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第二話 ユンユンと夜の街
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「なるほどねえ~、飼ってた猫が猫又で、夜な夜な街に繰り出してることをある日カミングアウトする……」
白髪交じりの中年男性が、エプロン姿で顎に手をやり、うんうん頷いている。それから、にっこりと笑った。
「いいじゃない、昔からよく有るパターンだけど、そこからどうとでも話を広げられる受け入れやすさが有る。おじさんは楽しみだなあ、『時次』さんの次回作!」
そう言われて、トウマは困ったように笑った。
「あ、はあ、いやその……はい、次回作も、頑張り、ます……」
書けたらお見せしますね。トウマは結局本当のことを強く言うことができなかった。
そこはトウマ行きつけの小さなペットショップだ。犬や猫、鳥やハムスターのエサやオモチャが所狭しと並んでいる店内は、少々窮屈だが、トウマには少し心地良く思えた。あまり他の客がいないからでもある。
家から歩いて行ける距離に有って便利だし、何より店の経営者――つまり、目の前の人物が親戚にあたる。下の名前をカナタといい、こちらで独り暮らしを始めてからずっとよくしてくれている。もちろん、最近はユンユンのことを相談したり、エサを買わせてもらったりしているわけだ。
猫用のご飯を買いに来たついでに、いつも世話になっているしと思い切って打ち明けたのだ。もちろん、前立腺のことは言わなかったけれど。しかしどのみち、彼は一連の話を『フィクション』だと認識したようだ。
それもしかたないか、とトウマは思った。なにしろ、トウマは『幻想小説』を書いている作家なのだ。
と言っても、トウマは名の知れた大作家、というわけではない。電子書籍を数冊と、紙の本を1冊出しただけでも素晴らしい、と言う人はいる。しかし、幻想小説家『時次』の名はまだまだ無名で、それだけで食べて生きるということもできなかったから、トウマ自身はプロとアマの間だと思っている。
幻想小説家が猫又なんてオーソドックスな妖怪の話をするなら、次の作品の構想だと思われてもしかたないだろう。事実、ユンユンのことを意外なほど素直に受け入れられたのも、これが理由の一つだとトウマ自身思っている。この世に不思議なことはあるかもしれない。そう思っているからこそ、現実と不思議の狭間を物語にするような作品を書き連ねているのだから。
「ああ~それと、本当に申し訳無いんだけど、また、頼めるかな?」
カナタがバツが悪そうに言う。トウマはすぐに理解して、「ああ、町内会のお知らせ?」と尋ねた。
「そうなんだよ~、ごめんね、手書きの原稿はできてるから……」
そう言って、カナタは一枚の紙を渡してくる。今どきなかなか見ない、鉛筆で書いた町内会のお知らせだ。カナタは歳のせいもあって、パソコンの類が全く使えず携帯電話さえ持っていないという状態だ。しかし体裁も有って、パソコンなりスマホなり、とにかく電子機器を利用して書いた物でないと、読みにくいだなんだと文句を言われる。困っていたカナタに、トウマが声をかけたのがきっかけで、これまでも何度か清書をしてやっていた。
「急ぎます?」
「そうだなあ~、水曜日ぐらいまでにもらえると助かるよ」
「わかりました、やっときます」
これぐらいの文章量なら、一日有れば余裕でできるだろう。トウマはそう考えながら、トートバッグからノートを取り出す。原稿がクシャクシャにならないよう、きちんと挟んでからしまう。そうしていると、カナタは嬉しそうに商品棚に手をやった。
「じゃあこれ、前金の代わりに」
バサバサと袋に猫用のおやつを詰めている。「いやそんなには、」と慌てるトウマに、「いやいやいやこれぐらいは」と返してどんどん放り込んでいた。一か月分は有るんじゃないかとか、ユンユンは猫用のおやつを食べて喜ぶんだろうかとか、さすがにそんな量は現金に換算するともらいすぎだとか色々考える。
「トウマ君にはいつもお世話になってるしね。それに、僕は君の猫ちゃんも感謝してるんだ?」
