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出会い編
6.自覚
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あれから何度も互いの家で料理をしている。
元々出来が良い榎本さんは半年も掛からず殆どの料理をマスターしてしまったが、半年も付き合えば休日には何処かへ遊びに行くようにもなっていた。
春は花見。夏は避暑地。特にお互いに良い店を見つけては食べに行った。盆休みも結婚してなけりゃ実家にも帰り辛いし(何せお節介な親戚が多い)、榎本さんも予定が無いからって食い倒れ沖縄メシまでやった。真夏の沖縄の榎本さんの薄着はなんかヤバかった。冷酷そうなイケメンで色っぽいって……。どこに対するアピールだよってドキドキしたのに、その後群れて集まった女性達に嫉妬してしまうし。なのに榎本さんはその女性達を素気無くあしらって俺に微笑を浮かべて「次はどこに行こうか」なんて言うもんだからさぁ……。
「俺、榎本さん好き過ぎじゃね?こんなんで新しい恋を見つけられる気がしねぇ」
とか言いながら、もう女の子を好きになれる気がしない俺もいる。
そんなもんもんとするのに榎本さんといる時はすっぱり忘れる日々を送っていたある日の事だ。
その日は休日で先週食べたスイーツを作ってみようぜ!って事で榎本さん宅にお邪魔していた。
そこにピンポーン♪と鳴ったインターホン。
「誰?おじさん」
手が塞がっている榎本さんに代わり俺が出れば液晶に映ったのは男の子で、俺の声に訝し気な顔で訝し気に聞いてきた。
俺こそ君は誰だと論じる前に動いたのは榎本さんで。
「尊」
その名前には聞き覚えがあった。
忘れようにも忘れられない榎本さんとの出会いの瞬間。ヒステリックな元奥さんに手を引かれて行った少年が確かそう呼ばれていた。
「父さん入れて。僕鍵持ってない」
言われた榎本さんは小難しい顔をしながら玄関に向かった。
榎本さんに連れられて入って来た子供は大きな荷物を抱えていた。離婚が成立していたのは何となく察していたけど、少年がこの家にいないのは親権が母親に行ったからだと思っていた。なのにどうしたんだろうか。あの一瞬の少年しか知らないけど、普通に母親に付いて行った様に見えた。それが今になって何故?
「父さん。この人誰?」
荷物を置いた少年はチラリと俺を見上げると、聞いておきながらさして興味も無さそうな顔をした。
「私の友人だ。尊こそどうした。お前は母親に付いたのではなかったか」
「は?何それ。あの人がそう言ったの?僕は父さんは僕を愛していないから捨てたって聞いたけど」
「それこそ何だ。私は最後まで尊を引き取ると主張したぞ。アレの元で育つのは為にならない」
「だよね。僕もそう思ったよ。あの人頭おかしいから」
訥々と会話を始めた親子だけど。何それ。俺何も聞いてこなかったのに今更聞いて良いの?
困り眉毛になるが途切れない会話に声を挟む隙も無く、ただただ無意味に手が上がったり下がったりしてしまう。
もういっそ話が終わるまで外出ていようか。うん!それが良いな!
「あー……俺、話終わるまで外行ってますね~……」
さらりと耳に入れば良い位の気持ちで声だけ掛けてリビングの取っ手を握った。
「む。気を使わせてしまったな。気にせずここに居てくれ」
「そうだよおじさん。まあこんな内輪の恥ずかしい話なんて聞く価値ないけどね」
この父親にしてこの息子アリ。
そう言えばあの日もこの子は我関せずな空気出してたわ。思い出した。似た者クール系親子。少年の将来が女性関係に関して不安です。
変な女に引っかかるなよ。と将来が心配過ぎて涙が出て来た。
「ええっと……。俺、家庭内の事聞いちゃって大丈夫なんですか?」
「聞かれて困る事は無いが、そうか。山田君には耳障りな内容だね。気が利かずすまない。尊、山田君はお客さんだ。私達が部屋を変えよう」
「そうだね父さん」
「いやいや。俺は全然大丈夫ですから!出てくなら俺が!」
息の合った頷きで俺の代わりにリビングを出ようとする2人を慌てて止めた。俺、何してんだろ。
そして何でか少年に信じられない者を見る目で見られた。何で。
「父さん……。こんな良い人何処で見つけたの。友達少ない父さんには貴重な人材だよ。絶対離しちゃ駄目だ」
あ。何となく気付いてたけど。やっぱ友達少ないんだ。
そして神妙な顔して頷く榎本さんは俺を過大評価してないか?
