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第14話 オツキアイ

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「ユウキ、ユウキ……」



 仰向けのエリスが、震える声で名を呼んでいるのが聞こえる。自分の鼓動も聞こえるような気がした。あとは、ぐちゅ、という水音、エリスが身を捩る度にベッドのシーツを手足が滑る音が、妙に大きく。



「ユウキぃ……」



 熱い吐息の合間に、甘えるように名を呼ぶエリスが、勇気の体に手を這わせる。



「もう、大丈夫、だからぁ……」



 その声に、勇気はエリスの顔を見た。涙で潤んだ瞳が勇気を切なげに見つめている。行為の続きを求める体はほんのり赤く染まり、汗ばんでいた。



 エリスの奥まった場所に、勇気は三本の指を侵入させている。怪我をさせてはいけない、とじっくり時間をかけて解したソコは、熱く勇気の指を締め付けていて、まだ本番に進むのはよしたほうがいいと思っていた。



 慣らすように侵入させた指を動かすと、「ぁ、ア」とエリスが悶える。その様がなんとも煽情的で、先に進みたい気持ちも有るが、踏ん切りがつかなかった。



「ユウキ、お願い……っ」



 エリスが、もう大丈夫だから、と震える声で繰り返す。そうなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。勇気はエリスに痛い思いなどさせたくなかった。



 男のソコが気持ち良いところなのか、勇気にはわからない。だからせめて苦しくないようにしてやりたかったのだ。それが結果的に、もう二度受け入れたことがあるエリスを焦らしていると、勇気は知る由もない。



「ユウキぃ……」



 はぁ、と熱い吐息を漏らして、エリスが勇気の腕を掴む。



「もう、お願い、ユウキ、欲しい……っ」



 どこでそんな日本語を覚えたのやら。聞きたいような、聞きたくないような。「でも」と呟いたが、重ねて「お願い」と泣き出しそうな声で言われては、勇気も折れざるをえない。



「本当に、大丈夫?」



「ウン」



「じゃ、……じゃあ……」



 ずるり、と指を引き抜く。「ア、」と甲高い声を漏らして、エリスが脚を震わせている。散々慣らしたソコは寂しげにヒクついて、勇気を待ち侘びていた。それを見て、勇気はまた喉を鳴らした。



 男相手なのに、勇気も萎えるどころか興奮している。ガチガチに固くなってしまった自分のモノを、今すぐ挿入したいと思う。それでも、エリスに酷いことはしたくない。



 これまで何度も無意識化で彼を犯してしまったのだ。本人曰く、バイオレンスかつ激しいやり方で。そんなやり方で抱くのは勇気の本意ではない。だから、勇気が意識を持って抱く最初の夜である今回は、優しくしたかった。



 エリスの長い脚を抱えて、身体を開かせる。ソコに自分の熱を当てがうと、彼が「ユウキ」と切なげに名を呼ぶ。うん、と頷いて、「キツかったら言えよ」と念を押した。エリスが「ウン」と素直に頷く。それを見届けて、ゆっくりと熱を、エリスの中に埋め込んでいく。



「ぁ、ア……、ぁ、」



 エリスが僅かに眉を寄せて仰反る。痛いのか、と一瞬動きを止めたけれど、求めるように腕を引かれ、恐る恐る腰を進めていく。胎内は熱い。入り口きゅうきゅう締め付けて苦しいぐらいだ。それでもエリスは止めないから、ゆっくり、ゆっくりと奥まで沈めていく。



「は、……入った……」



 根元の少し手前まですっかり呑み込んでしまったところで、勇気は動きを止めてエリスの体を抱いた。エリスは荒い呼吸を繰り返しながら震えていて、辛いか、と尋ねて撫でると、彼は小さく首を振る。



「大丈夫、でも、少し、待って……」



「う、うん」



 勇気の背中に手が回ってくる。呼吸が落ち着くのを、抱き合ったまま待った。正直に言えば、エリスの胎内は熱く絡み付いてきて、たまらなかった。動きたくなる衝動をぐっとこらえて、エリスが落ち着くのを待つ。ややして、彼が小さく笑った。



「今日の、ユウキ、優しい、ね」



「……酔った俺がバイオレンスなだけだろ」



「アハハ、……ユウキ、私、もう、大丈夫。……動いて……?」



「本当に、大丈夫か?」



「ウン、私のこと、オヨメサンに、して?」



 その単語、何だと思って言ってんだ? 勇気は苦笑して、それからゆっくりと腰を小さく揺すり始めた。



「ぁ、あ、……ん、んん、……っ」



 エリスが目を閉じて、勇気の動きに身を任せている。その健気な様子が愛おしくて、脚を抱え、次第に大きく腰を動かしてやると、エリスの体が震えて、声は悲鳴に近くなっていった。