「うちのユンユンに?」
首を傾げると、カナタは頷いた。
「ユンユン君が来てから、トウマ君はなんだかいつも嬉しそうな顔をしていてね。それでおじさんも嬉しくなっちゃうんだ」
「……はあ、……そうですかね……?」
むにむに、と自分の頬を撫でる。そう言われると、どうも気恥ずかしかった。
「他に何か要るものは有るかな? オマケしといてあげるよ」
「ええ、悪いですよ、」
「いいからいいから! ユンユン君におじさんからのプレゼントってことで」
カナタは柔和そうな男ではあるけれど、案外と引かない。ううん、とトウマは悩んだ後で、「ああ、じゃあ何かネコ用のオモチャを……」と提案した。
さて、この大量のオヤツをどうやってユンユンから隠そう。いやそもそも人型になられでもしたら、引出しなんて簡単に開けられるだろうし。
悶々と考えながら帰宅する。ユンユンは今日も相変わらず、コタツの中に潜っているようだった。
「ユンユン、ただいま~」
声をかけたけれど、「なーん」と小さな声が聞こえたぐらいで、出てこない。猫又でも寒いのは苦手なのかなとかそんなことを考えつつ、オヤツの大半を引出しの一番下に隠した。2メートルの巨体には、逆に低いところのほうが探しにくいかもしれない、と考えてのことだ。実際どうだかは知らない。
猫用オヤツの『にゅ~る』と、もらった猫じゃらしを持ってコタツへと向かう。布団をまくり上げると、青い瞳と眼が合った。いつ見ても神秘的に美しい瞳だ。トウマは彼に微笑みかけながら、「ユンユン、オヤツとオモチャだよ」と猫じゃらしを振って見せる。
ユンユンはじっと猫じゃらしを見つめて、その動きに合わせて首を動かす。
(あ、案外こういうの好きなのか)
ゆっくり振って、素早く振って、止めて、を繰り返すと、それに合わせて首を動かしながら、姿勢を低く低く下げていく。トウマもいつ飛びついてくるかと思うとドキドキしてきた。ピュッと動かすとユンユンが猫じゃらしに飛びつく。それをなんとか避けてさらに猫じゃらしを振ると、何度も何度も飛びついてきた。
「おお、おお意外と食いつきがいい」
猫又になってもこういうのは好きなのか。そう思っていると、ユンユンは突然猫じゃらしに興味を失ったようにゴロンと床に転がり、しきりに毛づくろいを始めてしまった。
「あれ、ユンユン~」
そうなると、後はどれだけ猫じゃらしを振っても見向きもしない。うーん、遊び方が悪かったかな、と猫じゃらしを置くと、ユンユンは起き上がってトウマにすり寄ってきた。今度は甘えたいようだ。
「よしよし、ユンユン。オヤツ食べようか」
『にゅ~る』だよ。とその言葉を聞いた途端、ユンユンの眼が輝く。今までになく嬉しそうな表情を見せるユンユンに、(猫又も『にゅ~る』が好きなんだな……)と少し面白くなった。封を切って差し出すと、無我夢中といった様子でオヤツを舐め始める。それが可愛くて、トウマはユンユンを優しく撫でた。
ああ、ユンユンが前立腺開発するとか言わなきゃ、本当にただただ幸せな猫との日常なのになあ。
トウマはボンヤリとそう思った。
ややしてオヤツを食べ終わって満足したユンユンは、トウマのベッドに登って丸くなった。それを見送って、トウマはパソコンを開く。カナタからもらった町内会の原稿を、と考えてから、ふと思い出して『猫又』を検索する。どうやら山奥に住む巨大な獣タイプと、人に飼われていたものが年を取って化け猫になるパターンがあるらしい。尻尾が増えるというのが通説らしいけど、ユンユンは一本だけどなあ……とベッドのユンユンを見たつもりが、目の前に裸のユンユンが立っていたものだから、トウマは悲鳴を上げた。
「うわっ、ユンユン⁉」
「ご主人サマ、それ何アルカ?」
股間が見えないように両手を出して隠しているのに、ユンユンは気にした様子も無く町内会のチラシを指差す。トウマは困ってユンユンから目を逸らしながら答えた。
「ふ、服着て……。これは、ホラ。お前のご飯やオヤツを売ってくれてるカナタさんって親戚がさ。パソコン使えないから、清書を頼まれてるんだ。水曜日までにって……」
