37 / 50
第二章 異世界トーナメント編
30 地上へ①
しおりを挟む
「水よ!」
美形のエルフであるイーサンの右手から、小さな光が飛び立ったかと思うと、大量の水が不動仁の周りに出現する。
「プロケッラ!」
続いて、長衣を纏った美少女魔術師のリスティンが叫ぶと、暴風が吹き荒れ、不動仁の周囲を薄い水の障壁で覆った。
「いまだ、雷槍!」
最後に、獣人の槍使いアーベルが、魔神の加護によって得たスキルである瞬雷と、自身の槍術を組み合わせて生み出したオリジナルの技によって、視界を防がれた不動仁へと襲いかかる。
完璧なコンビネーションに見えたが、次の瞬間水の障壁から飛び出してきたのは、アーベルだった。
「ぐわぁ!」
ダンダンッと二回三回と石床に叩きつけられるアーベル。
水の障壁によって見えなかったが、不動仁によってカウンターを合わせられたのだろう。
「とうとう神憑りを使わなくても合わせられるようになったわね」
「あれは我ではないからな。技のキレが違うし」
言い訳する魔神十二支のひとり、雷光のアステリオス。
そんなアステリオスと私こと運命と転生の女神であるクロトの視線の先には、水の障壁が解かれ、中から悠然と歩むこの世界とは別の世界で最強を張っていた武闘家──不動仁の姿があった。
「よし、こんなものだな。そろそろ地上へと戻るか」
不動仁のその言葉に、心底ホッとした様子を見せたのは、この迷宮の主人であるアステリオスである。
地下三十階のこの迷宮にて、いきなり訓練を開始してからおそよ二週間。
はっきりいって迷惑だっただろう。
「そうしてくれるとありがたい」
「本当、ごめんねー」
それから、食事をしながら休息をとることに。
収納のスクロールからサンドイッチ等の食事を準備すると、集まってきたメンバーに渡していく。
「それで、外に出たらどうするんすか?」
金鶏の玉子サンドを食べながら、アーベルが不動仁に質問する。
お金に関しては、迷宮のクリア報酬として賢者の石の塊を手に入れた以上、当分心配がないからね。
金銭が目的なら、ここで冒険者を辞めてもなんら問題はない。
「ダンジョンとやらは、ここの他にあと十一あるといっていたな。その全てにお前のような魔神がいるのか?」
「うむ。魔神十二支という。まあ、その中でも虎である聖獣ドゥンに馬である明王ハヤグリーヴァ、猿である風刃ハヌマーンなどは其方と気があうであろうよ。
あれらも其方と同じく戦闘狂であるからな」
「なるほど」
「強いといえば十二支である輝石ヴィーヴルは戦を好まぬが、竜族は他の魔物に比べ明らかに別格ではある。まあ、調べればわかることだが、どのダンジョンにいるかは教えてやってもよい」
「頼む」
そうして他のダンジョンの情報を手に入れる中、アーベルが口を開いた。
「強いやつと戦いたいのであれば、武芸大会に出るのはどうです?」
「武芸大会?」
「ええ。確か王都で開催される天下一武芸大会が近々開催される予定だったような……」
またヤバそうなネーミングね。いやまあ、いいんだけどさ。
「前回の天一覇者竜殺しオーレンなんかも出るそうっすよ」
いやいやいや、京都発祥のラーメン屋みたいな略し方をするんじゃない。
「なるほど。ダンジョンにはいつでも行くことができるからな。おい、ここから王都とやらまではどの程度かかる?」
「えっ?
