三日坊主の幸せごっこ

月澄狸

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夢か現か、幸せごっこ

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 私自身が人との関わり方を知らず、生意気な態度しか取れないからではあるが、ずっといじめられたり性被害に遭ったり、あんまり大人からの愛情を感じられなかったりと(文字通り「感じられない」だけかもしれない)、幸薄いモードでやってきた。

 実際にはそんな不幸なこともない、頑張れば跳ね返せるくらいの試練から逃げ続けた、あるいはどっぷり浸る「不幸ごっこ」を繰り返して、思考まで不幸になってしまっただけかもしれないけど。


 今の職場に来たとき、何かが少し違う気がした。愛がある気がした。

 もちろん全部じゃない。ぎょっとすること、疑わしいこともある。自分の陰口言われているのを耳にしてしまって、どんより泣きまくったこともある。自分なりに頑張っているつもりなのにずっと遅くて、「どうせ私なんか生まれてこなければ良かったんだ」と卑屈になったりもする。

 それでも。すごく優しくしてくださる人がいる。


 人は動く。

 思い通りに動くとは限らない。
 自分に優しくしてくれる人が、遠くへ行ってしまうかもしれない。
 価値観の違いにより、どちらかが「裏切られた」と感じる結末になるかもしれない。


 しょっちゅう「不幸ごっこ」の方に戻ってしまう。それでも。
 何だかほんの少しずつ、今までと違うのだ。……多分。


 いじめられていない。尊重されている。もう新人でもない私に、時間をかけて丁寧に丁寧に、仕事を教えてくださる。


 期待や愛情に応えられる私だったら良かったけれど、うっかりミスも多いもので。昨日もミスが見つかったようで電話がかかってきた。また迷惑おかけしてしまった。
 それでも死ぬ気がないのなら、「どうせ私なんか生まれてこなければ良かったんだ」とぼやき続けたところでしょうがない。


 昔から、なぜかすごく気にかけてくれる人がちらほら、いたような気はするのだ。だけど人が怖いし興味もなかったので、向き合うことなく逃げてきた。いじめっ子と、そうじゃない人の見分けがつかなかった。


 どうせ馬鹿だよ、出来損ないだよ。
 それでも今は……とりあえず……頑張ろう。

 いや、頑張ろうは気が重いので、楽しもう……は、軽いし……
「生きよう」はちと重いけど、私にしてはハードル低めか。

 そうだ。幸せごっこ。
 実際には嫌われているとしても、誰かにとっての悩みの種だとしても。
「みんな気にかけてくれて、仲良し」。幸せごっこ。


 未来、どうなるかは分からない。貯金だの何だのなんて考える頭もないし、働くので精一杯。

 どうなるか分からない。
 ……どうにでもできる。

 あんまり深く考えずに、とりあえずしがみつこう。
 とりあえずしがみついた一日一日が積み重なって、とりあえず明日も明後日も働ける気がする。以前より簡単になった気がする。


 優しくしてくださる人には存分に甘える。できればあんまり困らせないように。ミスを減らして早くできたらいい。

 創作で生きていけるようになりたいけど、優しい人たちと別れるのは寂しくもある。
 幸か不幸か鳴かず飛ばずで、現状は動く気配がないのだから、まだ別れは来ない。
 いつ誰が辞めるか分からない、今まで別れてきた人の連絡先など聞いたこともない、それでも今は毎日一緒にいる。みんなと。


 今を楽しもう。

 世界から捨てられるとは限らない。裏切られるとは限らない。
 夢見心地でいこう。とりあえず、なんとなく、生きよう。

 人生はゲーム。人生は暇潰し。人生は夢。
 人生なんかこの宇宙の大きさに比べたら大したことない。
 そう。


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