「フゥン」
ユンユンは聞いた割りにあまり興味が無さそうに答えて、のんびりとタンスに向かった。以前と同じように服を着ている間に、トウマは猫又の検索画面を消そうとしていたけれど「ワタクシのことが気になるアルカ?」と尋ねられて飛び上がるかと思った。
「な、何、ユンユンって心とか読めるのか?」
「別にそういうわけではないネ。長く生きてるから、ヒトが何を考えてるかなんとなくわかるだけヨ」
それは心が読めるのとは違うんだろうか。トウマが困惑しているうちに、ユンユンが背後に来てしまったから結局検索画面は消せなかった。
「ヒトも猫又について色々推測してるアルネェ」
「えと……ユンユンは、これ、どっちが当てはまる?」
山に住む巨大な獣、という点では、ユンユンの体長が当てはまる気がするけど。トウマの疑問に、ユンユンは「ワタクシはどっちつかずネェ」と答えた。
「最初に飼ってくれたヒトの所で猫又になったケド、別に歳を取ったからじゃなかったアルシナァ」
「そ、そうなんだ……」
所詮、伝承は伝承で事実は異なる、か。ちょっと創作に活かせそうかも……。そんなことを考えていると、ユンユンがトウマの髪をつつき始める。まるで猫がじゃれるように。
「ちょ、ちょっと、ユンユン」
「アナタの髪、ちょっと不思議な色してるネ」
「ああ、まあそう、生まれつきなんだよ。ちょっと灰色かかってるだろ、学生時代は苦労したよ、素行不良だと思われたりしてさ……」
トウマは苦笑する。誰の遺伝が起こったのやら、親族にだってこんな髪はいない。それが理由で色々言われたりしたものだが、それでも気にしなかった人々はいる。それがありがたいと感謝しこそすれ、トウマは世の中を恨んだりはしなかった。家族に深く愛されていたからかもしれないし、それだけではないかもしれない。いずれにしろ、トウマは深く知り合った者からには「いい人」と言われるような人間に成長したのだ。
「……フゥン」
ユンユンはやはりあまり興味が無いような声を出し、それで会話を打ち切って、近くの床に転がった。そして丸くなって眠りだしたので、人の姿のまま寝るんだ……と思いながら、彼が風邪を引かないようにと、温かな毛布をかけてやった。
白髪交じりの中年男性が、エプロン姿で顎に手をやり、うんうん頷いている。それから、にっこりと笑った。
「いいじゃない、昔からよく有るパターンだけど、そこからどうとでも話を広げられる受け入れやすさが有る。おじさんは楽しみだなあ、『時次』さんの次回作!」
そう言われて、トウマは困ったように笑った。
「あ、はあ、いやその……はい、次回作も、頑張り、ます……」
書けたらお見せしますね。トウマは結局本当のことを強く言うことができなかった。
そこはトウマ行きつけの小さなペットショップだ。犬や猫、鳥やハムスターのエサやオモチャが所狭しと並んでいる店内は、少々窮屈だが、トウマには少し心地良く思えた。あまり他の客がいないからでもある。
家から歩いて行ける距離に有って便利だし、何より店の経営者――つまり、目の前の人物が親戚にあたる。下の名前をカナタといい、こちらで独り暮らしを始めてからずっとよくしてくれている。もちろん、最近はユンユンのことを相談したり、エサを買わせてもらったりしているわけだ。
猫用のご飯を買いに来たついでに、いつも世話になっているしと思い切って打ち明けたのだ。もちろん、前立腺のことは言わなかったけれど。しかしどのみち、彼は一連の話を『フィクション』だと認識したようだ。
それもしかたないか、とトウマは思った。なにしろ、トウマは『幻想小説』を書いている作家なのだ。
と言っても、トウマは名の知れた大作家、というわけではない。電子書籍を数冊と、紙の本を1冊出しただけでも素晴らしい、と言う人はいる。しかし、幻想小説家『時次』の名はまだまだ無名で、それだけで食べて生きるということもできなかったから、トウマ自身はプロとアマの間だと思っている。
