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出会い編
10.運動会
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秋と言えば運動会。
最近じゃ春に行う学校もあるらしいが、尊の学校は従来通りに秋に行う。
大学付属のその小学校では本来部外者が応援に行く事は出来ない。セキュリティの問題があるから仕方ない。
そう思って諦めていたのに何故か俺は許可が出た。
「どうして俺は許可されたんだ?」
今日の晩御飯である酢豚を作りつつ隣に立つ響也に尋ねる。響也は天津飯を作っている。昨日TVでやっているのを見て中華な気分になったからだ。因みに尊は宿題を終えた後の予習復習に余念がない。
「尊の親権を私に移すのにとても尽力してくれていただろう」
そう、尊は今響也の苗字を名乗っている。親権は無事に響也に移った。まあ、あんな毒母相手ならそうなるよな。
そして俺は力の限り手を貸した。だって響也の子可愛い。響也の子育てたい。
もの凄く不純な動機だったわけだけど、勿論そんな事は表に出さないから世間様はただの良い人として認識されたのだろう。
「その事は評価されていたし、何より尊が先生やクラスメイトを説得してくれてね。事情を知っていた彼等がそれに応えてくれたのだよ」
うむ。良い事はするものである。
来れるかいって聞く響也。行かないでか。行きますとも。行かないという選択肢など初めからない。
という事で運動会当日。
保護者席は升席だった。すげえな大学付属。え?別にこれが普通じゃない?此処が特殊なだけ?そうは言われても付属学校に行ったことが無い俺にはわからない。
席は用意されているからシートは要らず。なんなら頼めば昼食も一流のコックが作った食事が出てくるらしい。
が。
折角の運動会だぞ。手作り弁当持ってくに決まってる。
朝から響也と詰め合わせた中身は尊が蓋を開けるまで内緒だ。
「お、尊の番だ」
尊の出る種目は玉入れ。先生によれば尊自ら名乗りを上げたらしい。俺には言わないが響也にはキャッチボールの成果を俺に見せたいと言ったらしい。何それうちの子可愛い。
「よーし!良いぞ!尊!落ち着いて一つ一つ投げるんだ!ナイスコントロール!」
そんなん聞いたら応援にも熱が入るってもんだ。
隣に座る響也も無表情ながら手に持つメガホン(俺が渡した)を握りしめて目を離さない。目には熱が籠っているから真剣に応援しているようだ。
玉入れは惜しくも2位に終わったが、尊が沢山入れていたのは見ていたからな。後で精いっぱい労おう。
「凄かったな、尊」
尊の出番が終わり俺達も一息吐く。
応援で枯れた喉を水筒のお茶で癒し、響也にも勧める。
響也はコップを受け取り飲むと、静かに息を吐き出した。思いの外熱を入れていたらしいな。
「凄い。あの子があんなに巧く玉を入れられるなど……。これも侑真のお陰だ。私は侑真に出会ってから幸運ばかりに出会っている」
「ははっ、何だそれは大げさな。そう言われるの嬉しいけどさ」
「大げさなものか。侑真はいつも私に特別をくれる」
特別。
好意を抱く相手に言われてドクリと鼓動が強く脈打つ。
勘違いしそうになる都合の良い頭に、俺達が男同士だという事を強く意識させて何とか落ち着かせる。
そう、なんだよな。響也も男……なんだよな。
恋人にはなれない。だからせめて親友になりたい。恋人の次に近くにいられるように。
「そんなの。俺だって響也に貰ってるんだからお相子だ」
「私が?恥ずかしい所しか見られていないと思うが」
「こんなに楽しい時間。響也とだから過ごせてるんだぜ。尊もさ、本当に良い子で自分の子の様に接しさせてくれて。これが特別じゃなかったらこの世に特別なんてないんじゃないかな」
だから。新しい恋人が出来ても俺を傍に置いてくれよ。
俺は、多分もう響也以上に好きになれる人が現れる気はしないんだ。今まで付き合ってきた誰よりも、俺はもう響也に夢中なんだから。
その後は昼食の時間になるまで他所の子の、けれど尊と同じチームの子を応援して過ごした。
その昼食時間。
応援席から俺達の待つ升席まで来た尊は、並んだ弁当箱に目を輝かせた。
「凄い。手作りのお弁当なんて」
「そんなに感動されるとハードル上がるな」
「だって今まで学校のシェフが作ったお昼だったから」
ああ。それっぽい。
そうかー。それならもっと気合入れて作ってやれれば良かったな。来年はもっと頑張ろう。
「じゃあ初手作り弁当だな。開けてみな」
「うん……わあっ」
無表情に見えるその顔に、ワクワクとした擬音を背負ってソロソロと開けた尊。可愛い。開けた瞬間嬉しそうに綻ばした顔、プライスレス。
中身はおにぎりと稲荷ずし、唐揚げ、玉子焼きにタコさんウインナーの定番と栄養バランスを考えて彩り野菜達。デザートにフルーツもある。
「憧れの唐揚げのお弁当。おにぎりと稲荷ずしなんて、なんて贅沢なの」
そんなに喜ばれると朝から作った甲斐もある。
俺は響也と視線を合わせて互いに労った。
午後はチーム対抗のダンスから始まる。欲張っておにぎりと稲荷ずしを全部食べようとする尊を宥めるのは少し大変だった。
