繋がる想いを

無月

文字の大きさ
上 下
28 / 36
恋人編

14.過去と今

しおりを挟む
2月。
もうそんな時季が来た。

思い起こせば去年のバレンタインには元カノと結婚の話をしていたんだ。
それがまさか一年もしない内に新しい恋人が出来るなんて、当時の俺は思いもしなかった。

「どうするか……」

悩むのは当然。
去年までは彼女が俺にくれるものだった。
けど今付き合っているのは同性。男同士でチョコを貰うも無いだろう。
でもなー。折角のバレンタイン。去年の苦い思い出を上書きしたい気持ちもあるし、良い日にしたい。したい、が。去年の二の舞になるのも怖い。
いや。響也がそういう事する人じゃないのはわかってる。わかってるけど、一種のトラウマになってんのかなぁ。

「俺ってこんなに弱かったっけ」

手にした市販のチョコを見て思わず呟いた言葉。
それに対する反応なのか、男なのにバレンタインコーナーでチョコを持っている事に対する好奇心なのか、視線をビシビシと感じてハッとする。
冷や汗を掻いた俺はチョコを棚に戻して足早にその場を離れた。
いかんいかん。今日の食材を買いに来ただけだった。
その場を離れてもチョコの事が頭から離れなくて、俺は今までで一番の速さで買い物を終わらせ響也宅へ帰宅した。

「おじゃまします」

合鍵で開けて中へ入れば温められた空気にホッとする。
リビングに入ると丁度響也が尊に勉強を教えているところだった。

「いらっしゃい侑真」
「おかえり侑真パパ」

同棲をしている訳じゃないのに尊はいつでもここが俺の帰る場所だと主張してくれる。その姿に俺も響也もむず痒い苦笑を漏らしてしまう。

「ただいま尊」

買った食材をキッチンに置いてコートを脱いだら俺も尊の隣に座った。
広げている教材を見るに英語の勉強中か。凄いな今の小学生はこんなに深い所まで教わるのか。これ最早移住出来るレベルじゃないか?
幸いにも俺も英語はそこそこ出来る。普段使わないから忘れかけてたけど、響也の両親が海外暮しなのもあって最近再勉強をしだした俺と同レベルの問題を解いている。尊が凄すぎて俺の立つ瀬がない気がする。

「凄いな。日常会話なら普通に出来るんじゃないのか?」

俺が尊の頭を撫でて褒めると、尊はとても真面目な顔で俺を見た。

「何時でも海外に移住出来るようにしたいからね」
「え!?尊留学したいのか?そんな直ぐ?折角俺とも仲良くなってこれからなのに」

いまさら響也と2人きりな生活に戻るのは恥ずかしい半分、寂しい半分だな。せめて中学上がるまではこのままパパの元にいて欲しいと願うのは身勝手か……。

「留学じゃないよ。父さんと侑真パパが結婚するにはカナダとか行かなきゃでしょ。勿論その時には僕も連れて行ってくれるんだよね?」
「「ぐっ!」」

尊の思いがけない言葉に俺と響也の息は同時に詰まった。

「あはは。なぁに?2人して。仲が良くて良いけど」

この子は何処まで大人の事情を把握しているのだろうか。末恐ろしすぎて聞くのが怖い。

「あ。それとも新婚生活には僕みたいなコブは邪魔だから置いて行くの?」

捨てられた子犬の目で俺を見上げる尊。
俺は父性がせり上がり爆発して尊を抱き上げた。そのまま俺の膝の上に座らせて抱き締める。

「勿論一緒だ!!置いて行ったりなんかするもんか!」
「本当?良かったぁ」

弱々しく抱き返してくれる尊が尊い。
抱き締めているが故に俺の目には尊の顔が見えない。けれどさぞかし寂しい目をホッとさせてくれていた事だろう。
そう思っているのに何故か尊を見ていた響也は狼狽えていた。その理由は獲物を捕らえた肉食獣の目で響也を見て親指を立てていた事だなんて知らない俺は、ただただ響也の様子に不安が募る。

「若しかして、やっぱり、響也は俺と結婚まではしたく……ない……のか」

さっきのスーパーでチラリと頭を過った事をまた過らせて、心臓が、痛い。
思わず尊を抱く手に力が籠る。もぞりと動く尊にハッとして力を緩めたけど。
でもその動きに触発されたのか、響也が珍しく尊ごと俺を抱き締めに来た。

「きょ……」
「そんな訳。無いだろう。共に人生を歩みたい相手だから、私は侑真と付き合っているのだよ」

響也と名前を呼ぶ前に吐き出すみたいに告げられた言葉に、俺の心がキュウッと掴まれる。
トラウマが、トラウマじゃなくなる。

「それじゃ、俺と、結婚を前提に付き合っててくれますか?」

過去は、

「勿論。初めからそのつもりだよ」

今、ただの過去になる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ネクタイで絞めて

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:さや いんげん 様 ( Twitter → @sayaingenmaru ) ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) 真駒摘紀(まこまつみき) はクールビズ期間が嫌いだ。周りは薄着になり、無防備に晒された首筋を見ないよう俯き、自身の首を掻きむしる。それをいつも心配してくれるのは、直属の上司である 椎葉依弦(しいばいづる) だ。優しさを向けられ、微笑む彼の顔を真駒はよく憶えていなかった。 ――真駒が見ているのは、椎葉の首筋だけだから。 fujossy様で2019/8/31迄開催『「オフィスラブ」BL小説コンテスト』用短編小説です!! ちょっと変わった性癖を持つ上司と、ちょっと変わった性癖を持つ部下の恋物語です!! fujossy様のTwitter公式アカウントにて、書評をいただきました!! ありがとうございました!! ( 書評が投稿されたツイートはこちらです!! → https://twitter.com/FujossyJP/status/1197001308651184130?s=20 ) ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!!

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

エンシェントリリー

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

処理中です...