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出会い編
11.急展開
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最近仕事が忙しい。
それは響也も同じみたいで、互いの時間が合わない日々が続いている。
幸いにも互いの忙しい日が重ならないお陰で、響也が出張営業に行く日は俺が尊を見れているから尊に寂しい思いはそこまでさせていない。筈。と思いたい。
尊の学校を優先させたいから響也が出張の時は俺が留守を預かる形にしてる。合鍵を預かったのなんてもう随分前だ。俺の家の合鍵は響也も尊も持ってる。
「尊ー手伝ってくれ」
「うん。何したら良い?」
「その皿にご飯よそってここに置いてくれ」
今日の夕飯はカレー。何時もの癖で響也の分まで作ってしまったけど、明日の朝カレーパンにしても良いから良しとしよう。
食事の時間はTVを見ない。これは響也の教育方針。俺もこの家で食べる時にはそれに倣っている。代わりに今日有った事を互いに話しているからシンと静まり返ってはいない。
静かな食事は寂しいんだよな。折角一緒に食べてるんだし会話はしたい。
「父さん明日は帰って来れるみたい。残ったカレーは冷蔵して取っておいて良い?」
おお、今回は早かったな。営業が旨く行ったのかな。
俺は良い笑顔で頷いた。
「勿論。響也も俺のカレー好きだもんな。尊は優しいな」
向かい合って食べてるから頭を撫でられないのが惜しい。けどうちの子が良い子に育ってくれていて俺は嬉しい。
ニコニコしながらカレーを平らげると、鍋に残っていたカレーを耐熱容器に入れて荒熱を取った後で冷蔵庫に入れた。
皿洗いは尊と2人で行う。普段は響也とやってその間尊は勉強をしてるが、響也がいない時はこうして家事を手伝ってくれている。本当に良い子。
それが終われば風呂に入って歯を磨いて寝る。
尊と入りたい父心はあるが、尊はいつも1人で入る。一緒に入ろうと誘うと何故か、「なら父さんと入りなよ」って言って俺を惑わすのは勘弁して欲しい。多分お年頃な尊なりの意趣返しなんだろうけど、俺には心臓と理性に悪い。
歯磨きも、洗面台には俺のマイ歯ブラシセットが置いてある。尊の分も合わせて買いに行ったんだけど、何故かデレが発動した尊が折角ならと響也も含めてお揃いで合わせたいと言い出し、ドギマギした俺が変に思われない様に了承するのは大変だった。
寝床は幸いにも客間があるからそこで寝泊まりさせて貰っている。
こうして響也の家で響也の居ない1日が過ぎていく。
深夜。
カチャリとした音が玄関からする。
とは言え俺はもう夢の中である。その程度の音じゃ覚醒には至らない。
玄関の開く音と閉まる音が静かにして、カチャリと鍵を閉める音もする。響也が留守の時には何かあっても良い様にチェーンロックはしていない。それが掛かる音がする。
ヒタヒタと押し殺した足音が廊下を行き、そのまま尊の部屋を開く音がしてそして閉じる音がする。またヒタヒタと廊下を行く音がして、俺は夢心地に響也が響也の部屋に行くんだなと思っていた。
なのに、開いたのは俺の居る客間で。
「……」
無言の気配が俺の元へと来る。
流石に何事かと俺の脳は覚醒を始めるが、まだ起きるには至らなくて。
「寝ているか」
こそりと耳元で呟かれた小さな声。確かに響也だと確信した声に、しかし未だ目を開けるには至らず、けれど起きようと心は指令を出し続けている。
これが不審者だったなら飛び起きもしたんだろうが、響也の声に寧ろ安心して体は休もうとする。
起きるに起きれずにいると、ふと唇に風が当たる。暫く近くに温かい気配を感じていたが、それは頭上へと移動して。
そして額に柔らかいものが当たった。
流石にビックリして覚醒はしたものの、感じた柔らかいものの心当たりが信じられず目は開けられないまま体が固まってしまった。
俺の側では戸惑った気配がして、後辞さる様にそそくさと部屋を出て行った。
え?
