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一章 異世界迷宮編
19 倒してしまっても構わんのだろう?
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オーガをも凌ぐ膂力に、猛牛の突進力。
巨大な斧を易々と振り回し、脆弱な攻撃など物ともしない耐久力に優れた魔人。
これまでの魔物と比べると、個体としてはるかに強く、それが隧道のような広い場所ではなく限られた道幅の通路に現れるのだ。
冒険者にとってはまさに最悪の相手だろう。
そんな暴風のようなミノタウロスの斧を難なくかいくぐり、不動仁はその巨体に肉薄すると、まずは鼻に向かって掌底を叩き込む。
ミノタウロスが激痛により足を止め、顔を上げて胸を見せたところに、壁を破壊したとき同様捻った上半身からの右ストレートを見舞った。
インパクトの瞬間に心臓へと肩、肘、手首を連動させて内側に捻り込むハートブレイク・ショット。
この場合、本当に心臓が破壊されているため、ミノタウロスはピクリとも動くことなく前のめりに倒れていった。
「いやあ、通常二日程度かかるところを、ほとんど上の階層とかわらない時間で攻略というのは、なんなんすかねー」
下へと降りる階段を前に、アーベルが口を開く。
まあでも、壁をぶち抜いていくなんて普通は考えないと思うよ。
「けれども、ここで時間がかからないというのはいいですね」
「そうですよ。生きた迷宮の中じゃあ、中々心安まらないですからね」
まあ、狭い場所でいつミノタウロスやその他の魔物に襲われるかわからない状況なんて、普通の冒険者ならなるべく避けたいところだろう。
「このままあと四階、ジンさんを先頭に頑張りましょう」
つまりは、ここと同じ階層があと四階続くということだった。
まあ、私は見てるだけだし、いいけどね。
そんな調子で、私たちは下へ下へと降りていく。
途中、他の冒険者も見かけたが、皆一様に口を開けて唖然としたままこちらを見ているだけだった。
そして、私たちは生きた迷宮の終わり──地下十五階へと続く階段の前へと辿り着く。
「あー、ジンさん。この先の階層は特殊で、奥に階層守護者がいる」
「階層守護者?」
「たった一体で多くの冒険者を相手にする、めちゃくちゃ強い魔物のことなんだけど……」
「俺がひとりで相手をする」
アーベルの言葉が終わる前に不動仁がいった。
「いや、でもジンさん、階層守護者に対しては、俺たちでも他の冒険者たちと協力して……」
「俺がひとりで相手をする。三度目はないぞ」
有無をいわさぬ不動仁の言葉に、アーベルはあきらめたように首を振る。
「了解。俺たちは自分の守りに徹しますよ」
「そうしろ」
「まあ、もしかしたら他の冒険者が倒しているかもしれませんしね」
階層守護者は、一度倒せばしばらく現れないそうだ。その日数はおよそ二十日間。
アーベルたちが前回下の階層まで行ったのがそれより少し前だったとかで、他の冒険者が倒していないのであれば復活しているのは確実とのことだった。
「では行くぞ」
その階層は他の階層と違い、短い直線の通路があり、そこを抜けると円形闘技場を思わせる広い半球状の空間となっていた。天井はクリスタルのようなものでできており、外と見紛うほどの明かりが空間に満ちている。
それに照らされる形で、円形闘技場の中央に岩のような黒い大きな塊が鎮座していた。最初それがなにかわからなかったが、よくよく見ればそれがミノタウロスであることがわかる。
ただし、これまで相手にしてきたミノタウロスとは比ではないほど巨大なミノタウロスである。これまでの倍近く──五、六メートルはある巨体に、漆黒の毛並み。
首には人間の頭蓋らしき首飾りを身につけていた。
そんな猛牛の王とでも思しき魔人は、こちらの存在に気づくとゆっくりと立ち上がった。
ひとり怪物の元へと進み出る不動仁。