あー、そうね。歩きだと一週間ってところかしら。
……って、またあんな運び方は絶対嫌よ!」
私が必死に首を横に振ると、イーサンがいった。
「馬車の定期便が出ているはずですよ。もしくはお金に余裕があるので、駿馬を購入するのもいいかもしれません。
天馬だともっと早いでしょうが、数が揃わないと思うので」
「ふむ。まあ、とりあえずは地上へと出てから考えるか」
そうして私たちは、地上へと向かって出発した。
「もう二度と来るなよ」などと、出所を見送る刑務官のように、アステリオスが手を振ったことはいうまでもない。
美形のエルフであるイーサンの右手から、小さな光が飛び立ったかと思うと、大量の水が不動仁の周りに出現する。
「プロケッラ!」
続いて、長衣を纏った美少女魔術師のリスティンが叫ぶと、暴風が吹き荒れ、不動仁の周囲を薄い水の障壁で覆った。
「いまだ、雷槍!」
最後に、獣人の槍使いアーベルが、魔神の加護によって得たスキルである瞬雷と、自身の槍術を組み合わせて生み出したオリジナルの技によって、視界を防がれた不動仁へと襲いかかる。
完璧なコンビネーションに見えたが、次の瞬間水の障壁から飛び出してきたのは、アーベルだった。
「ぐわぁ!」
ダンダンッと二回三回と石床に叩きつけられるアーベル。
水の障壁によって見えなかったが、不動仁によってカウンターを合わせられたのだろう。
「とうとう神憑りを使わなくても合わせられるようになったわね」
「あれは我ではないからな。技のキレが違うし」
言い訳する魔神十二支のひとり、雷光のアステリオス。
そんなアステリオスと私こと運命と転生の女神であるクロトの視線の先には、水の障壁が解かれ、中から悠然と歩むこの世界とは別の世界で最強を張っていた武闘家──不動仁の姿があった。
「よし、こんなものだな。そろそろ地上へと戻るか」
不動仁のその言葉に、心底ホッとした様子を見せたのは、この迷宮の主人であるアステリオスである。
地下三十階のこの迷宮にて、いきなり訓練を開始してからおそよ二週間。
はっきりいって迷惑だっただろう。
「そうしてくれるとありがたい」
「本当、ごめんねー」
それから、食事をしながら休息をとることに。
収納のスクロールからサンドイッチ等の食事を準備すると、集まってきたメンバーに渡していく。
「それで、外に出たらどうするんすか?」
金鶏の玉子サンドを食べながら、アーベルが不動仁に質問する。
お金に関しては、迷宮のクリア報酬として賢者の石の塊を手に入れた以上、当分心配がないからね。
金銭が目的なら、ここで冒険者を辞めてもなんら問題はない。
「ダンジョンとやらは、ここの他にあと十一あるといっていたな。その全てにお前のような魔神がいるのか?」
「うむ。魔神十二支という。まあ、その中でも虎である聖獣ドゥンに馬である明王ハヤグリーヴァ、猿である風刃ハヌマーンなどは其方と気があうであろうよ。
あれらも其方と同じく戦闘狂であるからな」
「なるほど」
「強いといえば十二支である輝石ヴィーヴルは戦を好まぬが、竜族は他の魔物に比べ明らかに別格ではある。まあ、調べればわかることだが、どのダンジョンにいるかは教えてやってもよい」
「頼む」
そうして他のダンジョンの情報を手に入れる中、アーベルが口を開いた。
「強いやつと戦いたいのであれば、武芸大会に出るのはどうです?」
「武芸大会?」
「ええ。確か王都で開催される天下一武芸大会が近々開催される予定だったような……」
またヤバそうなネーミングね。いやまあ、いいんだけどさ。
「前回の天一覇者竜殺しオーレンなんかも出るそうっすよ」
いやいやいや、京都発祥のラーメン屋みたいな略し方をするんじゃない。
「なるほど。ダンジョンにはいつでも行くことができるからな。おい、ここから王都とやらまではどの程度かかる?」
「えっ?
あー、そうね。歩きだと一週間ってところかしら。
……って、またあんな運び方は絶対嫌よ!」
私が必死に首を横に振ると、イーサンがいった。
「馬車の定期便が出ているはずですよ。もしくはお金に余裕があるので、駿馬を購入するのもいいかもしれません。
天馬だともっと早いでしょうが、数が揃わないと思うので」
「ふむ。まあ、とりあえずは地上へと出てから考えるか」
そうして私たちは、地上へと向かって出発した。
「もう二度と来るなよ」などと、出所を見送る刑務官のように、アステリオスが手を振ったことはいうまでもない。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる