繋がる想いを

無月

文字の大きさ
上 下
11 / 36
出会い編

11.急展開

しおりを挟む
最近仕事が忙しい。
それは響也も同じみたいで、互いの時間が合わない日々が続いている。
幸いにも互いの忙しい日が重ならないお陰で、響也が出張営業に行く日は俺が尊を見れているから尊に寂しい思いはそこまでさせていない。筈。と思いたい。
尊の学校を優先させたいから響也が出張の時は俺が留守を預かる形にしてる。合鍵を預かったのなんてもう随分前だ。俺の家の合鍵は響也も尊も持ってる。

「尊ー手伝ってくれ」
「うん。何したら良い?」
「その皿にご飯よそってここに置いてくれ」

今日の夕飯はカレー。何時もの癖で響也の分まで作ってしまったけど、明日の朝カレーパンにしても良いから良しとしよう。
食事の時間はTVを見ない。これは響也の教育方針。俺もこの家で食べる時にはそれに倣っている。代わりに今日有った事を互いに話しているからシンと静まり返ってはいない。
静かな食事は寂しいんだよな。折角一緒に食べてるんだし会話はしたい。

「父さん明日は帰って来れるみたい。残ったカレーは冷蔵して取っておいて良い?」

おお、今回は早かったな。営業が旨く行ったのかな。
俺は良い笑顔で頷いた。

「勿論。響也も俺のカレー好きだもんな。尊は優しいな」

向かい合って食べてるから頭を撫でられないのが惜しい。けどうちの子が良い子に育ってくれていて俺は嬉しい。
ニコニコしながらカレーを平らげると、鍋に残っていたカレーを耐熱容器に入れて荒熱を取った後で冷蔵庫に入れた。
皿洗いは尊と2人で行う。普段は響也とやってその間尊は勉強をしてるが、響也がいない時はこうして家事を手伝ってくれている。本当に良い子。
それが終われば風呂に入って歯を磨いて寝る。
尊と入りたい父心はあるが、尊はいつも1人で入る。一緒に入ろうと誘うと何故か、「なら父さんと入りなよ」って言って俺を惑わすのは勘弁して欲しい。多分お年頃な尊なりの意趣返しなんだろうけど、俺には心臓と理性に悪い。
歯磨きも、洗面台には俺のマイ歯ブラシセットが置いてある。尊の分も合わせて買いに行ったんだけど、何故かデレが発動した尊が折角ならと響也も含めてお揃いで合わせたいと言い出し、ドギマギした俺が変に思われない様に了承するのは大変だった。
寝床は幸いにも客間があるからそこで寝泊まりさせて貰っている。
こうして響也の家で響也の居ない1日が過ぎていく。

深夜。
カチャリとした音が玄関からする。
とは言え俺はもう夢の中である。その程度の音じゃ覚醒には至らない。
玄関の開く音と閉まる音が静かにして、カチャリと鍵を閉める音もする。響也が留守の時には何かあっても良い様にチェーンロックはしていない。それが掛かる音がする。
ヒタヒタと押し殺した足音が廊下を行き、そのまま尊の部屋を開く音がしてそして閉じる音がする。またヒタヒタと廊下を行く音がして、俺は夢心地に響也が響也の部屋に行くんだなと思っていた。

なのに、開いたのは俺の居る客間で。

「……」

無言の気配が俺の元へと来る。
流石に何事かと俺の脳は覚醒を始めるが、まだ起きるには至らなくて。

「寝ているか」

こそりと耳元で呟かれた小さな声。確かに響也だと確信した声に、しかし未だ目を開けるには至らず、けれど起きようと心は指令を出し続けている。
これが不審者だったなら飛び起きもしたんだろうが、響也の声に寧ろ安心して体は休もうとする。
起きるに起きれずにいると、ふと唇に風が当たる。暫く近くに温かい気配を感じていたが、それは頭上へと移動して。

そして額に柔らかいものが当たった。

流石にビックリして覚醒はしたものの、感じた柔らかいものの心当たりが信じられず目は開けられないまま体が固まってしまった。
俺の側では戸惑った気配がして、後辞さる様にそそくさと部屋を出て行った。

え?

今のって。

混乱する頭に響也の部屋からだろう扉が閉まる音がして、俺は漸く目を開けた。
のろのろと上体を起こし、額に触れた。
その触れた感触は先程感じた柔らかいものより固い。もう片手で自分の唇に触れる。

ああ、この柔らかさだ。

そう感じた瞬間。俺の顔は一気に赤く熱くさせたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トーク・サイレンス・スローリィ

穂祥 舞
BL
初めて通学に満員電車を使うことになった晟一(せいいち)は、ある朝電車の中で倒れそうになる。隣に立っていた会社員に助けられたが、彼は晟一が礼を言っても笑顔を返すだけだった。彼は唖者で、手話ができない晟一は、彼と筆談を交えながら、電車の中で交流を深める。しかし楽しく心休まるひとときは、そう長くは続かず……。 舞台は関西です。fujossyさんの「5分で感じる『初恋』コンテスト」参加作品。短編は得意でないうえ、お題が「初恋」=主人公が高校生というのも未知の領域ですが、お楽しみいただければ幸いです。

リナリアの夢

冴月希衣@商業BL販売中
BL
嶋村乃亜(しまむらのあ)。考古資料館勤務。三十二歳。 研究ひと筋の堅物が本気の恋に落ちた相手は、六歳年下の金髪灰眼のカメラマンでした。 ★花吐き病の設定をお借りして、独自の解釈を加えています。シリアス進行ですが、お気軽に読める短編です。 作中、軽くですが嘔吐表現がありますので、予め、お含みおきください。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...