11 / 19
第三話 そういうトコロヨ?
しおりを挟む
その日はいつも通りの日常を過ごしていた。
ユンユンはカナタに何を説明したのやら。いい猫友達ができてよかったね、と携帯端末にメッセージが入って、トウマは苦笑いすることになった。猫友達なんだか、猫の友達なんだか。
ともかく、トウマは不思議なことにユンユンのことを少しも嫌にもならず、それまでと同じように撫で、ブラッシングし、ユンユンのほうも甘えてきた。たとえ前立腺開発をしてきたり、アダルトショップに連れ込まれても、ユンユンは世界で一番かわいい飼い猫なのだ。それは決して変わることが無かった。
そしてトウマはこの奇妙な体験を、幻想小説家『時次』として最大限活かそうとした。
拾った子猫が実は猫又で、主人に隠れて他の妖たちと協力して現代社会の平和を守るストーリーはどうだろう。ありきたりだが、その猫が変わった見た目、変わった経歴で、パソコンも使えるようなスーパーヒーローなのに、飼い主の前では猫に戻らなければいけないという制約を付ければ、スリルも出るかもしれない。女の子がいいだろうか。人間の姿の時に主人と出会ってしまって、恋愛関係になっていたりしたら面白いかもしれない。
そんなことを妄想して、それを文字に起こそうとする。そこではたと気付いた。これではまるで、ユンユンと恋愛関係になりたがっているようなものではないだろうか。
一瞬ぽぽぽと頬が染まった。ベッドの上で、びろーんとばかりに仰向けに伸びて寝ているユンユンをちらりと見て、それから首を振る。これはあくまで創作、この関係から着想を受けただけ。そうとなれば精一杯良い作品にして世に出したい。トウマは気を取り直して、キーボードを叩くのだった。
そんなある日のことである。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。とても珍しいことだ。元々あまり交友関係の広くないトウマの部屋に人が訪れることは稀で、ユンユンも目を覚ましてこちらを見ている。トウマは書きかけの原稿を上書き保存すると、モニター付きのインターホンに向かった。
「もしもし?」
『あっ、トウマ~!』
小さなモニター越しに、金髪の青年が映る。パーカーを着込んで困ったような笑顔で手を振っている男を、トウマは良く知っている。
「ああ、ソウジか」
トウマは微笑んで、すぐに鍵を開けに行った。ユンユンが「なーん」と鳴いていたけれど、「昔馴染みの友達だよ」と返しながらチェーンのかかった玄関を開く。部屋の前には、ソウジと呼ばれた男が立っていた。金色に染めた髪は根本が黒くなっていて、いわゆるプリンの様相を呈している。ゆるいパーカーもダボダボのデニムも、だらしないという印象しか与えない。顔は整っているのに。
「来るって連絡入れてくれてりゃ、何か用意したのに」
「いやいや、別にそんなおもてなしとか大丈夫、そう長居はしないから安心してくれよな」
「まあ、上がってくれ。猫がいるけど……」
トウマがそう言うと「猫!」とソウジは驚いた声を出した。
「万年、猫に逃げられてばっかりだったトウマがついに猫を飼えたのか⁉ やったじゃないか、どんな猫ちゃんだろうな」
トウマが促すと、ソウジはいそいそと部屋に上がって行った。また玄関に鍵をかけている間に、居室から「デカッ!」という大声が聞こえる。そのまま冷蔵庫に向かって麦茶を取り出し、グラスと辛うじて有ったスナック菓子を持ちリビングに戻る。
ソウジは床にしゃがみこんでいた。ん、と見ると、ベッドの下から白と黒の尻尾がちょこんと出ていて、べしんべしんと床を叩いている。
「あれ、ユンユン。人見知りしてるかな」
その尻尾の動きが、猫の苛立ちを表しているということはトウマも知っている。意外だな、と思った。あれほど堂々と夜の街を闊歩し、初対面のカナタとも打ち解けられるようなユンユンが、人見知りをするなんて。そういえば、家に誰かが来るのは初めてだった気もする。
「すげぇデカい猫だな、本当に猫なのか不安になるレベルだぞ」
