三日坊主の幸せごっこ

月澄狸

文字の大きさ
上 下
14 / 417

『クズ』と聞くと名前を呼ばれたようにギョッとする

しおりを挟む
 卒業して初めての仕事は工場だった。
 人と話すのがダメダメな私。工場ならいけるかと思った。履歴書の志望動機に「これなら私にもできるかと思った」と書こうとしたら先生に止められた。

 私は折り紙を折ったり絵を描いたりということが好きだったので、「運動は苦手だけど手先は器用」だと思い込んでいた。人には得手不得手があるものだ。接客は絶対無理、電話も苦手なので事務も多分無理。話さなくて済む、黙々とできる作業を求めた。

 ところがいざ始めてみると「遅い」と。レーンの商品を捌ききれず流れていき、先輩方が取ってくれる。検品でも、OKなのとダメなのの見分けがつかない。仕事を覚えられない。仕事自体ができないのと、緊張してか人の声が聞き取れないのと、人間社会のことが何も理解できなかった。学生時代は、暇があれば自分の好きなことを考えていたから。

 朝から晩まで工場で、暗くなった空を見て泣きそうになる。働くだけで一日が終わっていくなんて嫌だ。
 部活でもけっこう暗くなるまで活動し、長い道のりを歩いて帰ったものだったが……。それでも部活は辞めれば済むことだし、3年間で終わる、いっときのものだったから。それに色んな場所へ行き、楽しいこともあった。
 仕事は仕事だけ。仕事関連の話とか儀式(?)はあったが、遊びはない。毎日仕事。休日は爆睡。

 仕事の帰り道では楽しいことをしようと、美味しいものを食べたり店に入ったり。でもあんまり気分が満たされない。憂鬱の方が大きくて。

「人と話すことや力仕事が苦手な代わりに、黙々とやる作業は得意。手先が器用」という自己評価は崩れ落ちることになる。商品を捌けず、どんどん溜まっていく。
 紙を扱うので水分を取られて手が荒れる。血が出て商品に付く。
 教えてもらったことを理解できず、作業の優先順位が分からない。分かっても、遅いと言われる。苛立たれる。商品をどこに持って行っていいか分からない。機械の扱いも分からない。


 ……。


 長所だと思ったことができなかった。短所は相変わらず短所だと思う。
 でもコミュニケーションはほんのちょっと上達した。「人と喋るのが好きで、得意です」と言えるようなレベルではないが。
 お客様から怒られたら倒れそう。まだそんなに怒られたことないけど。
 力仕事の体力もちょっと付いたけど、まだ人並みにはできていない。

 何でなら私は、人並みか、人並み以上になれるんだ?
 なれないまま、どこかの仕事に縋って生きていくのか?
「色んな仕事を試す」などと悠長に言っていられる年齢でもなくなった。何もかも未経験。
 創作も……。文章は書き続けてきたけど、自分の希望が分からないのに、希望のある物語が書けない。

 気分ばかり焦り、動き出せない。動いたら今より悪くなるんじゃないかと思って。
 働くという基本中の基本が苦手でしょうがない。なんでそんなに働いて生きないといけないんだ?
 私は人間のクズなんだろうか。

「何もかも上手くできない」などと言ったら、友達がいたらひっぱたかれるとこだったかも。
 学生時代、人間関係というものをまったく構築していない。土台が何一つ存在しないのかもしれない。何か強みや横道はないのか。

「何歳だと思ってんだ」と言われても。好きで年齢を重ねているわけじゃない。そりゃ、10代の後輩さんたちの方がよっぽど偉いと思うけどさ。そんなこと言ったってしょうがない。無能なヤツは無能なわけで。

 あー、朝だ。文章書きまくって二度寝したい。
 これからどうしていこう。


しおりを挟む
うだつの上がらないエッセイ集(たまに自由研究)
【うだつの上がらないエッセイ集】

生き物の話や夢の日記、思い出や星占いの話など、思いついたことを色々詰め込んだ連載です。


良くも悪くも、星の回転は止まらない

【良くも悪くも、星の回転は止まらない】

詩集です。すぐ読める短いものが多いです。20編で完結しました。



ツギクルバナー
感想 41

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

世界は何もくれないから 好きに生きていい

月澄狸
エッセイ・ノンフィクション
不安のプレゼントなら溢れているけどね。

男女について考える(ほとんど憶測と偏見とヒステリー)

月澄狸
エッセイ・ノンフィクション
 私は生物学も心理学も学んでいない、ただの学のない女だ。ついでに恋愛経験もない、さらには友達もいない。告白されたこともないし当然したこともない。そんなわけでこの連載は、浅い知識と経験から「なんとなく思ったこと」を感情的に書き連ねるだけのものになる。読んでも何の学びもなく、不快になるだけなのでご注意を。(※LGBTQについては分からないので、基本的に古い価値観オンリーで書きます。)

『茜色に染まる心』

小川敦人
エッセイ・ノンフィクション
野村隆介、六十七歳。妻と死別して十年、孤独を仕事で紛らわせてきた彼の心が動き出したのは、ボランティア活動で出会った渚菜緒子という女性がきっかけだった。彼女の柔らかな笑顔や憂いを帯びた瞳に惹かれ、いつしかその存在が彼の胸に深く刻まれていった。しかし、菜緒子の左手薬指の指輪は、彼女が既婚者である現実を突きつけ、隆介の想いが叶わないものであることを示していた。 それでも、菜緒子と出会えたことは隆介にとって大きな幸せだった。彼女の些細な仕草や言葉が日々の活力となり、夕陽を見ながら彼女を想うことで心の温かさを感じていた。彼女の幸せを願う一方で、自分の心が揺れ動くたびに切なさを覚えた。 ある日、彼女との何気ない会話が心に残る。その後、図書館で出会ったカフカの詩が、彼の心を解き放った。「大好きと思える人がいることは幸せ」という言葉が彼の心を温かく包み込み、彼はその想いを受け入れることを学ぶ。 「出会えたことに感謝する」。隆介はこの恋を人生最大の宝物として胸に抱き、穏やかで清らかな喜びと共に、茜色の空を見上げる日々を大切にしていく。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

アルファポリスユーザーと世間一般のズレ2

黒いテレキャス
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリス登録して半年経っての印象

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...