となりの露峰薫さん

なずとず

文字の大きさ
上 下
44 / 44

オマケ

しおりを挟む


「あーーーーーーーーーー、ボクも彼氏ほしぃーーーーーーーー」

「リンちゃん~~、呑みすぎだよ~」

 深夜のバー『ジョー』。カウンターには、真っ赤な顔で突っ伏しているリンの姿がある。その向かいには、いつもの通りマスターがいるばかりで、店内の客はもう殆ど残っていなかった。

「だってぇ、みんなしてボクのことさーあ、『遊ぶのは楽しいけど、付き合うのはちょっと違う』とかさーあ。『浪費しそう』とか、『家庭作れなさそう』とかさーあ! 失礼しちゃう~~! こっちから願い下げだっつーの! マスター! おかわり!」

「もうお冷にしとこうねー、リンちゃんねー」

 マスターがカクテルの代わりに水の入ったグラスを渡しても、まるでビールでもあおるようにリンはそれを飲み干し、またカウンターに突っ伏した。

「みんな! ボクのこと! なんもわかってないの!」

「そうだね~。リンちゃんのこと、みんな知らないね~」

「そうだよ! ボクは! こう見えて! 尽くすタイプだし! 料理もするし! 節約もするし! 子どもも好きだもん! だもん~~!」

「家庭的なタイプなリンちゃんだよね~~」

「そうだよ! なのにみんな、ボクの魅力をちっともわかってない! マスター! おかわり!」

 お冷を出す代わりにミネラルウォーターのペットボトルを渡すと、それをまるで晩酌のようにしながらリンは飲み、ブツブツと語る。

「シノはいいよね、彼氏に謝ったらまたイチャイチャできてさ」

「彼、うまく仲直りできたんだね~」

「ボクたちがアドバイスしたから、早く仲直りできたんだよ。ならボクにいい男を紹介してくれてもいいと思う! ボクだけ独り身なんてかわいそうって思わないの!?」

「リンちゃんだけ、かわいそうだねえ~」

「ボクのことかわいそうって言わないで! みじめになるじゃん!」

 自分で言い出したのに、マスターに言われるとリンは泣きそうな声で言った。

「和真と薫だってさあ。ボクが身を引いてアシストしたから上手くいったんだもん」

「まあ~、それだけじゃないとは思うけどね~。どうしてリンちゃん、あのふたりのことくっつけようとしたの?」

「だって、顔知ってて嫌いじゃない人には幸せになってほしいじゃん」

「リンちゃん優しいねえ」

「そうだよ! ボクは優しいの! なのにーーーー彼氏できないーーーーー」

 えーん、とカウンターで喚いているリン。それをよそに、ついに最後の客も帰り、店内はふたりきりになってしまった。

「リンちゃん~。そろそろおうち帰ろうね~」

「やだあ、彼氏できるまで帰らないーーー」

「あのねえリンちゃん。それでいうと、おじさんが彼氏になっちゃうよ? それでいいの?」

 その言葉に、リンがバッと音がするほどの勢いで顔を上げた。リンは潤んだ熱い眼差しでマスターを見つめ、そしてマスターはニコリと笑ってみせる。

「マスターって、彼氏いないの」

「いないんだなあ、これが」

「ノンケじゃないよね」

「そりゃ~、もちろんねえ」

「マスターはボクと付き合ってもいーの」

「おじさんはいいよー。だってリンちゃんが優しくって、気遣いできて、お料理もできて節約もできる、一途な可愛い子だって知ってるからね~」

「…………」

 リンはしばらく真顔でマスターを見つめた後に、バァンと音を立ててカウンターに代金を置いた。

「お勘定!」

「リンちゃん~、いつも言ってるけど、これじゃ足りないよ~」

「また来るもん! それでもって……」

 リンはカウンターから離れて、店を出ようとしながら言った。

「考えとくもん!」

 カランカラン、と音を立ててバーの扉が閉まっていく。そんな様子を見ながら、マスターは微笑んだまま肩を竦めた。


 おわり
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...