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 鍋パは滞りなく終わった。
 詳細を思い出さないのは、力の入らないテンに甲斐甲斐しく食べさせるヴェイズの二人が……うん。砂吐きそうだから止めとこう。
 テンも鍋食べてたら途中で復活してたし、安定の生命力。テンはご飯だけ与えてたらどこまでも高笑いしていられそうだ。

 「ふあー!食った食った!やっぱ暖かいマンマのご飯最っ高~!」

 膨れた腹を撫でて満足気に息を吐くテン。だから俺はお前のママじゃねえっつの。

 「そうか。この人間はテンにとって母みたいな存在なんだね」

 恋愛対象外と判断したのか安心した顔でテンに微笑みを向けるヴェイズ。だから母じゃねえよ。
 二人にジト目を返したいが我慢だ俺。何故なら俺に神と勇者を相手取れる力は無い。
 グッと拳を握り震わせ張り付けた笑顔で成り行きを見守る。

 「ん~……。ん。そうかも。だってさ、この鍋なんてメッチャ日本じゃん。故郷の味じゃん。なのに転生者じゃないんだぜ?って事は飯の母だろ」

 どんな理論だ。

 「くふっ。そうだね。テンが言うならこの人間はこの島の母だね。
 母なら息子に手は出さない、でしょう?」

 最後の意味深に目を光らせて俺に言ってたけど、そんなんしなくてもテンには死んでも手を出さないし、むしろ手を出されて困ってたの俺なんだけど。あと母じゃねえ。

 「ほう。では差し詰めユタの伴侶の我は父だな」
 「ちょっと。魔王まで俺を女にしたいのか?」
 「む。女人のユタか……。それは不安でならんな、今のまま男でいて欲しい」

 そうだね。貧弱だもんね俺。これで更に女だったら貞操がいくつ有っても足らん。良かった、男で。この島にいる限りは安全だけどさ。

 「ところで」

 男の俺で良いって言って貰えてちょっと照れてたら、テンが胡乱な目で俺と魔王を見た。
 意味がわからず首を傾げて先を促すと、何やら半眼でジ―――っと穴が開きそうな程見られた、所でヴェイズがテンの目を塞いだ。見過ぎたからの嫉妬だな。

 「手ーじゃまっ。じゃなくて、なんでユタはいつ迄も魔王を魔王って呼んでるんだ?」

 ?????
 は?

 「え?ゴメン。言いたい事わかんない」

 だって魔王は魔王じゃん。北のって付けろとでも?北の魔王って長いよ。此処には他に魔王いないのに。

 「俺だってヴィーの事ヴィーって呼ぶんだぞ?ユタは何で魔王の名前呼ばないんだ?」

 あ。あああああああ。そういう事か。そうかー、テンの前世は魔王いなかったのかな。

 「我等四大魔王に名は無い。始まりの魔王であり、親なき我等に名を付ける者はいないし、名などなくとも我を呼ぶ声は届く」

 同じく親なき神、転生者ではない原初の神々も名は無い。名が有るのは親がいるか、転生者だけだ。

 「そうだね。僕もこの世界での名は無いよ。ヴェイズは前世の名だから」

 テンのお馬鹿っぷりが可愛いのか、ヴェイズが慈愛の目でテンを愛でている。
 テンは状況が掴めないのか、ポカンと大口を開けて呆けている。

 「ええ?ってことは……、ヴィーは外人だったのかー」

 呆けたまま訳のわからない事を言っている。
 ヴェイズが「くふくふ」笑ってる所を見ると当たってはいるけど、そこじゃ無いよねって感じかな。
 テンは暫く「はー」だの「ほー」だの言って、頭の整理が付かないらしく、ぼーっとしながらお茶を啜った。
 一口。二口。そして空になった湯呑みを覗き込み、ぼーっとしたまま湯呑みを置いた。
 一拍。二拍。間が空く。

 「……ええええええええええ!?」

 そして頭が追い付いたテンが絶叫を上げた。

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