繋がる想いを

無月

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出会い編

2.知り合う

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「あ。どうもこんにちは」

久し振りに温かい空模様に昼食を外で済ませていた時。俺はいつぞやに出会ったあの人にもう一度出会った。
まあ同じオフィス街で働いてればいつかはそんな日もあるか。
とはいえあんな場面を見られた方はそっとしておいて欲しかろうと気付かなかった振りしてたのに、話し掛けて来たのはあっちからだった。
挨拶されれば返すのは礼儀。飲んでいたラテを口から離してペコリとお辞儀する。

「相席良いかい?」
「どうぞ」

昼食時に席を確保するのは中々に大変だ。特に今日の店はオープンして間もなく、冬だけど温かいのもあってテラス席まで満席だった。
快く快諾すればその人はあの時のような微かな笑みを乗せて「ありがとう」と席に座った。

「おや。君もスペシャルランチか。やはりここのは噂に違わぬのだね」
「あはは。俺もその噂で来たんです。実際美味しいですよ」
「それは楽しみだ」

改めて話してみると普通の人だな。あの時は冷酷な仕事人間に見えたけど。時と場所が変われば人はこうも変わるものなのか。
フォークでサラダを取り、口に運びながらチラリと見た男性の顔はもう無表情だった。
感情が顔に出にくい人なのかな?営業かと思ったけどこれだけ無表情だと仕事が立ち行かなそう。別の部署かも。

ランチが来るまで待っている。それだけの姿なのにすっと伸びた背筋はどこか様になっていて恰好良い。陽の光までこの人の為のスポットライトのようだ。
面が良い男で嫉妬しそうなものだけど、何故かこの人にはそんな感情を抱けなかった。

別に互いに名前も知らない同士。特に会話が盛り上がることも無く、彼のランチが来る前に俺が食べ終わったこともあってその日はそれで終わった。

だが縁というのはどこで結び付くのかわからないらしい。
その男性との出会いはそれで終わらなかった。

「やあ、また会ったね。相席どうだい?」
「ありがとうございます。遠慮なく」

どちらが先に座っているかの違いはあれど、俺とこの男性はこうして度々ランチでかち合った。しかも殆どが満席の店。必然的に先に座っている方が相席を進める仲になっていた。

「今日は限定メニューがおすすめだよ」

この店で会うのはもう何回目だったか。
味の好みが似ているらしく、おすすめされたものはどれも美味い。

「へぇ。今日のは……。成程これは確かに美味しいやつ」

久し振りにハンバーグでも食べようかと思ってたけどこっちにしよう。しかも一日限定なんて今日食べる他ないじゃんか。
最早腹の虫が限定ランチになった俺はいそいそと注文をした。

あれ?今日はゆっくりなんだな。
おすすめする位だからもう昼食は食べ終わっているんだろう。なのに男性はゆったりとした構えで優雅に座っている。
てかあれ?服のセンスが大人ってか上流階級かっ、て感じで気付かなかったけど。私服?

「今日はお休みですか?」

折角の休暇に職場近くをうろつく事も無いか。
思わず漏らしてしまった言葉に即座に心の中で否定する。言ってしまったものは取り消せないけどな。まぁ莫迦な事聞くなと笑い話にでもなればそれはそれで良いか。

「ああ。家が近くでね。料理は出来ないから食事はいつも外で済ましている」

神は二物を与えないという。いやいや、軽い目玉焼き位出来るだろ?え?出来ない人いるの?それともお洒落な人間はお洒落な食べ物以外食べ物として認識してないのか?んな馬鹿な。

「あはは。そりゃ大変ですね。毎回外食じゃ飽きません?俺が作りましょうか?なぁんて……」

軽い笑い話で流そうと思ったんだけど、男性は以外にもこっちをじっと見た。男が男にメシ作るなんて意外過ぎて普通に驚くか。
相変わらずの無表情なのに何故か驚いているように見えた。驚くっていうかキョトンってされてる感じ。しかも真剣に考えている?

「君は料理が出来るのか。凄いな」

そこ。そんなに驚くことか。
真剣に言っているのが無性に可笑しくなった。
なんか可愛いな。この人。

「流石に弁当までは作んないですけどね。朝食と夕食は割と自炊で済ませますよ」
「夕食まで。あんなに手の込んだものを仕事終わりに作るのか?それでは睡眠時間が無くなるのではないかね」

どんなフルコースを想像してるんだろうか。

「いやいや。簡単な物しか作りませんて。生姜焼きとか回鍋肉とか。休みの日は角煮作ったりもしますけど」

角煮はじっくり煮込む時間が欲しいからな。

「生姜焼きはそんなに簡単に作れるのかね?元家内は一日掛けてる風な口振りだったが」

おおっと。さり気無く離婚成立してはりましたよ。この人。でも子育て出来る風には見えないけど、親権はあちらさんで?それはそれであの子の将来が不安だ。いやいや。家庭の事情。家庭の事情。俺が首突っ込む事じゃない。
とはいえ、話す仲になるとこの人の方が絶対真面な気がするのは依怙贔屓だろうか。

「肉を日本酒で漬け込んで生姜を含めた調味料を絡めて焼くだけです。漬け込むって言っても朝やって冷蔵庫に入れておくだけ。帰ったら焼くだけ。そもそも漬け込みはしない家もあるらしいし、その場合焼くだけ。簡単でしょ」
「む。そうなのか……」

意外だと思ったのか、元奥さんにしてやられたと思ったのか。微かに眉間に皺が寄っている。

「では明日にでもやってみよう。君……ああ、そういえばまだ名前を知らなかったな。
私は榎本えのもと 響也きょうやという。君の名前を聞いても良いかい?」

名前まで恰好良いとかどんだけ。
世の不条理に一瞬遠い目になりかけた。

「ほんと今更な感じですね。俺は山田侑真です」

可笑しな現状にクスリと笑み漏らせば榎本さんが手を差し出してくれた。俺も手を伸ばし熱く握手を交わした。

この日、俺と榎本さんは友人となった。

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