繋がる想いを

無月

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出会い編

3.芽生え

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「全然簡単ではないではないか」
「はい?」

LINEAリネアで連絡先を交換した俺と榎本さん。
榎本さんが料理を作ってみたいからという事で時間が合う日はランチで待ち合わせするようになった。

珍しくぶすくれて見える榎本さんは、そう言ってスマホの画面を見せてくれた。
なんだろう。絶対見ない様な真っ黒な物体は。
スマホの画面に映し出された写真。そこにはフライパンに乗っている炭化した「生姜焼きだ」と言われても気付けない物体が映っていた。

「焦げる前に火を止めてください」

愕然と肩を落としたくなるのはいけない事だろうか。

「む。焦げる、というのがわからない」

なんでじゃ。
改めて詳細に作り方を教えれば、素直に受け入れもう一度チャレンジしてみるという。本当に大丈夫なんだろうか。
一抹の不安を覚えつつも、仕事の成績は良いらしいその手腕を信じようと思う。
そうそう、榎本さんは界隈じゃ有名だったらしい。主に女子社員の間で。
そりゃそうか。男の目から見ても良い男だし、それで大手企業の営業で成績も良いとくれば。一回その営業シーンを垣間見る機会が有ったけど。別人だった。何あの笑み。誰を落としに掛かってるの。相手企業か。誤射で周囲の女性のハートも打ち抜いてたのには乾いた笑いが出た。
俺の前じゃこんなに可愛い一面を見せるんだけどねぇ。

取り敢えず出来上がると信じて迎えた翌々日。

「なんでじゃ」

いかん。言葉が乱れた。
毒生成って本当に出来るんだな。宇宙の広さを感じるわ。
決して第三者に見せてはならない系の写真をそっと返し、悟りを開いた菩薩の笑みを榎本さんへ向ける。

「俺んちも、近くなんです。だから俺が2人分作ります。榎本さんは作ってる所見ててください」

見て基本を覚えて貰おう。それがいい。というかそれしか俺には教える術がない。

「いや。流石にそれは申し訳ない。私は外食でも大丈夫だから」
「外食じゃ食育には適しません。健全な肉体は健全な食事で補いましょう。榎本さんがお嫌でなければ俺の家、っていってもマンションなんですけど。来てください」
「嫌ではない。しかしだな、私と君は友人ではないのだか」
「は?」

みな迄言う前に座った目のどすの聞いた俺の声に榎本さんは言葉を止めた。
珍しいたじろぐ姿の榎本さん。冷や汗が流れたように見えたが知らん。

「俺。榎本さんとは既に友達だと思ってたんですけど。てかLINEA交換、誰とでもなんてしません。榎本さんは誰彼構わずほいほいするんですか?」

思わず”ほいほい”笑顔で交換してる榎本さんを想像してイラッときた。

「そんな訳、ないだろう」
「じゃあ俺は?」
「いや、あ、うん。そうか。そうだな。しかし私は君より随分おじさんだろう」
「38歳なんて俺とそうかわんないです。榎本さんがおじさんなら俺もおじさんです」

実際甥と姪にはおじちゃんって呼ばれてるしな。
強く目を見据えて言えば榎本さんは照れたのか、一瞬軽く目を見開いて微かに目元を赤くした。そしていつもより若干深い笑みを浮かべた。

「……そうか。ありがとう。山田君は良い男だな」
「これくらい……普通です。榎本さんのが良い男ですよ」
「料理も出来ないのに?」

クスリとした苦笑を滲ませる榎本さん。

「料理は関係無いです」

何故か褒めてるこっちが照れてくる。照れ隠しにぶすくれた言い方になっていないだろうか。ふとそんな事を気にして、気にした事に驚き内心で疑問を浮かべた。
まあ、この人格好いいんだけど可愛くもあるからな。普段出来るクール系良い男なのに、料理出来なくて拗ねるとか可愛過ぎるだろ。

「ふふ。そうかね」

ん゛ん゛ん゛!
最近の榎本さんは俺に気を許しているのがわかる。こうしたふとした瞬間に見せる気の抜けた笑みとかでな。あー、可愛過ぎだろ。

でもだからこそ知れば知る程疑問に思う。
あの初めて会った日。元奥さんに対して冷たく言い捨てたあの目。しかもお子さんがいたのに。テストで満点取ったくらいでとは俺も思うけど。模試で上位とかなら兎も角、小学校のテストは得意教科なら割と満点取れるし。でもそれでもまだ小さい子供に直接言って聞かせるのは冷たいんじゃないかとも思う訳で。

「しかしそれで君のキッチンを汚すのは忍びない。私が教わる身なのだから、山田君が嫌じゃなければ我が家を使ってくれ。勿論帰りはきちんと送らせてもらうよ」

男前!気遣い出来る系男!
ほらっ、こういうとこだよ。第一印象と今が結びつかなくなる。

「送るのは、良いです。俺も男だし、一人で帰れますって」
「そうかい?なら今夜辺り大丈夫だろうか。今朝も漬け込んであるのだよ」

向上心の塊。こういう事か。自分が頑張るのが当たり前だから人もそうだと思ってしまってる的な。
うわっ、ありそー。

器用そうに見えて案外不器用なこの人の一面を、やっぱり可愛いと思えてしまった。

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