ソウジはそう笑いながら立ち上がり、ベッドにどっかりと腰かける。来客用の椅子など無いから、そこはソウジの定位置だ。またユンユンの尻尾が、ビターンと床を叩いた。トウマは「ユンユン、こいつは俺の友達だから勘弁してやってくれ」と苦笑しながら、ソウジに飲み物とお菓子を渡す。
「悪いな~! いや、連絡してから来たほうがいいのはわかってたんだけど、スマホが止められちゃってさ」
「また資金繰りが上手くいってないのか? しょうがない奴だな」
お菓子を受け取ると、迷いなく開けて貪り始めたソウジを見て、トウマは肩を竦めた。そして隣に腰掛ける。
ソウジとトウマは小学生からの縁だ。彼は顔が良くて、自信家で調子がよかったが、どうにも実力が伴わない。偉そうな口ぶりもするし、その実、何をしたってダメだし誠意が無い。
自然とソウジは嫌われていったようだけれど、トウマはそんな彼を特段除け者にしたりはしなかった。トウマ自身、見た目や寡黙なことで人から距離を置かれがちだったからかもしれない。そうして、トウマがソウジを悪く扱わなかったのがよほど嬉しかったとみえる。彼はずっとずっとトウマに懐いていた。
いわゆる、腐れ縁という奴にも相当するかもしれなかった。ソウジは成績も悪く、努力もせず、遊ぶように暮らしては酷い目にあい、その度トウマに泣きついてきたものだ。正直、トウマも彼が家を訪れた時点で、何の要件かはわかっていたのだ。
「……で? 今日はいくら借りたいんだ」
ソウジが言い出しにくそうにしているのを待つのも面倒だった。このやりとりは何度も繰り返してきたし、一度として彼が借金を返したことも無かった。それでも、トウマは彼を邪険に扱ったりはしなかったし、金を返せと怒鳴ることもなかったのだ。ベッドの下からはみ出た尻尾がピタリと止まったのが見える。
「……トウマ~! お前、本当にいい友達だよ~!」
ソウジはスナック菓子を食べる手を止め、飲み物を置くとトウマに抱き着いた。お定まりの流れにトウマは苦笑しながら、「あーわかったわかったから、いくらいるんだよ」と返す。ソウジはパンッと手を合わせて、「すまん! この通りだ! 10万貸してくれ!」と頭を下げた。
「10万か……」
いつになく大きな金額に、トウマは流石に目を見開いた。いつもは1万とか3万とかそういう数字だったから。10万ともなると、流石にすぐ財布から出て来るような金額ではない。どのみち金を下ろしにいかないとどうにもならないが、今回ばかりはトウマも「何に使うんだ?」と尋ねた。
「オレは、オレは今度こそ真っ当になるよトウマ!」
真剣な眼差しでソウジがトウマを見つめる。その台詞も何回聞いたかわからない、と思っているのが伝わったのか「今度は見込みが有るんだ!」と彼は大きな声で説明してくれた。
知り合いのバーの店主が、ソウジのどうしようもない生き方を心配して、仕事先を斡旋してくれるというのだ。それも、真っ当な会社員として。真面目に勉強してこなかったソウジには何かと難しいことではあるけれど、大チャンスなのは間違いない。ソウジはこれから起こるあらゆる困難に立ち向かう覚悟を決めたという。その為に、とりあえずスマホや水道電気の滞納を解消し、スーツとビジネスシューズと鞄を買って髪を切り染め直さなくてはいけない。その金を貸してほしい、ということだった。
「必ず返す! 必ずだ! 就職が決まったら少しづつでも絶対に返す! オレ、もうこのチャンスを逃したら次は無いと思ってんたよトウマ……! これは俺が人生やり直すラストチャンスだ、頼むよ、もう誰もオレのこと信じてくれないんだ、頼れるのはトウマだけなんだよ~!」
泣きつかれながら、それはそうだろう、と心の中で思う。ソウジがどれほど苦労をしていても、それは半ば自業自得のようなものもあるし。こういうことを何度言って、何度失敗してまた泣きついてきたかもわからない。今回だって同じかもしれない。第一、本当にそんなチャンスがあって、そういう前向きな理由で使うのかも怪しいと言えば怪しいのだ。
なのだけれど。
