エー太くんとビー子ちゃん

月澄狸

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UMA UMA 伝説

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「あー……今日もいい天気ねぇ。」
「そうだなぁ。」

 エー太くんとビー子ちゃんはいつものように河原でうつぶせになりながら、のんびりとくつろいでいました。相変わらず、よく分からない会話を繰り広げています。


「こんなに空が青いと、地球が回っていることを忘れてしまいそうね。」

「ハハハ、まったくだ。」

「ところで昔熱く語っていたエビフライアップルパイの件はどうなったの?」

「まぁまぁ順調かな。」

「そう。良いじゃない。」

「チー。」

「ビー子は今でもゴム手袋の神様に恋をしているのか?」

「もう、やめてよ。そんなの生まれる前の話じゃない。とっくにポリエチレン手袋の妖精に衣替えしたわ。」

「チー。」

「ところでさっきから聞こえるこの『チー』という音は何なんだい?」

「それはきっとチーチー山のチーチー鳥が鳴いているのよ。」

「チー。」

「なるほどたしかに鳥の声かもしれない……。」


 まどろみかけていた二人は、急にがばっと体を起こすと鳴き声のする方に目をやりました。するとそこにはあのツチノコがいました。

「あら、またツチノコだわ。そろそろありがたみがなくなってきたわね。」


「ツチノコ、お前……。人前に姿を現すなと忠告してやったのに……。本当に分からんヤツだな。」
 エー太くんは呆れたようなガッカリしたような声で言いました。
 ツチノコはそれに「チー」と返事をします。


「ふふ、このツチノコ私たちに懐いているんじゃない? ツチノコちゃんおいで。チー、チー。」
 ビー子ちゃんはなんだか嬉しそうです。
 猫を呼ぶように、ツチノコの鳴き声をまねて呼び始めました。


「あのなぁ、懐くわけないだろ。俺たちは初対面でツチノコを追いかけたんだぞ。そして二回目に会ったときは俺がツチノコを怒鳴りつけ、お前は看板を見て本性をむき出しにした。ツチノコにとって俺たちは第一印象も第二印象も最悪のはずだ。どこに好かれる要素があるんだよ。」


「あっ、ほらほら見てエー太! ツチノコが寄ってきた! さっきコンビニで買った『生クリーム味噌せんべいみかんアイス』と『スルメ入りケチャップクリームを使ったスペシャルレモンパフェ』、食べるかしら。」
 ビー子ちゃんはツチノコにコンビニおやつを差し出しました。

「あっ、美味しそうに食べてるわ! すごいすごい!」


「マジか、なんて警戒心のないツチノコだ……。ってコラビー子! 人間の食べ物は人間の味覚に合うように美味しく作られているけれど動物の体には良くないんだぞ。何を食べて生きているかも分からない動物に勝手にコンビニおやつあげちゃダメだろ。」

「えー、こんなに美味しいのに。でもそれもそうね。次から気をつけるわ。」
 自らもコンビニおやつを頬張りながらビー子ちゃんが答えました。

「ハァ……。このツチノコ、こんなに鈍くて大丈夫か? 絶対そのうち誰かに捕まってテレビとかに引きずり出されるぞ。」
 頭をかかえながらエー太くんが言いました。


「山に追い返しても出てきてしまうならしょうがないわ。好きにさせておきましょう。」

「うん、なんか心配だけどしょうがないな……。ツチノコの飼い方とか分からないし……放っておくしかない。俺たち金の亡者にツチノコを心配したり人類を批判したりする資格もないしな。」

「チー。」


 その後ツチノコは、エー太くんとビー子ちゃんの前に急に姿を現したり、かと思うといつの間にか消えていたりするようになりました。


「まさかアイツの姿って俺たちにしか見えないんだろうか?」

「いやそれはないでしょ。いくらツチノコが妖怪でも……。」

「んっ、妖怪? ツチノコってUMAだろ?」

「UMAだけど妖怪とも言われているわ。河童や人魚と一緒よ。」

「ふーん、そうだっけ。UMAだと普通の動物って感じがするけど、妖怪だと不思議な力とか使いそうだな。」

「そうね。ツチノコがUMAか妖怪か……それはまだ分からない問題だわ。」

「チー。」

「あら、いたのチー。」


 ビー子ちゃんはいつの間にかツチノコを「チー」と呼ぶようになっていました。名前を付けたようです。


「このツチノコって一匹なのか? 毎回同じヤツだと思っているけど、実は毎回違うヤツだったりして。」

「いや、この鱗の数……。同一個体で間違いないわ。」

「どういう覚え方してるんだよ。大体いつも一匹しかツチノコ見たことないから、ちゃんと見分けられるか分かんないぜ。ツチノコはみんなそっくりかもしれない。……そうだツチノコ、今度は仲間連れて来いよ。」


