三日坊主の幸せごっこ

月澄狸

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バブー

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「怒ることは悪いこと」。
 そう思っていたからか。単に小心者だったからか。子どもの頃は、大声上げて怒れるようなタイプではなかったような。

 ……といっても人は自身のイメージで喋るもので。私の私自身に対するイメージも、だいぶ都合よく被害者ぶってねじ曲げて、他の人から見れば間違っているのかもしれないけど。内弁慶かもしれないけど。

 最近歯止めがきかない。何にでもイライラする。「そんなことで怒らなくても」ってことでイライラする。
 しかも実際何に怒っているのか、正確には分かっていないかもしれない。


「怒るのは悪いこと」。
 我慢して我慢して。あやふやに過ごして。

 多少みんなそうかも? もう我慢できなくなってきている。
 それでネット上にも、一見訳の分からない、八つ当たりだか過剰防衛だか盲信だか、謎の理屈の怒りが溢れている。もはや当人たちだけの問題ではなく、見せしめのように(?)人前で怒る。

 もう人それぞれだの気難しいだのナイーブだの、そんな生易しいもんじゃなく、どいつもこいつも地味に狂気じみている。そしてみんな自分の狂気には気づかず、世界だけが狂って見える……のかも。


 止まれない。止まらない。こんなことなら。

 怒ったことは最初から「怒った」って。悲しいことは「悲しい」って。嬉しいことは「嬉しい」って。
 全部素直に感じて、表現していれば。自分の気持ちをねじ曲げなければ。自分の気持ちまでは分からなくならなかったのかな。自分の気持ちだけは分かっていられたのかな。


 いじめられたこと。性被害に遭ったこと。そのほかにも細々。
 言い返せなかった、やり返せなかった、上手く選べなかった、分からなかった、知らなかった。
 理不尽。怒り。劣等感。そして自分自身が生き物を捕まえたりして虐げてしまった自己嫌悪も、責任転嫁。
 私のせいじゃない。なんで生まれたんだろう。怒りが降り積もっていく。


 言語化能力を鍛えようとしている。上手く言えるようになりたい。

 溜め込むより素直に言うのが一番、誰かも自分も傷つけなくて済むんじゃないかな。
 溜め込んで吐き出すと、人も自分も傷つけがち。なぜならそれはもうねじ曲がって、原形を留めていないから。関係性を構築する方向よりも、壊す覚悟で放ってしまうから。


 後ろめたい。裏切り感。まだ繋いでいたくて、まだ壊したくなくて、その怒りを陰口で放ってしまう。
 ああ、まだ私、嫌われたくないほど大好きなんだな。

 ……嫌われたくないのは、相手が好きなの? 我が身が可愛いの?


 上手く言えるもんなら最初から上手く生きられてたよ。
 いじめられたり性被害に遭ったり、くだらない一言で一喜一憂するような弱者になんか成り下がってないよ。


 そーだ、私はニートメンタルだ。で、ニートは悪者なんだ。
 問題なく働けてりゃ働きたくないなんて言わない。希望のないこの社会が悪いんだって思うのに。

 ああ、ニートが悪者かい。この腐った社会よりも、働かないヤツが怠け者の親不孝者の悪人だってのかい。ことある毎に税金税金言いやがって。「世の中お金じゃない」なんてホラ吹いたの誰だ。


 言葉の選び方も分からない幼児のときのままかもしれない。ずっと。


 それでも、ああ、人が大好きなんですよ。だから思ったことの一つも正確に言えないんですよ。
 言えてたらストレスは溜まらないんじゃないですかねぇ。ストレスってのは、人が大好きだから貯まる的なポイントなんじゃないですかねぇ。


 気分次第、感情次第、人の気も知らずに、自由に喚いたり笑ったりしてるヤツはストレス溜まってなさそうだけど、どうだか。
 人当たりよくて、いつも言葉を選んだり、人の相談に乗ったり、自分を律したりしているような人はストレス溜まってそうだけど、それもどうだか。


 小出しにする方が傷つけなさそう。
 いつも穏やかで優しい人だと思った人が裏表激しくて、過激なことを言っていたら、そっちの方が傷つきそう。

 良い人を演じる方が罪なのか。偽善とは成長なのか。
 偽善を死ぬまで貫けるほど強くなれば、それはもう偽善じゃないだろうけど……。

 ……ふぅ。


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