幻想小説家が猫又なんてオーソドックスな妖怪の話をするなら、次の作品の構想だと思われてもしかたないだろう。事実、ユンユンのことを意外なほど素直に受け入れられたのも、これが理由の一つだとトウマ自身思っている。この世に不思議なことはあるかもしれない。そう思っているからこそ、現実と不思議の狭間を物語にするような作品を書き連ねているのだから。
「ああ~それと、本当に申し訳無いんだけど、また、頼めるかな?」
カナタがバツが悪そうに言う。トウマはすぐに理解して、「ああ、町内会のお知らせ?」と尋ねた。
「そうなんだよ~、ごめんね、手書きの原稿はできてるから……」
そう言って、カナタは一枚の紙を渡してくる。今どきなかなか見ない、鉛筆で書いた町内会のお知らせだ。カナタは歳のせいもあって、パソコンの類が全く使えず携帯電話さえ持っていないという状態だ。しかし体裁も有って、パソコンなりスマホなり、とにかく電子機器を利用して書いた物でないと、読みにくいだなんだと文句を言われる。困っていたカナタに、トウマが声をかけたのがきっかけで、これまでも何度か清書をしてやっていた。
「急ぎます?」
「そうだなあ~、水曜日ぐらいまでにもらえると助かるよ」
「わかりました、やっときます」
これぐらいの文章量なら、一日有れば余裕でできるだろう。トウマはそう考えながら、トートバッグからノートを取り出す。原稿がクシャクシャにならないよう、きちんと挟んでからしまう。そうしていると、カナタは嬉しそうに商品棚に手をやった。
「じゃあこれ、前金の代わりに」
バサバサと袋に猫用のおやつを詰めている。「いやそんなには、」と慌てるトウマに、「いやいやいやこれぐらいは」と返してどんどん放り込んでいた。一か月分は有るんじゃないかとか、ユンユンは猫用のおやつを食べて喜ぶんだろうかとか、さすがにそんな量は現金に換算するともらいすぎだとか色々考える。
「トウマ君にはいつもお世話になってるしね。それに、僕は君の猫ちゃんも感謝してるんだ?」
「うちのユンユンに?」
首を傾げると、カナタは頷いた。
「ユンユン君が来てから、トウマ君はなんだかいつも嬉しそうな顔をしていてね。それでおじさんも嬉しくなっちゃうんだ」
「……はあ、……そうですかね……?」
むにむに、と自分の頬を撫でる。そう言われると、どうも気恥ずかしかった。
「他に何か要るものは有るかな? オマケしといてあげるよ」
「ええ、悪いですよ、」
「いいからいいから! ユンユン君におじさんからのプレゼントってことで」
カナタは柔和そうな男ではあるけれど、案外と引かない。ううん、とトウマは悩んだ後で、「ああ、じゃあ何かネコ用のオモチャを……」と提案した。
さて、この大量のオヤツをどうやってユンユンから隠そう。いやそもそも人型になられでもしたら、引出しなんて簡単に開けられるだろうし。
悶々と考えながら帰宅する。ユンユンは今日も相変わらず、コタツの中に潜っているようだった。
「ユンユン、ただいま~」
声をかけたけれど、「なーん」と小さな声が聞こえたぐらいで、出てこない。猫又でも寒いのは苦手なのかなとかそんなことを考えつつ、オヤツの大半を引出しの一番下に隠した。2メートルの巨体には、逆に低いところのほうが探しにくいかもしれない、と考えてのことだ。実際どうだかは知らない。
猫用オヤツの『にゅ~る』と、もらった猫じゃらしを持ってコタツへと向かう。布団をまくり上げると、青い瞳と眼が合った。いつ見ても神秘的に美しい瞳だ。トウマは彼に微笑みかけながら、「ユンユン、オヤツとオモチャだよ」と猫じゃらしを振って見せる。
ユンユンはじっと猫じゃらしを見つめて、その動きに合わせて首を動かす。
(あ、案外こういうの好きなのか)
ゆっくり振って、素早く振って、止めて、を繰り返すと、それに合わせて首を動かしながら、姿勢を低く低く下げていく。トウマもいつ飛びついてくるかと思うとドキドキしてきた。ピュッと動かすとユンユンが猫じゃらしに飛びつく。それをなんとか避けてさらに猫じゃらしを振ると、何度も何度も飛びついてきた。
「おお、おお意外と食いつきがいい」
猫又になってもこういうのは好きなのか。そう思っていると、ユンユンは突然猫じゃらしに興味を失ったようにゴロンと床に転がり、しきりに毛づくろいを始めてしまった。