「チー。」
 ツチノコはエー太くんの言葉に返事をすると、草むらの中へと消えていきました。


「ハハ、アイツが言うこと聞くわけないな。人間の前に姿を現すなって忠告してやったのにちっとも聞かないもんな。そもそもツチノコに人間の言葉は分からんだろう。」

「そうかしら。」


 二人が話しながら歩いていると、ツチノコがぴょこんと戻ってきました。

「おーおかえり、早かったな。」

「チー。」

 ツチノコが鳴き声をあげました。すると、なんと先頭のツチノコの後ろから、ぴょこぴょこと五匹のツチノコが飛び出してきたではありませんか。


「チー。」
「チー。」
「チー。」
「チー。」
「チー。」

「「「「「「チー。」」」」」」


「ツチノコが……六匹!?」
「そんな……!」

 エー太くんとビー子ちゃんは愕然としました。


「チー。」
 先頭のツチノコはなんだか誇らしげです。


「えー? 六匹いたのか……。でもビー子の言うとおり、コイツはコイツって感じがするな。顔つきとか色合いとか大きさとか……。」

「ふふん、そうでしょう。やっぱりチーの存在は唯一無二なのよ。この世にツチノコが何匹いようとも、愛しのチーは世界に一匹だけ。」

「まだ愛しくなるほどチーと付き合いないだろ。追いかけ回してただけで。」

「……たしかに。それに仲間たちもみんな可愛いわね。ねぇ、チー。」

「チー。」


 エー太くんはしばしぼんやりとしていましたが、急に思い出したように言いました。
「っていうかチー、人間の前に仲間を連れてきたりしちゃダメだろ。……そりゃ、言ったの俺だけど……。そんなに簡単に人間を信用しちゃダメだ。本当にお前は……なんというか心配なヤツだな。」

「チー?」
 ツチノコはよく分からないといった様子で首を傾げています。


「まぁいい、今回は俺が悪かった。お前はお前だということが分かったし、もう仲間連れて帰っていいぞ。」

「チー。」


「あっ! エ、エー太……!」
「ん、なんだ? ……うわっ!」
 二人があたりを見回すと、まわりに人だかりができていました。


「なぁ、あれ、ツチノコじゃね?」
「うそだぁ」
「いやいやホントだよ」
「ツチノコって捕まえたら100万円もらえるらしいぞ」

 人々の欲望のこもった視線が六匹のツチノコに注がれています。これはピンチです。


「やばっ! 逃げるぞビー子!」
「う、うん!」

 エー太くんとビー子ちゃんは三匹ずつツチノコを抱き抱えると、目にも止まらぬ速さで人の波をかき分けて走り出しました。
 人々は追いかけてきましたが、二人の火事場の馬鹿力的な速度には敵いません。ついに二人は逃げ切りました。


「ハアッ、ハァ……。やったわ!」
「ああ、なんとか逃げ切れたな!」

 二人は倒れ込むようにして、ツチノコを山の近くの地面に下ろしました。


「な、見たかお前たち、人間どものあの欲望のこもった目を……。次からは人間に簡単に見つかるような場所に出てきちゃダメだぞ? さ、もしかしたらアイツらが探しにくるかもしれないから、はやく山に帰りな。」

「「「「「「チー……。」」」」」」


 ツチノコたちはエー太くんの言葉に頷くと、山へ帰って行きました。


「ふぅ……。どうやら他の人間からも、ツチノコたちの姿は見えるらしいわね。」

「ああ。見える人にしか見えない妖怪とかではなさそうだな。」

「アイツらにツチノコたちを連れて行かれなくて良かったわ。」


「本当に。……しかしビー子も少しは大人になったようだな。見直したぜ。」

 そう言いながらエー太くんがビー子ちゃんの方に目をやると、ビー子ちゃんはよだれを垂らしながらブツブツと呟いていました。

「ツチノコは誰にも渡さないわ。ふふっ、一、二、三、四、五、六……。ツチノコが六匹。つまり六百万……。六百万円……。」

 ビー子ちゃんは悪魔のような笑みを浮かべています。


「お前っ……、ツチノコに愛着がわいて守りたくなったのかと思ったら……。ツチノコを人に盗られたくなかっただけか!?」


 不安にかられるエー太くんの前で、ビー子ちゃんは焦点の合わない視線をどこか遠くに向け、笑い声をあげながら呟き続けました。
「すごいわ、六百万円、六百万円よ!!」


「ダメだ正気を失っている……。人間の欲というのは本当に恐ろしいな。」
 エー太くんは呆れたように首を振ると、悪魔に取り憑かれたビー子ちゃんをその場に残して、家へと帰って行きました。
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