「うむ。その通りだ。これからも良き友人でいてくれるかい?山田君」
「当たり前じゃないですか。なんならもういっそ下の名前で呼び合っちゃいます?」
乾いた笑いで軽く冗談を言ってしまう位にこの状況が飲み込めてない。出来るクール系男な榎本さんが下の名前を呼ぶなんて想像も出来ないくせに。
「良いのか?ではそうしよう侑真」
ニコッとして榎本さんが呼んだ。ゆーまってどこのお子さんで?とか一瞬脳が宇宙に行きかけて。でも呼んだ榎本さんが不味かったかと心配気な顔を滲ませた事で直ぐに復帰した。
「お、おう!響也!」
誤魔化しに親指上げてめっちゃ口角上げて笑顔で返した。ホッとした微笑みを浮かべたからこれで良かったのだろう。
榎本さん……。いや、響也の名前を呼んだ俺の心臓以外は。
父さん。母さん。ついでに元カノのリコ。俺、もしかしたら一生実家に顔出せないかも。
出来る男で。冷酷そうな見た目で。年上なのにどこか可愛くて。抜けていて。不器用な響也の事が大好きみたいです。
元々出来が良い榎本さんは半年も掛からず殆どの料理をマスターしてしまったが、半年も付き合えば休日には何処かへ遊びに行くようにもなっていた。
春は花見。夏は避暑地。特にお互いに良い店を見つけては食べに行った。盆休みも結婚してなけりゃ実家にも帰り辛いし(何せお節介な親戚が多い)、榎本さんも予定が無いからって食い倒れ沖縄メシまでやった。真夏の沖縄の榎本さんの薄着はなんかヤバかった。冷酷そうなイケメンで色っぽいって……。どこに対するアピールだよってドキドキしたのに、その後群れて集まった女性達に嫉妬してしまうし。なのに榎本さんはその女性達を素気無くあしらって俺に微笑を浮かべて「次はどこに行こうか」なんて言うもんだからさぁ……。
「俺、榎本さん好き過ぎじゃね?こんなんで新しい恋を見つけられる気がしねぇ」
とか言いながら、もう女の子を好きになれる気がしない俺もいる。
そんなもんもんとするのに榎本さんといる時はすっぱり忘れる日々を送っていたある日の事だ。
その日は休日で先週食べたスイーツを作ってみようぜ!って事で榎本さん宅にお邪魔していた。
そこにピンポーン♪と鳴ったインターホン。
「誰?おじさん」
手が塞がっている榎本さんに代わり俺が出れば液晶に映ったのは男の子で、俺の声に訝し気な顔で訝し気に聞いてきた。
俺こそ君は誰だと論じる前に動いたのは榎本さんで。
「尊」
その名前には聞き覚えがあった。
忘れようにも忘れられない榎本さんとの出会いの瞬間。ヒステリックな元奥さんに手を引かれて行った少年が確かそう呼ばれていた。
「父さん入れて。僕鍵持ってない」
言われた榎本さんは小難しい顔をしながら玄関に向かった。
榎本さんに連れられて入って来た子供は大きな荷物を抱えていた。離婚が成立していたのは何となく察していたけど、少年がこの家にいないのは親権が母親に行ったからだと思っていた。なのにどうしたんだろうか。あの一瞬の少年しか知らないけど、普通に母親に付いて行った様に見えた。それが今になって何故?
「父さん。この人誰?」
荷物を置いた少年はチラリと俺を見上げると、聞いておきながらさして興味も無さそうな顔をした。
「私の友人だ。尊こそどうした。お前は母親に付いたのではなかったか」
「は?何それ。あの人がそう言ったの?僕は父さんは僕を愛していないから捨てたって聞いたけど」
「それこそ何だ。私は最後まで尊を引き取ると主張したぞ。アレの元で育つのは為にならない」
「だよね。僕もそう思ったよ。あの人頭おかしいから」
訥々と会話を始めた親子だけど。何それ。俺何も聞いてこなかったのに今更聞いて良いの?
困り眉毛になるが途切れない会話に声を挟む隙も無く、ただただ無意味に手が上がったり下がったりしてしまう。
もういっそ話が終わるまで外出ていようか。うん!それが良いな!
「あー……俺、話終わるまで外行ってますね~……」
さらりと耳に入れば良い位の気持ちで声だけ掛けてリビングの取っ手を握った。
「む。気を使わせてしまったな。気にせずここに居てくれ」
「そうだよおじさん。まあこんな内輪の恥ずかしい話なんて聞く価値ないけどね」
この父親にしてこの息子アリ。
そう言えばあの日もこの子は我関せずな空気出してたわ。思い出した。似た者クール系親子。少年の将来が女性関係に関して不安です。
変な女に引っかかるなよ。と将来が心配過ぎて涙が出て来た。
「ええっと……。俺、家庭内の事聞いちゃって大丈夫なんですか?」
「聞かれて困る事は無いが、そうか。山田君には耳障りな内容だね。気が利かずすまない。尊、山田君はお客さんだ。私達が部屋を変えよう」
「そうだね父さん」
「いやいや。俺は全然大丈夫ですから!出てくなら俺が!」
息の合った頷きで俺の代わりにリビングを出ようとする2人を慌てて止めた。俺、何してんだろ。
そして何でか少年に信じられない者を見る目で見られた。何で。
「父さん……。こんな良い人何処で見つけたの。友達少ない父さんには貴重な人材だよ。絶対離しちゃ駄目だ」
あ。何となく気付いてたけど。やっぱ友達少ないんだ。
そして神妙な顔して頷く榎本さんは俺を過大評価してないか?
「うむ。その通りだ。これからも良き友人でいてくれるかい?山田君」
「当たり前じゃないですか。なんならもういっそ下の名前で呼び合っちゃいます?」
乾いた笑いで軽く冗談を言ってしまう位にこの状況が飲み込めてない。出来るクール系男な榎本さんが下の名前を呼ぶなんて想像も出来ないくせに。
「良いのか?ではそうしよう侑真」
ニコッとして榎本さんが呼んだ。ゆーまってどこのお子さんで?とか一瞬脳が宇宙に行きかけて。でも呼んだ榎本さんが不味かったかと心配気な顔を滲ませた事で直ぐに復帰した。
「お、おう!響也!」
誤魔化しに親指上げてめっちゃ口角上げて笑顔で返した。ホッとした微笑みを浮かべたからこれで良かったのだろう。
榎本さん……。いや、響也の名前を呼んだ俺の心臓以外は。
父さん。母さん。ついでに元カノのリコ。俺、もしかしたら一生実家に顔出せないかも。
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