「あれ、ユンユン~」
そうなると、後はどれだけ猫じゃらしを振っても見向きもしない。うーん、遊び方が悪かったかな、と猫じゃらしを置くと、ユンユンは起き上がってトウマにすり寄ってきた。今度は甘えたいようだ。
「よしよし、ユンユン。オヤツ食べようか」
『にゅ~る』だよ。とその言葉を聞いた途端、ユンユンの眼が輝く。今までになく嬉しそうな表情を見せるユンユンに、(猫又も『にゅ~る』が好きなんだな……)と少し面白くなった。封を切って差し出すと、無我夢中といった様子でオヤツを舐め始める。それが可愛くて、トウマはユンユンを優しく撫でた。
ああ、ユンユンが前立腺開発するとか言わなきゃ、本当にただただ幸せな猫との日常なのになあ。
トウマはボンヤリとそう思った。
ややしてオヤツを食べ終わって満足したユンユンは、トウマのベッドに登って丸くなった。それを見送って、トウマはパソコンを開く。カナタからもらった町内会の原稿を、と考えてから、ふと思い出して『猫又』を検索する。どうやら山奥に住む巨大な獣タイプと、人に飼われていたものが年を取って化け猫になるパターンがあるらしい。尻尾が増えるというのが通説らしいけど、ユンユンは一本だけどなあ……とベッドのユンユンを見たつもりが、目の前に裸のユンユンが立っていたものだから、トウマは悲鳴を上げた。
「うわっ、ユンユン⁉」
「ご主人サマ、それ何アルカ?」
股間が見えないように両手を出して隠しているのに、ユンユンは気にした様子も無く町内会のチラシを指差す。トウマは困ってユンユンから目を逸らしながら答えた。
「ふ、服着て……。これは、ホラ。お前のご飯やオヤツを売ってくれてるカナタさんって親戚がさ。パソコン使えないから、清書を頼まれてるんだ。水曜日までにって……」
「フゥン」
ユンユンは聞いた割りにあまり興味が無さそうに答えて、のんびりとタンスに向かった。以前と同じように服を着ている間に、トウマは猫又の検索画面を消そうとしていたけれど「ワタクシのことが気になるアルカ?」と尋ねられて飛び上がるかと思った。
「な、何、ユンユンって心とか読めるのか?」
「別にそういうわけではないネ。長く生きてるから、ヒトが何を考えてるかなんとなくわかるだけヨ」
それは心が読めるのとは違うんだろうか。トウマが困惑しているうちに、ユンユンが背後に来てしまったから結局検索画面は消せなかった。
「ヒトも猫又について色々推測してるアルネェ」
「えと……ユンユンは、これ、どっちが当てはまる?」
山に住む巨大な獣、という点では、ユンユンの体長が当てはまる気がするけど。トウマの疑問に、ユンユンは「ワタクシはどっちつかずネェ」と答えた。
「最初に飼ってくれたヒトの所で猫又になったケド、別に歳を取ったからじゃなかったアルシナァ」
「そ、そうなんだ……」
所詮、伝承は伝承で事実は異なる、か。ちょっと創作に活かせそうかも……。そんなことを考えていると、ユンユンがトウマの髪をつつき始める。まるで猫がじゃれるように。
「ちょ、ちょっと、ユンユン」
「アナタの髪、ちょっと不思議な色してるネ」
「ああ、まあそう、生まれつきなんだよ。ちょっと灰色かかってるだろ、学生時代は苦労したよ、素行不良だと思われたりしてさ……」
トウマは苦笑する。誰の遺伝が起こったのやら、親族にだってこんな髪はいない。それが理由で色々言われたりしたものだが、それでも気にしなかった人々はいる。それがありがたいと感謝しこそすれ、トウマは世の中を恨んだりはしなかった。家族に深く愛されていたからかもしれないし、それだけではないかもしれない。いずれにしろ、トウマは深く知り合った者からには「いい人」と言われるような人間に成長したのだ。
「……フゥン」
ユンユンはやはりあまり興味が無いような声を出し、それで会話を打ち切って、近くの床に転がった。そして丸くなって眠りだしたので、人の姿のまま寝るんだ……と思いながら、彼が風邪を引かないようにと、温かな毛布をかけてやった。
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