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 結局あの後何故か魔法で癒してくれず、やたらとベタベタに甘々に甘える魔王のお陰で初デートは砂漠のオアシスで星を見て終わった。いやキレーだったけども。
 せめてもと思ってオアシスに生えてたヤシの実ちゃんはお持ち帰りした。
 事後に魔王に手ずから飲ませて貰ったんだけど、脱力した俺を抱えたままなもんで色んな意味で矢鱈甘く感じた。いやむしろ甘過ぎて本来の味がわかってない気がする。
 という訳で改めて味わう為にも、それに捨てる所が無いという素敵植物に俄然興味もあるから持ってけるだけ持ち帰ったさ。

 「という訳で作ってみました」

 明くる日の食卓。テーブルに並べた料理に胸を張って両手で示した。
 先端をくり抜いて中身はジュースとココナッツチップに、外側はお椀にしてジャガイモちゃんの冷製スープを入れてみた。見た目の色似てるし。
 今日はこれとパンとサラダとソーセージと目玉焼きが朝食だ。

 「うむ。頂こう」

 席に座った魔王。お椀だから手に持って直接飲むのに優雅に見える。イケメンは何をしてもイケメンという事か。
 いやそれより、どうかな?ココナッツチップなんて初めてだし、冷製スープも魔王にはまだ作って無かった。
 俺はお椀を傾け飲む魔王の口元を見てソワソワした。

 「うまい……」

 スープを口にして呆けた様な溜息を吐いた魔王が一言そう漏らした。
 うしっ。魔王の口にも合ったみたいで良かった。

 「へへ。俺も冷製スープは滅多に作んないからな。久々過ぎてちょっと緊張した。
 でも、魔王には色んな俺の料理食べて欲しくて」
 「ユタ……!」

 はにかみ頭を掻いて言う俺に、魔王は嬉しく思ってくれたみたいだ。頬に朱を指して両目を見開く魔王の顔は、喜色に満ちていた。
 やっぱ俺ばっかりいつも喜ばせて貰ってるのもな。俺だって魔王を俺の手で幸せにしたいじゃん。

 「おお……、この菓子も大変美味である」

 乾燥させてチップス状にしたヤシの実ちゃんの中身の白い部分。それを指で摘み美味しそうにパリパリと食べてくれた。美味しいよね、コレ。俺も味見して気に入っちゃった。

 「また取りに行こうな」
 「次のデートの約束だな。いやしかし次はまた別の場所に行きたいものだが」
 「確かに。砂漠があったなら熱帯も在りそう。どうせならバナナちゃんとかパイナップルちゃんも探したい」
 「ああ、行こう。我とユタにはいくらでも時間が有るのだから」

 隣に座る俺の肩を抱き寄せ、頭上に頬を寄せて言う魔王。頭上は見えないけど、多分穏やかな優しい笑みをしてるに違いない。
 でも……。

 「いくらでもは無いだろう。俺は人間だから後数十年しか一緒に居れない」

 苦笑して返した。

 「……」

 それに無音で応じる魔王。
 ちょっと待て。その無音ちょっと待ってみようか。
 顔は見えないのに悲しみの無音でなく、含みを持った無音に感じるのは俺の気の所為か!?

 「え?ちょ、え?魔王……?何か言って?」

 言い様の無い不安に駆られた俺は、肩に乗った魔王の手を握って揺すって懇願する。
 っふ。という軽い笑い声が頭上で漏れた。

 「ふむ。今日もいい天気だ。早めに行って野菜や果物に家畜の世話もしよう」

 言って肩の手を俺の腿下に潜り込ませたと思ったら、そのまま持ち上げ何時もの魔王椅子状態になった。
 付き合い始めてから食事は何時もこれだ。別々に座っても素知らぬ顔で俺を膝に乗せてご満悦になる魔王に、俺は何も言えない。



 ああ、誤魔化された……。



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