何時もは我が儘を言わない尊の欲張りに、心を鬼にして帰り掛け公園で残りを食べると約束して午後の競技に送り出したのだった。
最近じゃ春に行う学校もあるらしいが、尊の学校は従来通りに秋に行う。
大学付属のその小学校では本来部外者が応援に行く事は出来ない。セキュリティの問題があるから仕方ない。
そう思って諦めていたのに何故か俺は許可が出た。
「どうして俺は許可されたんだ?」
今日の晩御飯である酢豚を作りつつ隣に立つ響也に尋ねる。響也は天津飯を作っている。昨日TVでやっているのを見て中華な気分になったからだ。因みに尊は宿題を終えた後の予習復習に余念がない。
「尊の親権を私に移すのにとても尽力してくれていただろう」
そう、尊は今響也の苗字を名乗っている。親権は無事に響也に移った。まあ、あんな毒母相手ならそうなるよな。
そして俺は力の限り手を貸した。だって響也の子可愛い。響也の子育てたい。
もの凄く不純な動機だったわけだけど、勿論そんな事は表に出さないから世間様はただの良い人として認識されたのだろう。
「その事は評価されていたし、何より尊が先生やクラスメイトを説得してくれてね。事情を知っていた彼等がそれに応えてくれたのだよ」
うむ。良い事はするものである。
来れるかいって聞く響也。行かないでか。行きますとも。行かないという選択肢など初めからない。
という事で運動会当日。
保護者席は升席だった。すげえな大学付属。え?別にこれが普通じゃない?此処が特殊なだけ?そうは言われても付属学校に行ったことが無い俺にはわからない。
席は用意されているからシートは要らず。なんなら頼めば昼食も一流のコックが作った食事が出てくるらしい。
が。
折角の運動会だぞ。手作り弁当持ってくに決まってる。
朝から響也と詰め合わせた中身は尊が蓋を開けるまで内緒だ。
「お、尊の番だ」
尊の出る種目は玉入れ。先生によれば尊自ら名乗りを上げたらしい。俺には言わないが響也にはキャッチボールの成果を俺に見せたいと言ったらしい。何それうちの子可愛い。
「よーし!良いぞ!尊!落ち着いて一つ一つ投げるんだ!ナイスコントロール!」
そんなん聞いたら応援にも熱が入るってもんだ。
隣に座る響也も無表情ながら手に持つメガホン(俺が渡した)を握りしめて目を離さない。目には熱が籠っているから真剣に応援しているようだ。
玉入れは惜しくも2位に終わったが、尊が沢山入れていたのは見ていたからな。後で精いっぱい労おう。
「凄かったな、尊」
尊の出番が終わり俺達も一息吐く。
応援で枯れた喉を水筒のお茶で癒し、響也にも勧める。
響也はコップを受け取り飲むと、静かに息を吐き出した。思いの外熱を入れていたらしいな。
「凄い。あの子があんなに巧く玉を入れられるなど……。これも侑真のお陰だ。私は侑真に出会ってから幸運ばかりに出会っている」
「ははっ、何だそれは大げさな。そう言われるの嬉しいけどさ」
「大げさなものか。侑真はいつも私に特別をくれる」
特別。
好意を抱く相手に言われてドクリと鼓動が強く脈打つ。
勘違いしそうになる都合の良い頭に、俺達が男同士だという事を強く意識させて何とか落ち着かせる。
そう、なんだよな。響也も男……なんだよな。
恋人にはなれない。だからせめて親友になりたい。恋人の次に近くにいられるように。
「そんなの。俺だって響也に貰ってるんだからお相子だ」
「私が?恥ずかしい所しか見られていないと思うが」
「こんなに楽しい時間。響也とだから過ごせてるんだぜ。尊もさ、本当に良い子で自分の子の様に接しさせてくれて。これが特別じゃなかったらこの世に特別なんてないんじゃないかな」
だから。新しい恋人が出来ても俺を傍に置いてくれよ。
俺は、多分もう響也以上に好きになれる人が現れる気はしないんだ。今まで付き合ってきた誰よりも、俺はもう響也に夢中なんだから。
その後は昼食の時間になるまで他所の子の、けれど尊と同じチームの子を応援して過ごした。
その昼食時間。
応援席から俺達の待つ升席まで来た尊は、並んだ弁当箱に目を輝かせた。
「凄い。手作りのお弁当なんて」
「そんなに感動されるとハードル上がるな」
「だって今まで学校のシェフが作ったお昼だったから」
ああ。それっぽい。
そうかー。それならもっと気合入れて作ってやれれば良かったな。来年はもっと頑張ろう。
「じゃあ初手作り弁当だな。開けてみな」
「うん……わあっ」
無表情に見えるその顔に、ワクワクとした擬音を背負ってソロソロと開けた尊。可愛い。開けた瞬間嬉しそうに綻ばした顔、プライスレス。
中身はおにぎりと稲荷ずし、唐揚げ、玉子焼きにタコさんウインナーの定番と栄養バランスを考えて彩り野菜達。デザートにフルーツもある。
「憧れの唐揚げのお弁当。おにぎりと稲荷ずしなんて、なんて贅沢なの」
そんなに喜ばれると朝から作った甲斐もある。
俺は響也と視線を合わせて互いに労った。
午後はチーム対抗のダンスから始まる。欲張っておにぎりと稲荷ずしを全部食べようとする尊を宥めるのは少し大変だった。
何時もは我が儘を言わない尊の欲張りに、心を鬼にして帰り掛け公園で残りを食べると約束して午後の競技に送り出したのだった。
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