「……わかった、わかったよ。でも手持ちが無いから、銀行に下ろしに行かないと」
「……! トウマ、ありがとう~! お前はオレの親友だよ~!」
トウマが溜息混じりにそう答え、ソウジが再び抱き着いてきた時。
「フシャアアーーーッ!」
突然ベッドの下からユンユンが飛び出して、ソウジに飛びかかった。
「「うわぁあああ⁉」」
ソウジとトウマは二人して悲鳴を上げて飛び退く。ユンユンは全身の毛を逆立てて、まさに怒髪天といった様相だ。
「お、おい! 猫ちゃんめちゃくちゃ怒ってるよ⁉」
「ど、どうしたんだろうな。ユンユン、落ち着いて……お客さん来てドタバタしたから興奮したのかな、ごめん、ごめんな、ちょっと俺達、出かけてくるから……」
「うみゃぁあああああんなああああ!」
なんとも形容しがたい叫び声を上げて、ユンユンはまたソウジに飛びかかろうとする。「ワーーッ!」とトウマはなんとかその巨体を捕まえて、「いい子にしててくれーっ!」となだめようとしたが、どうにもいうことを聞かない。
「ソウジ、悪い! 先に外に出ててくれ、俺もすぐ出るから! 夕飯でも一緒に食おう、どうせ飯代無いんだろ」
「おおお、おう、トウマ本当にありがとうな! じゃあオレは先に出てるから、」
「うみゃああああおおおおおっ!」
ユンユンは怒り心頭だ。大慌てで逃げていくソウジを見て喚いているのを、トウマが「ユンユン、いい子だから」と抱きしめる。がぶ、と軽く肩を噛まれて、「いてて」と思わず声を漏らすとすぐに口を離してくれた。
「ユンユン、どうしたんだよ。頼む、いい子にしててくれ、な? 帰ったら話聞くから……」
そう言って逆立った毛を撫でてやる。ユンユンはじっとトウマを見つめると、それでようやく大人しくなった。尻尾は、たしーん、たしーんと床を叩いていたけれど。
「じゃ、じゃあ行ってくるから。お留守番しててくれよ? 大丈夫、アイツは悪いやつじゃないから、人になって追いかけてこなくても大丈夫だからな?」
トウマはそう言い残して、財布を手に取るとソウジと共に家を後にした。
ユンユンはカナタに何を説明したのやら。いい猫友達ができてよかったね、と携帯端末にメッセージが入って、トウマは苦笑いすることになった。猫友達なんだか、猫の友達なんだか。
ともかく、トウマは不思議なことにユンユンのことを少しも嫌にもならず、それまでと同じように撫で、ブラッシングし、ユンユンのほうも甘えてきた。たとえ前立腺開発をしてきたり、アダルトショップに連れ込まれても、ユンユンは世界で一番かわいい飼い猫なのだ。それは決して変わることが無かった。
そしてトウマはこの奇妙な体験を、幻想小説家『時次』として最大限活かそうとした。
拾った子猫が実は猫又で、主人に隠れて他の妖たちと協力して現代社会の平和を守るストーリーはどうだろう。ありきたりだが、その猫が変わった見た目、変わった経歴で、パソコンも使えるようなスーパーヒーローなのに、飼い主の前では猫に戻らなければいけないという制約を付ければ、スリルも出るかもしれない。女の子がいいだろうか。人間の姿の時に主人と出会ってしまって、恋愛関係になっていたりしたら面白いかもしれない。
そんなことを妄想して、それを文字に起こそうとする。そこではたと気付いた。これではまるで、ユンユンと恋愛関係になりたがっているようなものではないだろうか。
一瞬ぽぽぽと頬が染まった。ベッドの上で、びろーんとばかりに仰向けに伸びて寝ているユンユンをちらりと見て、それから首を振る。これはあくまで創作、この関係から着想を受けただけ。そうとなれば精一杯良い作品にして世に出したい。トウマは気を取り直して、キーボードを叩くのだった。
そんなある日のことである。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。とても珍しいことだ。元々あまり交友関係の広くないトウマの部屋に人が訪れることは稀で、ユンユンも目を覚ましてこちらを見ている。トウマは書きかけの原稿を上書き保存すると、モニター付きのインターホンに向かった。
「もしもし?」
