三日坊主の幸せごっこ

月澄狸

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「すき」が怖い

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「俺のことが好きか?」と聞かれて「(人として)好きです」と答えたら性被害に遭った、中学生の頃。

 人を「好き」になると恋をしないといけないのか? セックスをしないといけないのか?
 動物の世界も、全部、ずっと、それなのか?


 人類愛を求めてきた。すべての人と仲良くなりたかった。友達になりたかった。
 好きならセックス、というのは嫌だった。私がおかしいのか?


「好きならセックス」であるならば。誰も好きになりたくないと思った。
 全員嫌いだ。


 けれどぐらついて止まらない。
 違う、こんな浅いところで右往左往したいわけではなくて……。

 最上級の深い愛がセックスなのか? いや、そんなんじゃないだろう。伝わらないかなぁ。


 けれど自分も薄汚れて人間になっていく。どっちを向いていいか分からない。
 性なんて嫌いだったのに。思わず押し倒してしまいたくなった。

 私はもう、汚れてしまった。人を性的に見ている。
 そんな自分が嫌で。もう何も信じられない。どこにも戻れない。

 私は恋なんかできない。子どもなんか産めない。子育てなんかできない。人を愛せない。


 本当は好きなんだ、まわりの人全員。
 仲良くしたかった。友達になりたかった。羨ましかった。

 だけど私の感覚はおかしいから……。


 素直じゃない方が良かったんだろうか。頑張った方が良かったんだろうか。合わせた方が良かったんだろうか。

 いいや……。いいや……。


 私にはまだ器がない。愛とか好きとか友達とか、そういう世界には程遠かったんだ。
 私の思う愛はこの世の愛じゃなかった。私は上手に愛を築けなかった。

 運が悪かっただけ。幼い頃から父と母が言い争っていたのも、母が祖父に殴られ虐待されたという話をよく聞かされたのも、小学校で男子の集団にからかわれたのも。怖かったこと全部、運が悪かっただけなのだ。


「ミサンドリー」を検索して読んだ。
 それ、まさしく今の私の考えだ。私は差別主義者になってしまった。差別なんてしたくなかったのに。心苦しい。怖い。腹が立つ。

 普通って何? キスをされたらしかえす? 私も悪いことをしたのか? 仲良くなりたいのにセックスを拒むのがいけないのか?


 何だろう。何だろう。

 そう、私が悪いんだ。私がおかしいんだ。近づいておいて突き放すから。
 でも自分の悪を認め、許すのは私自身だけ。
 人から「悪い」「おかしい」と言わせない。絶対に頷かない。私は悪くない。


 愛が怖い。関係が怖い。すきが怖い。

 なのに「嫌い」と言うのが心苦しい。


 誰も彼もと浅い淡い関係であり、私などどこにも存在しないも同然なのにね。

 考え方なんて、トラウマなんて、どうでもいいじゃん。すべての人、すべてのシーンにとって私はただの通行人Aだ。


 それでも性格があり、記憶があり、考え、生きている。

 何も産み出さなくても。何も残さなくても。すぐ忘れ去られても。どうでもよくても。


 生きているんだな、私は。


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