に入ったみたいでさ」

 お?なんだ急に。
 変身ヒーロー物は世界の垣根を超えるって事か?
 まあ、好かれるのはやぶさかでは無い。
 ここから芽生える友情もありだろう。
 照れている俺に、王が爆弾を落とす。

 「どうしても嫁に欲しいんだってさ」

 ニヤニヤと厭らしく笑う王に殺意芽生えたい俺。しょうがないよネ。
 ていうか殺れるなら、殺っていいよネ。

 「よめらめじぇっらい!(嫁ダメ絶対)」

 両手のコブシでバフバフ布団を叩いて猛抗議する。

 「えー?なんでー?いいじゃん嫁。
 当主やるより楽よ?」
 「おれおとこー!!」
 「平気平気。跡継ぎじゃなきゃ同性結婚割といるよー」

 !?なん……だと?
 同性結婚が禁止されてないとは!自由恋愛バンザイ!
 結婚するなら女の子のが良いけど、恋愛は妊娠する心配のない男だと思ってたんだよね。
 女の大変さは身に染みてよーーーーくわかってるからな。
 女の子に無責任な付き合いはダメ絶対!女尊男卑上等!
 
 「れもおーじがよめならいーよ?」

 女の子のが良いだけで男の子も嫁になるならバッチOK!

 「ぶっ、くくく。わかった。言っとくよ」

 ニヤニヤ顔で噴き出した口を隠しながら王が言った。
 
 「でも、婚約はして貰うよ。
 これは政治的思惑もあるから覆させないよ。って言っても難しいか」

 いや意味はわかるけどさー。
 俺まだ2歳よ?もうじき3歳だけどさ。王子だって3歳だろ?
 いくら何でも相性もわからず婚約って……。
 前世一般小市民の俺には理解出来んよ。

 「陛下。それは仮婚約とお約束していたでしょう?」

 不服そうに首を傾げていたら母さんがフレディを抱っこして、王妃と王子と連れ立ってやって来た。

 「えー?そうだっけ?」
 「とぼけないで下さいまし」
 
 笑顔で詰め寄られて王が肩を竦めた。

 「ふふ。私としてはシシーの子がデイヴィと結婚してくれたら嬉しいわ」

 王妃が嬉しそうにお上品に優雅に微笑んで言った。
 シシーは母さんの愛称で、正式にはセシリア。女神の様な母さんにふさわしい良い名だ。
 デイヴィは第二王子の愛称だろう。確か我が家に来た時紹介された名前はデイヴィッドだった。
 因みに王がアイザック、王妃はレベッカ。第一王子は知らん。

 「あら、私もベッキーと親戚になれたら嬉しいわ」
 「ふふ。じゃあ、デイヴィには頑張ってアレックスを口説き落として貰わないとね」

 ママンズが井戸端会議の如く、和やかに談笑をしてる。
 だから嫁に来てくれるならバッチ来いだってばよ。

 「あのね、ぼくがんばるから、しゅきになってね」

 おうっふ。もじもじしながら言う幼児、可愛いなおい。

 「およめしゃんになっれくえるならいーよー(お嫁さんに来てくれるなら良いよ)」
 「うん!がんばっておよめしゃんになっれもらうね!」

 ん?何か話が噛み合わなかった気がする。
 およ?何だろう。幼児な王子の目が怪しく笑ってる気がする……?
 いやいやいや。相手は3歳児だ。それは無いだろう。気のせいだ。うん。


 この婚約話、全力で拒否ら無かった事に後悔する日が来るとはこの時は夢にも思わなかった。
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