『あっ、トウマ~!』
小さなモニター越しに、金髪の青年が映る。パーカーを着込んで困ったような笑顔で手を振っている男を、トウマは良く知っている。
「ああ、ソウジか」
トウマは微笑んで、すぐに鍵を開けに行った。ユンユンが「なーん」と鳴いていたけれど、「昔馴染みの友達だよ」と返しながらチェーンのかかった玄関を開く。部屋の前には、ソウジと呼ばれた男が立っていた。金色に染めた髪は根本が黒くなっていて、いわゆるプリンの様相を呈している。ゆるいパーカーもダボダボのデニムも、だらしないという印象しか与えない。顔は整っているのに。
「来るって連絡入れてくれてりゃ、何か用意したのに」
「いやいや、別にそんなおもてなしとか大丈夫、そう長居はしないから安心してくれよな」
「まあ、上がってくれ。猫がいるけど……」
トウマがそう言うと「猫!」とソウジは驚いた声を出した。
「万年、猫に逃げられてばっかりだったトウマがついに猫を飼えたのか⁉ やったじゃないか、どんな猫ちゃんだろうな」
トウマが促すと、ソウジはいそいそと部屋に上がって行った。また玄関に鍵をかけている間に、居室から「デカッ!」という大声が聞こえる。そのまま冷蔵庫に向かって麦茶を取り出し、グラスと辛うじて有ったスナック菓子を持ちリビングに戻る。
ソウジは床にしゃがみこんでいた。ん、と見ると、ベッドの下から白と黒の尻尾がちょこんと出ていて、べしんべしんと床を叩いている。
「あれ、ユンユン。人見知りしてるかな」
その尻尾の動きが、猫の苛立ちを表しているということはトウマも知っている。意外だな、と思った。あれほど堂々と夜の街を闊歩し、初対面のカナタとも打ち解けられるようなユンユンが、人見知りをするなんて。そういえば、家に誰かが来るのは初めてだった気もする。
「すげぇデカい猫だな、本当に猫なのか不安になるレベルだぞ」
ソウジはそう笑いながら立ち上がり、ベッドにどっかりと腰かける。来客用の椅子など無いから、そこはソウジの定位置だ。またユンユンの尻尾が、ビターンと床を叩いた。トウマは「ユンユン、こいつは俺の友達だから勘弁してやってくれ」と苦笑しながら、ソウジに飲み物とお菓子を渡す。
「悪いな~! いや、連絡してから来たほうがいいのはわかってたんだけど、スマホが止められちゃってさ」
「また資金繰りが上手くいってないのか? しょうがない奴だな」
お菓子を受け取ると、迷いなく開けて貪り始めたソウジを見て、トウマは肩を竦めた。そして隣に腰掛ける。
ソウジとトウマは小学生からの縁だ。彼は顔が良くて、自信家で調子がよかったが、どうにも実力が伴わない。偉そうな口ぶりもするし、その実、何をしたってダメだし誠意が無い。
自然とソウジは嫌われていったようだけれど、トウマはそんな彼を特段除け者にしたりはしなかった。トウマ自身、見た目や寡黙なことで人から距離を置かれがちだったからかもしれない。そうして、トウマがソウジを悪く扱わなかったのがよほど嬉しかったとみえる。彼はずっとずっとトウマに懐いていた。
いわゆる、腐れ縁という奴にも相当するかもしれなかった。ソウジは成績も悪く、努力もせず、遊ぶように暮らしては酷い目にあい、その度トウマに泣きついてきたものだ。正直、トウマも彼が家を訪れた時点で、何の要件かはわかっていたのだ。
「……で? 今日はいくら借りたいんだ」
ソウジが言い出しにくそうにしているのを待つのも面倒だった。このやりとりは何度も繰り返してきたし、一度として彼が借金を返したことも無かった。それでも、トウマは彼を邪険に扱ったりはしなかったし、金を返せと怒鳴ることもなかったのだ。ベッドの下からはみ出た尻尾がピタリと止まったのが見える。
「……トウマ~! お前、本当にいい友達だよ~!」
ソウジはスナック菓子を食べる手を止め、飲み物を置くとトウマに抱き着いた。お定まりの流れにトウマは苦笑しながら、「あーわかったわかったから、いくらいるんだよ」と返す。ソウジはパンッと手を合わせて、「すまん! この通りだ! 10万貸してくれ!」と頭を下げた。