「あっ、あ、ぁ、……っ、や、ユウキ、……ッ」



 と、エリスが自分の手で口を塞ぎ始めた。勇気はそれを見て、その手を取って引き剥がす。



「や、ダメ、だよ、ユウキ……」



「なんで口押さえるんだよ」



 口を塞ごうとする手をベッドに押しつけ、指を絡めて繋ぎ止める。エリスは生理的な涙に濡れた瞳で、勇気を見上げ、小さな声で答えた。



「声」



「声?」



「ユウキ、声、嫌い……私、練習した、けど、……気持ちいい、なると、出ちゃう、かも……」



 喘ぎ声の事か。勇気は理解して、苦笑した。酔っていた時の自分がエリスに何を言ってしまったのか、定かではないが。確かに日本人的には、向こうの喘ぎ声はドラマチックすぎて、馴染みはないかもしれない。それでも。



「大丈夫だよ」



「でも……」



「エルが気持ち良くなると練習したんじゃない声が漏れちゃうってことだろ? それって最上級の気持ちいいって合図じゃないか。なんでそれを俺が嫌がるんだよ」



 そう言うと、エリスは少し考えてから、顔を赤らめた。



「ユウキ」



「だから大丈夫、好きなだけ声出せよ、エル」



「あ、っ、あ、ユウキ……っ」



 律動を再開する。エリスがどうされれば気持ちいいのか、勇気にはまだわからない。角度を変えたり、強さを変えたりしながら突き上げて、エリスが身悶えするのを見守る。



「……っ、ぁ、ア! あ、ユウキ、それ……っ」



「ん、コレ?」



「い、ア、……っ、あ、あぁっ、ユウキ、ユウキ、ダメだよ……っ」



 ある角度から内壁を突き上げた時、エリスは一際甲高い声を上げて、首を振った。ダメ、とは言いながらも、決してそれは苦痛を訴えている様子ではなかった。だから、何度もそれを繰り返してやると、エリスはいよいよ女のように鳴いて悶えた。



「やぁ、ア、あ、ユウキ、ユウキ、ダメ、おさえ、られな、……っ、あっ、あぁっ」



 ダメと言いながら、エリスの脚が勇気の体に絡みついてくる。まるでもっとと言っているようだ。可愛いな、と勇気は感じて、更にソコを責め立てる。



「やああ、ひっ、ぁ、ダメ、ダメぇ……っ」



「気持ち良くなっていいんだよ、エル」



「あ、あっ、あ、あぁッ、ユウキ、ユウキぃ……ッ」



 エリスが勇気に抱きついて、震えている。気持ちいいんだろう。そんな様子を見ている勇気も限界だ。「イこっか」と囁いて、勇気がエリスのモノに触れる。「ア!」と甲高い声を漏らしたのを無視して、ぐいぐいと扱きながら腰を揺らすと、エリスはいよいよ鳴き声を上げて身悶える。



「ヤァ、ア、だめ、ユウキ、ユウキ、ダメ、もう、もうダメ……ッ」



「エル、エル……ッ!」



「あ、あ、ああ、アッ、あ、ーーッ!」



 内部の弱い場所を小刻みに突き上げると、エリスの身体が大きく仰け反ってビクビクと震える。勇気も限界がきて、打ち付けるように腰を揺すり、エリスの前を擦ってやると、ガクガクと脚を震わせながら、エリスが絶頂を迎える。それに勇気もつられて欲望を吐き出した。















「ユウキ……ユウキ……」



 お互い息も落ち着いて、汗もひいた頃。抱きしめ合ってベッドで微睡んでいると、エリスがうっとりとした様子で名を呼んできたので、「ん」と返事をしながら彼の背中を撫でてやった。



「私、オヨメサン、なった?」



 問われて、勇気はぼんやりとその言葉の意味を考える。エリスにとってオヨメサンとは何なのだろう。勇気にとってのオヨメサンも。暫し考えて、勇気は眠い頭のまま、「お付き合いになったところだよ」と答えた。



「オツキアイ」



 エリスは復唱して、それから嬉しそうにもう一度その言葉を口にして、勇気の額にキスをしてきた。それは不思議と心地良くて、勇気はもう睡魔にもエリスにも抗わず、眠りに落ちることにした。
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