今のって。
混乱する頭に響也の部屋からだろう扉が閉まる音がして、俺は漸く目を開けた。
のろのろと上体を起こし、額に触れた。
その触れた感触は先程感じた柔らかいものより固い。もう片手で自分の唇に触れる。
ああ、この柔らかさだ。
そう感じた瞬間。俺の顔は一気に赤く熱くさせたのだった。
それは響也も同じみたいで、互いの時間が合わない日々が続いている。
幸いにも互いの忙しい日が重ならないお陰で、響也が出張営業に行く日は俺が尊を見れているから尊に寂しい思いはそこまでさせていない。筈。と思いたい。
尊の学校を優先させたいから響也が出張の時は俺が留守を預かる形にしてる。合鍵を預かったのなんてもう随分前だ。俺の家の合鍵は響也も尊も持ってる。
「尊ー手伝ってくれ」
「うん。何したら良い?」
「その皿にご飯よそってここに置いてくれ」
今日の夕飯はカレー。何時もの癖で響也の分まで作ってしまったけど、明日の朝カレーパンにしても良いから良しとしよう。
食事の時間はTVを見ない。これは響也の教育方針。俺もこの家で食べる時にはそれに倣っている。代わりに今日有った事を互いに話しているからシンと静まり返ってはいない。
静かな食事は寂しいんだよな。折角一緒に食べてるんだし会話はしたい。
「父さん明日は帰って来れるみたい。残ったカレーは冷蔵して取っておいて良い?」
おお、今回は早かったな。営業が旨く行ったのかな。
俺は良い笑顔で頷いた。
「勿論。響也も俺のカレー好きだもんな。尊は優しいな」
向かい合って食べてるから頭を撫でられないのが惜しい。けどうちの子が良い子に育ってくれていて俺は嬉しい。
ニコニコしながらカレーを平らげると、鍋に残っていたカレーを耐熱容器に入れて荒熱を取った後で冷蔵庫に入れた。
皿洗いは尊と2人で行う。普段は響也とやってその間尊は勉強をしてるが、響也がいない時はこうして家事を手伝ってくれている。本当に良い子。
それが終われば風呂に入って歯を磨いて寝る。
尊と入りたい父心はあるが、尊はいつも1人で入る。一緒に入ろうと誘うと何故か、「なら父さんと入りなよ」って言って俺を惑わすのは勘弁して欲しい。多分お年頃な尊なりの意趣返しなんだろうけど、俺には心臓と理性に悪い。
歯磨きも、洗面台には俺のマイ歯ブラシセットが置いてある。尊の分も合わせて買いに行ったんだけど、何故かデレが発動した尊が折角ならと響也も含めてお揃いで合わせたいと言い出し、ドギマギした俺が変に思われない様に了承するのは大変だった。
寝床は幸いにも客間があるからそこで寝泊まりさせて貰っている。
こうして響也の家で響也の居ない1日が過ぎていく。
深夜。
カチャリとした音が玄関からする。
とは言え俺はもう夢の中である。その程度の音じゃ覚醒には至らない。
玄関の開く音と閉まる音が静かにして、カチャリと鍵を閉める音もする。響也が留守の時には何かあっても良い様にチェーンロックはしていない。それが掛かる音がする。
ヒタヒタと押し殺した足音が廊下を行き、そのまま尊の部屋を開く音がしてそして閉じる音がする。またヒタヒタと廊下を行く音がして、俺は夢心地に響也が響也の部屋に行くんだなと思っていた。
なのに、開いたのは俺の居る客間で。
「……」
無言の気配が俺の元へと来る。
流石に何事かと俺の脳は覚醒を始めるが、まだ起きるには至らなくて。
「寝ているか」
こそりと耳元で呟かれた小さな声。確かに響也だと確信した声に、しかし未だ目を開けるには至らず、けれど起きようと心は指令を出し続けている。
これが不審者だったなら飛び起きもしたんだろうが、響也の声に寧ろ安心して体は休もうとする。
起きるに起きれずにいると、ふと唇に風が当たる。暫く近くに温かい気配を感じていたが、それは頭上へと移動して。
そして額に柔らかいものが当たった。
流石にビックリして覚醒はしたものの、感じた柔らかいものの心当たりが信じられず目は開けられないまま体が固まってしまった。
俺の側では戸惑った気配がして、後辞さる様にそそくさと部屋を出て行った。
え?
今のって。
混乱する頭に響也の部屋からだろう扉が閉まる音がして、俺は漸く目を開けた。
のろのろと上体を起こし、額に触れた。
その触れた感触は先程感じた柔らかいものより固い。もう片手で自分の唇に触れる。
ああ、この柔らかさだ。
そう感じた瞬間。俺の顔は一気に赤く熱くさせたのだった。
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