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第二章 異世界トーナメント編

30 地上へ①

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「水よ!」

美形のエルフであるイーサンの右手から、小さな光が飛び立ったかと思うと、大量の水が不動仁の周りに出現する。

「プロケッラ!」

続いて、長衣を纏った美少女魔術師のリスティンが叫ぶと、暴風が吹き荒れ、不動仁の周囲を薄い水の障壁で覆った。

「いまだ、雷槍ケラウノス!」

最後に、獣人ライカンスロープの槍使いアーベルが、魔神の加護によって得たスキルである瞬雷と、自身の槍術を組み合わせて生み出したオリジナルの技によって、視界を防がれた不動仁へと襲いかかる。
完璧なコンビネーションに見えたが、次の瞬間水の障壁から飛び出してきたのは、アーベルだった。

「ぐわぁ!」

ダンダンッと二回三回と石床に叩きつけられるアーベル。
水の障壁によって見えなかったが、不動仁によってカウンターを合わせられたのだろう。

「とうとう神憑かみがかりを使わなくても合わせられるようになったわね」
「あれは我ではないからな。技のキレが違うし」

言い訳する魔神十二支のひとり、雷光のアステリオス。
そんなアステリオスと私こと運命と転生の女神であるクロトの視線の先には、水の障壁が解かれ、中から悠然と歩むこの世界とは別の世界で最強を張っていた武闘家──不動仁の姿があった。

「よし、こんなものだな。そろそろ地上へと戻るか」

不動仁のその言葉に、心底ホッとした様子を見せたのは、この迷宮の主人であるアステリオスである。
地下三十階のこの迷宮にて、いきなり訓練を開始してからおそよ二週間。
はっきりいって迷惑だっただろう。

「そうしてくれるとありがたい」
「本当、ごめんねー」

それから、食事をしながら休息をとることに。
収納のスクロールからサンドイッチ等の食事を準備すると、集まってきたメンバーに渡していく。

「それで、外に出たらどうするんすか?」

金鶏グリンカムビの玉子サンドを食べながら、アーベルが不動仁に質問する。
お金に関しては、迷宮のクリア報酬として賢者の石の塊を手に入れた以上、当分心配がないからね。
金銭が目的なら、ここで冒険者を辞めてもなんら問題はない。

「ダンジョンとやらは、ここの他にあと十一あるといっていたな。その全てにお前のような魔神がいるのか?」
「うむ。魔神十二支という。まあ、その中でも虎である聖獣ドゥンに馬である明王ハヤグリーヴァ、猿である風刃ハヌマーンなどは其方と気があうであろうよ。
あれらも其方と同じく戦闘狂であるからな」
「なるほど」
「強いといえば十二支である輝石ヴィーヴルは戦を好まぬが、竜族は他の魔物に比べ明らかに別格ではある。まあ、調べればわかることだが、どのダンジョンにいるかは教えてやってもよい」
「頼む」

そうして他のダンジョンの情報を手に入れる中、アーベルが口を開いた。

「強いやつと戦いたいのであれば、武芸大会に出るのはどうです?」
「武芸大会?」
「ええ。確か王都で開催される天下一武芸大会が近々開催される予定だったような……」

またヤバそうなネーミングね。いやまあ、いいんだけどさ。

「前回の天一覇者竜殺しオーレンなんかも出るそうっすよ」

いやいやいや、京都発祥のラーメン屋みたいな略し方をするんじゃない。

「なるほど。ダンジョンにはいつでも行くことができるからな。おい、ここから王都とやらまではどの程度かかる?」
「えっ?
あー、そうね。歩きだと一週間ってところかしら。
……って、またあんな運び方は絶対嫌よ!」

私が必死に首を横に振ると、イーサンがいった。

「馬車の定期便が出ているはずですよ。もしくはお金に余裕があるので、駿馬アレイオーンを購入するのもいいかもしれません。
天馬ペガサスだともっと早いでしょうが、数が揃わないと思うので」
「ふむ。まあ、とりあえずは地上へと出てから考えるか」

そうして私たちは、地上へと向かって出発した。
「もう二度と来るなよ」などと、出所を見送る刑務官のように、アステリオスが手を振ったことはいうまでもない。
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