うだつの上がらないエッセイ集(2)

月澄狸

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偽善者とスッポン

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 私は、生き物を悪口に使われたり、見下したような言い方をされるのが苦手です。「まるで豚だ」とか「そんなことでは猿と同じだ」とか「虫けらみたいに」とか。

 現時点では殺生をせずに生きていくことはできませんが、生き物を犠牲にする中で、命を見下したり軽く見たりするのではなく、まず感謝と敬意を持つべきだと思うのです。


 そんなある日。SNSのコメントで、フォロワー様から私の作品を褒めていただきました。

 私は喜び、と同時に照れ、反射的に「いやいや、◯◯さんの美しい作品と比べたら私のなんて、月とスッポンですよ!」と書いて返信しようとしました。

 そしてはたと気づきました。
 ……スッポン?

 おっと、なんということでしょう。無意識に生き物を貶めることわざを使うなんて!


 あやうくマイルールを破るところでした。危ない危ない。

 送信していないからセーフにしましょう。と、私はいつもの「人に厳しく自分に甘く」のスタイルで考えました。
 すぐにコメントを書き換えることにします。


 しかし、「いやいや私のは◯◯さんの作品ほど素晴らしくありませんよ」みたいな言い換え文を何度か書いてみても、最初に浮かんだ「月とスッポン」ほどしっくりきません。何か嫌味っぽいというかわざとらしいというか、言い回しがピタッとこないのです。

 ああでもない、こうでもない。
 うまく決まりません。


 ……ああ、もう別に良くない?
 月とスッポンを使ってしまおうか。

 いやいや、そんなことはできない。


 私は自分を奮い立たせるため、「スッポン 可愛い」で画像検索をしました。
 手のひらにすっぽりと納まるほどの、可愛らしい子スッポンの画像がたくさん表示されます。

 私は、子どもの頃に友達に見せてもらった子スッポンを思い出しました。
 スッポン料理のCMや番組に出てくる可愛いスッポンを頭に浮かべました。

 ……そうです、スッポンの可愛さを前に、私の美学を破るわけにはいきません。
 スッポンを裏切るくらいなら、嫌味な人間になった方がマシです。

 私は不自然に嫌味っぽいコメントを書き上げ、返信しました。


 ふう。謎の達成感。

 スッポンよ、私は負けませんでした!
 何にか分かりませんが。


 こうして、偽善者である私は、何も大層なことはしていないくせに、言葉上で何かを言ったの言わないのと日々一喜一憂し、偽善者活動に励むのでした。


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