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後章

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 ハウスに現れた植物の精は初めこそはわはわしてたけど、野菜ちゃん好きの俺としてはそんな奇跡な存在と話さない理由は無い。

 「そう!そうなんだよな!青く実を膨らませるトマトちゃんも可愛いけど、俺としてはやっぱり真っ赤に顔を染める姿にキュンとくる!」
 『そうねー。蜂に手伝って貰って受粉するのも良いけど、自分でめしべとおしべを引き合わせてあげた後に実るのも良いものよねー』

 同じ植物野菜ちゃんを好きな者同士、仲良く出来ない道理はない。
 案の定、俺と植物の精こと

 「ガジュマも野菜ちゃん達を愛してくれてて嬉しい」

 ガジュマはいとも簡単に打ち解けてみせたのだ。
 ただ問題点としては……。

 「あの、王妃陛下は如何なさったのでしょう?」
 「先程からお一人で喋っていらっしゃるわ」

 メイドさん達の動揺を隠せない視線。何を内緒話してるかは聞こえてこないけど大体何を言ってるかはわかる。俺が逆の立場でも同じこと思った筈だからな。言っとくが心の病じゃないからな!?可哀想な目はちょっと傷付く!
 と言いたいけど精霊を見れない人達からしたら幻覚疑われるだけだ。知ってる。チクショウなんて思わない。思わないんだからなっ。

 「ほう、こんな不毛な地に植物の精霊はと珍しい」

 ちょっぴし背後が寂しい気持ちになった所で温もりがその寂しさを掻き消してくれた。もちろんアクセルだ。
 俺は背中越しにアクセルを見上げる。顎のラインがくっきり見えるその顔は俺じゃなくて真っ直ぐ前を向いていた。

 「見えるのか?」
 「っふ。我を何だと心得る。四大魔王が一角、北の大魔王アクセルぞ」

 世界最強クラスは精霊すら見通すのか。
 流し目で俺を見る姿が恰好良くてドキリと心臓を跳ねたけど今はそれどころじゃない場面。

 「ここは極寒の地だからな。普段いるのは雪や冷気の精霊だ」

 初めて来た時はそれしかなかったもんな。あって窓際に花が活けてある位だったか。
 俺は来た当初の寒々しい景色を思い出して黄昏れた。

 「生後間もない姿、そしてこことの繋がりが深い。ハウス栽培で植物が増えたから生まれたのだな」

 黄昏れる俺の頭皮にちゅっちゅとキスを降らしながら言った言葉に、俺はガバリと身を起こした。普通ならアクセルの顎にクリティカルヒットをしそうな勢いだった筈なのに、アクセルは華麗に避けた上に体制を崩しかけた俺を支える神対応っぷりが惚れ惚れする。じゃなくて。

 「やっぱりここで生まれたんだ!」
 『そうよー。あたし達植物の精は寒いの苦手だからわざわざは来れないのー』

 初見の俺にはわはわしていたガジュマだけど、アクセルは見えて当然の態度だ。それより気付かなかったのと言わんばかりに呆れ返った顔に苦笑いで返す。

 「俺は精霊見たの初めてだし、基本ただの村人だから詳しい事は知らないんだ」

 そう返せばガジュマも目をパチクリさせた後で納得してくれた。
 クスリと笑ったガジュマはふわりと浮遊すると俺の鼻先に手を添えて俺の目をじっと見つめてくる。

 『んふふっ。この農場を一から育てたのがユタだったでしょ。言わばここの植物、ひいてはそれから生まれたあたしのお母さんみたいなもの。何より世界樹の加護を持った言わば界の申し子だからあたしが見えたのね』

 おお!世界樹からの祝福ってそんなところに嬉しい作用があったのか!お礼を言う内容が増えたな!
 うきうきしている俺をアクセルが慈愛の目で見つめつつ顔中にキスを降らせてくるけど、ゴメン。今は興奮のが勝ってるからアクセルがおざなりになってる。

 「それじゃあ世界樹の幹がある秘島へも案外その加護で行けたりしないかな!?」

 ずずいっと顔面を前に突き出した所為で、ガジュマが押し出される格好になってしまった。でもガジュマは気にも留めずにふわりとモロッコちゃんの枝に座った。

 『ユタは世界樹の場所に行きたいの?』

 モロッコちゃんの葉っぱを口に当てて、上目遣いに見上げるガジュマ。真面目にキリッてした顔をしてると幻想的な精霊感が醸し出される。
 これがさっきまではわはわしていたガジュマかー。とか言いたくなる程雰囲気が変わったガジュマに大きく頷くと、

 「そうなんだ。俺をアクセルと一緒に此処に送り出してくれたお礼したくて」

 俺も雰囲気に合わせてキリリと顔を引き締めた。

 『連れて行きましょうか?』
 「うん。行きたいんだ」
 『わかったわ。今から行く?』
 「うん。出来るだけ早く行きた……」

 うん?あれ?
 何だか会話が思ってなかった方向で成立し掛けてない?
 俺は回らなくなった頭で困った様にアクセルに振り返った。
 アクセルは頷き改めてガジュマに向き直った。

 「精霊はあの島へ行き来出来るのか」
 『あら、当たり前じゃない。あたし達精霊の帰る場所だもの』

 なんてこったい。
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