生や社会への恐怖、老いや年齢に関する疑問。誰にも聞けないから自問自答する。

月澄狸

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棺桶を覗く覚悟

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 誰かと仲良くなるということは、それだけ、いつかその人が棺桶に入るのを見る確率が増すということなんだろう……か。

 実際には私に長く続く縁というものは少ないから、棺桶の中まで見ることになる相手はそんなにいないのだろうが。生まれてきたときから、まわりに人はいるわけで。生まれてきた時点で自動的に、棺桶を見る覚悟は必要ということになるか。


 相手にベタベタ触れたりしていなければまだ、肉体というのは精神や魂の入れ物であるからと、割り切れそうな感じはする。触れていない体は、アバターだとかアイコンだとかと同じ「姿」であり、記憶に残るデータみたいなものであるような。

 ただ触れてしまうと、指の一本一本とか、肌の質感とか、何か肉体に宿る個性みたいなものを肌で感じてしまって、喪失の重みが増す気がする。ほくろだとか、なかなか治らない傷痕だとか、こだわった美容とか、そういう思い出のすべてが詰まっているから。


 腐敗して、ゆっくりと骨になる様まで見届けられれば、少しは気持ちの整理がつくものだろうか? なんて、腐敗は現実には凄まじいものだろうから、「孤独死が怖い」というイメージにも「腐敗」とかが含まれるんじゃないだろうか。

 とはいえ、少し前までずっとメンテナンスされ、大事にしてきた体を、急に焼いてしまうというシステムも、いざそのときになったら動揺してしまいそうである。今まで病院に行ったり、体調を心配したり、ご飯を食べたりと、体に尽くしてきたのだから。
 痛いだの、疲れただの、眠いだの、色んな感覚を持ち、言葉を発し、笑ったり泣いたりした。その細胞がすべて焼却されてしまう。

 どうしても、焼いているところを想像してしまいそうで、それも喪失の痛みが増すものでありそう。
 命が肉体を保持することをやめ、肉体が崩れ去る。ただの抜け殻だとは思っても、キツそう。


 私のお葬式体験はまだ一回で、それもあまり接点のなかった親戚だから、棺桶の中のお顔を拝見してもあまりピンとこなかったが、これが四六時中一緒にいた人の肉体であるならば、なかなか耐え難い気がする。でもここで目を逸らしたら後悔しそうな気もする。記憶に焼き付けておいた方が良いのかな。

 そういえば私は自他の写真をあまり撮らないが、大事な人が死んだら、データの少なさに泣く羽目になるかも。
 人と目を合わせられない私は、意外と人の顔をちゃんと覚えておらず、雰囲気だけを見ているかもしれない。でも会えなくなったら記憶が薄れてしまうかもしれない。かけてもらった言葉でさえ、一言一句の正確なニュアンスなど分からないし、記憶するのも難しい。
 そういう、その人が生きたデータみたいなもの……遺品とか……すがれるものがちょっと欲しいような。


 10年前に会った人に関する記憶は、10年前で止まっているけれど、毎日会う人ならば、毎日上書きされていく。
 データが多くなりすぎて、記憶から失われてゆく思い出も多そうな気がする。若い頃に会っていた人の記憶は今も若いまま、でも、ずっと会っていると逆に、昔の関係性とか、初めて会った頃とか、初々しい頃のことは忘れてしまいそう。

 全部は記憶に刻みつけられない。その必要もないとは思ったりする。写真だって撮りすぎると薄れるから。でもちょっと、時が失われていくことが寂しいかな。


 性や死にあまり触れるべきでないという風潮があるが、先回りして今のうちにとことん憂鬱に浸っておけば、案外死も楽に受け入れられそうな気がしなくもない。
 死を楽に受け入れるにはやはり、死後の世界だとか魂だとか、そういう考えが支えになる気がする。「死んだら消える」派の人は、そこのところ、辛くないのかな。

 それにしてもこの世では、生にも死にも何かと書類やら手続きがついて回るのだろうから、煩わしいんだけど……。もっと魂そのものと向き合わせてくれないかな。
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