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何もかも越えて羽ばたきたい

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 死にたくなる気持ちは少し分かるけど、死なせたくなる気持ちは恐ろしすぎる。死が解決法だとは思わない。死が解決法なら、生物は一体何のために生まれてくるというのか。

 私は恋をしたくない、生みたくない、生きたくない。
 誰かが殺されて回り続ける世界にみんなが納得するというのなら、子どもや若者だけを守らずに、いっそすべて滅んでしまえばいい。そうすればもう誰も、苦しむことも見捨てられることもない。

 でも変な宗教やテロみたいに誰かを殺したって、人は嘆き悲しみ、苦しみながらも生きようとし、また誰かを生み育てるのだ。

 なぜ産むのか? なぜ生きるのか? なぜ殺そうとするのか?

 何もかも分からないこの世界で、人種も性別も年齢も越えて、自分一人で逃げ出したい。
 ハエやゴキブリ一匹殺されない世界へ。すべてが生きも死にもしなかった世界へ。この世界に生まれなければハエやゴキブリが殺される理由も、フライドチキンを生き甲斐に生にしがみつく理由もないのだ。


 生物全部滅亡してほしい。
 でもやっぱり誰も死んでほしくない。

 寿命も上下関係も病気も、神も仏も何もいらない。ただただこの世界を、誰も死なないように変えてほしい。
 信じるものだけを救わなくていい。災厄を取り払う以前に、災厄のない世界へ、美と醜の概念がない世界へ行きたいのだ。

 何かを醜いとか見たくないとか決めなければ、すべてのものが美しい。
 いや、美しいなどと誰かに定義され、ラベルを貼られることすらもうない。
 誰も虐げられず追い出されず、見た目や立場で笑われたり争ったりすることもない……

 すべてが堂々と、存在できる世界へ。
 私は行きたい……そのために今、不完全なままでも自問自答するのだ。


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