「10万か……」
いつになく大きな金額に、トウマは流石に目を見開いた。いつもは1万とか3万とかそういう数字だったから。10万ともなると、流石にすぐ財布から出て来るような金額ではない。どのみち金を下ろしにいかないとどうにもならないが、今回ばかりはトウマも「何に使うんだ?」と尋ねた。
「オレは、オレは今度こそ真っ当になるよトウマ!」
真剣な眼差しでソウジがトウマを見つめる。その台詞も何回聞いたかわからない、と思っているのが伝わったのか「今度は見込みが有るんだ!」と彼は大きな声で説明してくれた。
知り合いのバーの店主が、ソウジのどうしようもない生き方を心配して、仕事先を斡旋してくれるというのだ。それも、真っ当な会社員として。真面目に勉強してこなかったソウジには何かと難しいことではあるけれど、大チャンスなのは間違いない。ソウジはこれから起こるあらゆる困難に立ち向かう覚悟を決めたという。その為に、とりあえずスマホや水道電気の滞納を解消し、スーツとビジネスシューズと鞄を買って髪を切り染め直さなくてはいけない。その金を貸してほしい、ということだった。
「必ず返す! 必ずだ! 就職が決まったら少しづつでも絶対に返す! オレ、もうこのチャンスを逃したら次は無いと思ってんたよトウマ……! これは俺が人生やり直すラストチャンスだ、頼むよ、もう誰もオレのこと信じてくれないんだ、頼れるのはトウマだけなんだよ~!」
泣きつかれながら、それはそうだろう、と心の中で思う。ソウジがどれほど苦労をしていても、それは半ば自業自得のようなものもあるし。こういうことを何度言って、何度失敗してまた泣きついてきたかもわからない。今回だって同じかもしれない。第一、本当にそんなチャンスがあって、そういう前向きな理由で使うのかも怪しいと言えば怪しいのだ。
なのだけれど。
「……わかった、わかったよ。でも手持ちが無いから、銀行に下ろしに行かないと」
「……! トウマ、ありがとう~! お前はオレの親友だよ~!」
トウマが溜息混じりにそう答え、ソウジが再び抱き着いてきた時。
「フシャアアーーーッ!」
突然ベッドの下からユンユンが飛び出して、ソウジに飛びかかった。
「「うわぁあああ⁉」」
ソウジとトウマは二人して悲鳴を上げて飛び退く。ユンユンは全身の毛を逆立てて、まさに怒髪天といった様相だ。
「お、おい! 猫ちゃんめちゃくちゃ怒ってるよ⁉」
「ど、どうしたんだろうな。ユンユン、落ち着いて……お客さん来てドタバタしたから興奮したのかな、ごめん、ごめんな、ちょっと俺達、出かけてくるから……」
「うみゃぁあああああんなああああ!」
なんとも形容しがたい叫び声を上げて、ユンユンはまたソウジに飛びかかろうとする。「ワーーッ!」とトウマはなんとかその巨体を捕まえて、「いい子にしててくれーっ!」となだめようとしたが、どうにもいうことを聞かない。
「ソウジ、悪い! 先に外に出ててくれ、俺もすぐ出るから! 夕飯でも一緒に食おう、どうせ飯代無いんだろ」
「おおお、おう、トウマ本当にありがとうな! じゃあオレは先に出てるから、」
「うみゃああああおおおおおっ!」
ユンユンは怒り心頭だ。大慌てで逃げていくソウジを見て喚いているのを、トウマが「ユンユン、いい子だから」と抱きしめる。がぶ、と軽く肩を噛まれて、「いてて」と思わず声を漏らすとすぐに口を離してくれた。
「ユンユン、どうしたんだよ。頼む、いい子にしててくれ、な? 帰ったら話聞くから……」
そう言って逆立った毛を撫でてやる。ユンユンはじっとトウマを見つめると、それでようやく大人しくなった。尻尾は、たしーん、たしーんと床を叩いていたけれど。
「じゃ、じゃあ行ってくるから。お留守番しててくれよ? 大丈夫、アイツは悪いやつじゃないから、人になって追いかけてこなくても大丈夫だからな?」
トウマはそう言い残して、財布を手に取るとソウジと共に家を後にした。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる