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 ◇魔王サイド◇

 最近の我はどこかおかしい。

 「これ以上やられたら朝起きれなくなってご飯抜きになる」

 などと情事の最中にキッと睨みつけてられ、ピタリと行為を止めてしまった。
 潤んだ青い瞳をキラキラ輝かせての上目遣いがなんとも愛くるしく感じる。
 見た目はどこにでもいる村人だというに、これ程心に響いた事が今まであったであろうか。いや無いな。
 多くの男女を抱いてきたし、潤んだ上目遣いなど当たり前にされていた。
 なのに……。ユタの上目遣いのなんといじらしい事か。しかも言ってる内容が明日の食の心配とか。

 「我が作ってやろうか?」

 余りに可愛すぎてついその様な事が口について出てしまった。
 料理など生まれてこのかた一度もしたことなどないというに。
 
 「えっ!?魔王料理出来るのか!?」

 ユタに心底意外そうに驚かれては今更出来ぬとは言えぬではないか。

 「……任せるがよい」

 っく。料理など我の手に掛れば造作もないだろう。

 「うわ。すげ。俺魔王の手料理食べれんのか~」

 そんなに楽しみに笑みを深めるな。
 我はニコニコニコニコ情事も忘れて明日を思うユタに、それ以上の手出しが出来なくなってしまう。

 おかしい。我が一度ならず二度までも情事を途中で止めるなど。有ってはならぬ異常事態だ。
 そうは思うものの、この穏やかな一時に柄にもなく落ち着く己も悪くは無い。とも思ってしまっていた。



 翌日。
 我はユタより早く起きて下調べをしようと画策していた。故にユタの起きる時間より早めに目を覚ましたのだ。

 「おはよう魔王」

 ……。何故起きておる。

 「へへっ。魔王の手料理なんて前代未聞なことが楽しみ過ぎて早く目ぇ覚めちった」

 可愛すぎか。
 ヘラリと笑うユタに我は軽い眩暈を覚えた。

 「ふちゅ!?」

 我を翻弄しようなど不遜にも程があるその口など塞いでくれるわ。

 「ん~~~っ!」

 ついでに朝立ちしておったユタのを出してやったのに何故かプンスコと怒られてしまった。人間はわからぬな。

 「さて……」

 たっぷりユタの力が抜けるまで口内を堪能して満足した我は、キッチンへ立つ。
 何があるのかを把握し、今までのユタの行動を思い浮かべた。
 たしかユタはこの玉子を角にぶつけてフライパンで焼いていたな。

 めしゃ。べしゃ。

 うん?
 玉子は潰れて床に落ちてしまった。なんと脆弱な。しかたないもう一度。

 めしゃ。べしゃ。

 ……。なんだこの腹の立つ白い玉の分際で。
 いや、そもそも中身をフライパンに移せば良いのだろう。それなら魔法ですれば良いのだ。

 じゅわ!

 ふふん。ほおれこんなもの、我の手に掛れば何てことはない。
 焼いたら皿に移せば良いのだな。
 む?動かぬ。何故だ、フライパンに張り付いてしまっているではないか。ユタは簡単に滑らせて落としておったのに。
 いやまて、これも魔法で……。ふん、我に掛ればこんなものよ。
 あとはベーコン……は昨日使い切ったと申しておったな。仕方ないこの肉の塊を焼いてやろう。丸焼きならした事あるし容易い。
 それにサラダか。まあ切って盛れば良いのだろう。

 「ユタよ。作ってやったぞ。早う来い」

 テーブルに並べて部屋まで呼びに行けば、ユタはまだ先程の行為から立ち直っていなかった。
 上気した肌をむくりと起こし、もそもそと布団から這い出てくる。
 襲いたい。そのままベッドに縫い付けガンガンにその秘孔を突き犯し喘がせたい。
 欲求はもたげ、ごくりと唾を飲み込み一歩を踏み出した。
 ……が、

 「ふわ。朝飯のにおい~」

 ふらふらと匂いの元へ目指すユタに、又しても我はその動きを止めてしまった。

 矢張り我はどこかおかしい。くそっ、転生勇者めが、きっと勝てぬと知って我に何か呪術的な事でも仕掛けたのであろう。

 出なければ我が人間相手にこうも調子を崩す訳が無いのだ。
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