魔人はニヤリと嗤うと、傍に突き刺されていた巨大な片刃の斧を持ち上げた。
そして、怪物同士の死闘が始まった。
巨大な斧を易々と振り回し、脆弱な攻撃など物ともしない耐久力に優れた魔人。
これまでの魔物と比べると、個体としてはるかに強く、それが隧道のような広い場所ではなく限られた道幅の通路に現れるのだ。
冒険者にとってはまさに最悪の相手だろう。
そんな暴風のようなミノタウロスの斧を難なくかいくぐり、不動仁はその巨体に肉薄すると、まずは鼻に向かって掌底を叩き込む。
ミノタウロスが激痛により足を止め、顔を上げて胸を見せたところに、壁を破壊したとき同様捻った上半身からの右ストレートを見舞った。
インパクトの瞬間に心臓へと肩、肘、手首を連動させて内側に捻り込むハートブレイク・ショット。
この場合、本当に心臓が破壊されているため、ミノタウロスはピクリとも動くことなく前のめりに倒れていった。
「いやあ、通常二日程度かかるところを、ほとんど上の階層とかわらない時間で攻略というのは、なんなんすかねー」
下へと降りる階段を前に、アーベルが口を開く。
まあでも、壁をぶち抜いていくなんて普通は考えないと思うよ。
「けれども、ここで時間がかからないというのはいいですね」
「そうですよ。生きた迷宮の中じゃあ、中々心安まらないですからね」
まあ、狭い場所でいつミノタウロスやその他の魔物に襲われるかわからない状況なんて、普通の冒険者ならなるべく避けたいところだろう。
「このままあと四階、ジンさんを先頭に頑張りましょう」
つまりは、ここと同じ階層があと四階続くということだった。
まあ、私は見てるだけだし、いいけどね。
そんな調子で、私たちは下へ下へと降りていく。
途中、他の冒険者も見かけたが、皆一様に口を開けて唖然としたままこちらを見ているだけだった。
そして、私たちは生きた迷宮の終わり──地下十五階へと続く階段の前へと辿り着く。
「あー、ジンさん。この先の階層は特殊で、奥に階層守護者がいる」
「階層守護者?」
「たった一体で多くの冒険者を相手にする、めちゃくちゃ強い魔物のことなんだけど……」
「俺がひとりで相手をする」
アーベルの言葉が終わる前に不動仁がいった。
「いや、でもジンさん、階層守護者に対しては、俺たちでも他の冒険者たちと協力して……」
「俺がひとりで相手をする。三度目はないぞ」
有無をいわさぬ不動仁の言葉に、アーベルはあきらめたように首を振る。
「了解。俺たちは自分の守りに徹しますよ」
「そうしろ」
「まあ、もしかしたら他の冒険者が倒しているかもしれませんしね」
階層守護者は、一度倒せばしばらく現れないそうだ。その日数はおよそ二十日間。
アーベルたちが前回下の階層まで行ったのがそれより少し前だったとかで、他の冒険者が倒していないのであれば復活しているのは確実とのことだった。
「では行くぞ」
その階層は他の階層と違い、短い直線の通路があり、そこを抜けると円形闘技場を思わせる広い半球状の空間となっていた。天井はクリスタルのようなものでできており、外と見紛うほどの明かりが空間に満ちている。
それに照らされる形で、円形闘技場の中央に岩のような黒い大きな塊が鎮座していた。最初それがなにかわからなかったが、よくよく見ればそれがミノタウロスであることがわかる。
ただし、これまで相手にしてきたミノタウロスとは比ではないほど巨大なミノタウロスである。これまでの倍近く──五、六メートルはある巨体に、漆黒の毛並み。
首には人間の頭蓋らしき首飾りを身につけていた。
そんな猛牛の王とでも思しき魔人は、こちらの存在に気づくとゆっくりと立ち上がった。
ひとり怪物の元へと進み出る不動仁。
魔人はニヤリと嗤うと、傍に突き刺されていた巨大な片刃の斧を持ち上げた。
そして、怪物同士の死闘が始まった。
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