三日坊主の幸せごっこ

月澄狸

文字の大きさ
上 下
2 / 417

愛ある社会の想像はまだ難しい

しおりを挟む
 陰口を嫌いながら、いつの間にか自分自身が陰口の王者になっていた。
 文章の書き方もどうも陰口臭くて、我ながら嫌だ。

 けれどおかしなことに、陰での悪口よりも、陰での褒め言葉の方が言ってはいけない気がする。妙なことだ。
 世の中の批判は平気でするのに、誰かにときめいたことは、名前を伏せても言いづらいのである。
 しかもなぜだ? 人を愛おしいと感じた記憶はサラリと水に流し、昔言われた嫌なことは記憶し続けているのは。


 近頃人が可愛いと感じる。ネット上の文章でも。リアルでの言い回しや仕草でも。
 なのにどうして、「みんな可愛いなぁ。一生懸命生きてるなぁ。あまり困らせちゃいけないなぁ」より、「あの人のこういうところ、困ります」の方が言いやすそうなんだ?

 言われる側として考えても、陰口の方が受け入れやすく、「職場のみんな、フォロワーのみんな、可愛くて大好きだ!」とか急に言われたら戸惑うであろう。なぜだろう。


 あ、褒め言葉はセクハラ臭いからか? そして誰も彼もを褒めるのは尻軽な感じがするからか。

 仕事仲間が言うことにしても、陰口だと、淡く傷つくと同時に、なんだか「普通」な気がする。
 それが「◯◯さん、いつも丁寧で優しくて、ちょっと不器用なところも可愛い! 怒られてる姿を見ていたら、守ってあげたくなる~」とか言っていたら。冷や汗をかくかもしれない。なんか褒め言葉って聞き慣れなくて。好意が怖い。


 人は何でもすぐ恋愛……いや、本能に結びつける。私の思い込みかもしれないが。
「好き」と言うだけで何事かが始まるらしいし。
「みんな好き」になってしまったら始まり放題か。だから無闇に人を好くことができないのか。


 あるいは人間関係において、「相手はこちらが嫌いでも、こちらは相手が好きだ」と言う勇気がなく、プライドが許さないからか。
「どうせアンタらみんな私が嫌いでしょう。言っとくけどこっちもだからね」という疑心暗鬼な態度に持ち込もうとしてしまうのか。その方が楽なのだろうか。


 けれどなんか違う。おかしい。
「みんな大好きだ!」で良いはずだ。それでドン引きされるような関係なんていらない。

 はずだけど……。やっぱり「好き」だとか、面と向かっての褒め言葉、面と向かわずとも陰で「あの人素敵」と言う褒め言葉であっても……。想像するとなぜか怯んでしまう。

 愛に裏切られるのが怖いんだろうか。好かれるのも嫌われるのも、本心が分からなくて、傷つきたくなくて、踏み込まれるのが怖いのだ。
 たとえば褒め言葉を真に受けたら、「ちょっと優しくしただけで、何勘違いしてんの?」「お世辞だっつーの」と笑われるんじゃなかろうか、とか。


 しかし、誰がどうだのと、ネガティブなことは言うだけでも聞くだけでも多少疲れる。何か後ろめたくて、陰口を言って楽になるようにはさほど感じない。「言ってしまった」罪悪感で後味悪い。心が汚れていくように感じる。個人的には。

 ならば「実はみんな可愛いと思っている」ことは、気持ち悪がられないために胸に秘めておくにしても、あんまり陰口は言うべきではない。陰口に代わる話題、そして「素晴らしい人格」が欲しいところだ。コミュニケーション上手な人に憧れるなぁ……。


 でも、私個人のことで言えば、好かれたいだの嫌われたくないだのの前に、まずちゃんと仕事しようぜって感じだ(私が)。ちゃんと仕事していれば、ある程度信頼は得られるはず。現に今、落ちこぼれなりに一生懸命やって、余計なことは言わないようにしているから、皆様、親切にしてくださる。これが、余計なことは言うわ仕事はできないわ努力している気配もないわだったら、もっとあからさまに嫌われているはずだ。


 とりあえず今はそう、創作があるじゃないか。
 好きに架空の状況を作り上げ、独り言を極めればいい。

 いや、難しいな……。


しおりを挟む
うだつの上がらないエッセイ集(たまに自由研究)
【うだつの上がらないエッセイ集】

生き物の話や夢の日記、思い出や星占いの話など、思いついたことを色々詰め込んだ連載です。


良くも悪くも、星の回転は止まらない

【良くも悪くも、星の回転は止まらない】

詩集です。すぐ読める短いものが多いです。20編で完結しました。



ツギクルバナー
感想 41

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

世界は何もくれないから 好きに生きていい

月澄狸
エッセイ・ノンフィクション
不安のプレゼントなら溢れているけどね。

男女について考える(ほとんど憶測と偏見とヒステリー)

月澄狸
エッセイ・ノンフィクション
 私は生物学も心理学も学んでいない、ただの学のない女だ。ついでに恋愛経験もない、さらには友達もいない。告白されたこともないし当然したこともない。そんなわけでこの連載は、浅い知識と経験から「なんとなく思ったこと」を感情的に書き連ねるだけのものになる。読んでも何の学びもなく、不快になるだけなのでご注意を。(※LGBTQについては分からないので、基本的に古い価値観オンリーで書きます。)

『茜色に染まる心』

小川敦人
エッセイ・ノンフィクション
野村隆介、六十七歳。妻と死別して十年、孤独を仕事で紛らわせてきた彼の心が動き出したのは、ボランティア活動で出会った渚菜緒子という女性がきっかけだった。彼女の柔らかな笑顔や憂いを帯びた瞳に惹かれ、いつしかその存在が彼の胸に深く刻まれていった。しかし、菜緒子の左手薬指の指輪は、彼女が既婚者である現実を突きつけ、隆介の想いが叶わないものであることを示していた。 それでも、菜緒子と出会えたことは隆介にとって大きな幸せだった。彼女の些細な仕草や言葉が日々の活力となり、夕陽を見ながら彼女を想うことで心の温かさを感じていた。彼女の幸せを願う一方で、自分の心が揺れ動くたびに切なさを覚えた。 ある日、彼女との何気ない会話が心に残る。その後、図書館で出会ったカフカの詩が、彼の心を解き放った。「大好きと思える人がいることは幸せ」という言葉が彼の心を温かく包み込み、彼はその想いを受け入れることを学ぶ。 「出会えたことに感謝する」。隆介はこの恋を人生最大の宝物として胸に抱き、穏やかで清らかな喜びと共に、茜色の空を見上げる日々を大切にしていく。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

アルファポリスユーザーと世間一般のズレ2

黒いテレキャス
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリス登録して半年経っての印象

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...