三日坊主の幸せごっこ

月澄狸

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手探りで許容範囲内クリエイト

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 いつの間にか、許すも許さないも価値観も、すべて私以外の誰かに任せていた。

 朝起きて、夜寝るまで、他の人が作った道具で、他の人が考えた生き方をする。
 歯ブラシ。トイレ。道路。会社。誰かが作ったシステム。

 私が作ったものは部屋の中にない。ウェブ上にある、自分が作ったものさえ、既存の何かの言いなりになって作ったようなもので、どこかで見たようなものばかり。目新しさはないし、受け入れられない目新しさは求められてもいない。グロいオブジェとか。


 人と会話すると、何かのハラスメントに該当するんじゃないかと、どこか怖い。
 何をやってもやらなくても嫌がられそう。それも直接指摘してくれるんじゃなく、暗黙のルールが陰でどんどん追加されていくような。取り残されたら無礼者として村八分にされそうな。


 誰かに合わせようとしていた。自分の生き方は自分で決めるものだといっても、誰かの感じ方はコントロールできないし。世界は「誰か」でできている。
 もう人に疲れて、生き物ばかり追いかけていても。「そんなに追いかけたら生き物が可哀想」だって。確かにね。


 あれもダメ、これは失礼、それは可哀想。もう雁字搦めで、生活に使う道具も決まりきっていて。
 でもルールは変化する、追加される、矛盾する。慌ただしい。

 黙ってても喋ってても、笑っても笑わなくても、どうせ「誰か」から不快だと、どこかに書き込まれるんでしょう。ここで立っていても、向こうで座っていても、走ってても、邪魔だったり目障りだったり危なかったり五月蝿かったりするんでしょう。

 もう付き合いきれないよ、そんなの。一人一人どう感じているかなんて、どうせ私には分からないよ。そしてこのネガティブが被害妄想や思い込みや幻聴の類だとは思えない。実際世の中、そんな話ばかりしてるじゃん。


 私の存在、消すことはできない。いなければ、何も言いようがない、言われようがないけどさ。
 だから現代人は死にたがる。自分のみならず、「高齢者は集団自決……」などと、他人の命も軽んじる。


 って「姥捨て山」とか、昔からか。

 自分たちの命を軽く扱われているように感じるから、命の重みなんてもう、分からないんだろうね。他者を蹴落とし、自分の道の先に因果応報があるとしても、平気でいられるのかねぇ。自分の子や孫もいつか「処分」されるとしても、それで良いのかね。

 自分も、子も孫も処分されかねないとしたら。それって「幸せだった」って言えるんだろうか?
 私は無理だ。「ありがとう、今まで幸せだったよ」なんて境地に至れそうもない。臆病者なもんで。そんなんなら、何のために、誰のために生きているんだろう、役に立たなくなったら捨てられるのなら、なぜ生まれてきたんだろうと思う。

 犠牲が、身を削ることが、美しいのか? なんでこんなに切羽詰まっているんだ? 節約だの忙しいだのマナーだの、私が私でいられない。子どもの頃から「私」の探求じゃなく、誰かが作った世界を教え込まされるんだわ。おかしくない?


「人にどう思われるかなんて、気にしすぎるな」と言うけれど。気にせず走り回っていたらぶつかるわけで。ほら結局こうなるじゃん、と。
 絵のパースがどうの文章の文法がどうの……そんなことで人は死なないじゃん、でもルールに則らないと食っていけない? 常識だのマナーだのうるさい。

 かと思えば、人としての最低限の礼儀みたいなもんを、丸っきり無視して、唐突に一線を踏み越えてくるヤツもいて。そしてそれすら、油断したこっちが悪いと言われて。もう何がなんだか。

 気にする人はあれもこれも気にして、気にしない人は何も気にしなくて、挙げ句「この人はしょうがないね」と無罪放免される。何なのだ。どうせ小心者が負けるんだ。


 何が重要で、何がくだらないのか分からない。くだらないつもりで言ったことが、ハイパー失言として大炎上するかもしれない。
 で、もう怖くて怖くて引きこもりニートになったら、穀潰しだの役立たずだの死ねだのと罵られ、心のドアを乱暴にノックされる。

 何もかもに配慮、配慮、ビクビクしながら残りカスみたいな表現をしたら、「どっかで見たような感じ。つまらない」だと。はい撃沈。


 正しいことをしようとしても、楽しいことをしようとしても、「それは違う」「迷惑」と言われる。

 その痛手を背負ったまま、今日も首に縄つけられた家畜のように、毎日少しずつ狭まってゆく道を、道標っぽいものを目印にして、何かの流れに飲まれながら、おとなしく生きてゆく。


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生き物の話や夢の日記、思い出や星占いの話など、思いついたことを色々詰め込んだ連載です。


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