6 / 6
豆でっぽー!
しおりを挟む
その後三日間、俺は部屋にこもって自分自身と戦った。
ハトの羽の一枚一枚が鮮明に見えるような幻を見た。
そして楽しそうにパンをまきまくる人々……息づかいまで聞こえてきそうなハトの集団……初めてパンをまいた、子どもの頃の思い出が、俺を襲う。
パンをまくのをやめたくないという、魂の抵抗。
ハトぽっぽタイムは俺の生き甲斐なんだ。それこそが幸せなんだ。せっかく手に入れた幸せをなぜ手放そうとする? 幸せを手放してまで何を求める? 別に今まで通りでいいじゃないか。大丈夫だって。もう一人の俺が囁いた。
感情の濁流に流されそうになる。
……本当はやめたくない。
だが負けない。好きなことに負けてなるものか。
こんな形で負けてなるものか。
今までのすべてが大切な思い出だからこそ……。
パンはまけなくなったけど、俺は負けない!!
むぎゅうっ。
俺はしがみつくようにハトのぬいぐるみを抱きしめた。
……。
そしてあの時の、壮絶な戦いから一年が過ぎた……。
俺はあれから一度もハトにエサをやらなかった。公園で子どもたちが投げたパンを、拾って千切って投げなおすこともしなかった。
最初のうちは、これはセーフだとか理屈を付けそうになった。ハトのエサならまいていいんじゃないかという気もした。でもそんなこと言っていたらまた逆戻りだと思ってやめた。
今なら分かる。俺はハトぽっぽタイムに向いていなかったのだ。
パンを手放した今、俺はもうハトに心をかき乱されることがない。
……と言っては嘘になるが、今までハトぽっぽタイムを愛するあまり、ハトを集めようとか、人にハトを奪われたくないとか、実に様々な感情に支配されていたことに気づいたのだ。
ハトは俺の癒しであったが、その分、心をかき乱す原因にもなっていた。だからハトぽっぽタイムができない今、そのことでムズムズしたりはするが、逆に心穏やかになった一面もあると思うのだ。プラスマイナス0かもしれない。
パンの切れ目が縁の切れ目……。それでもハトは相変わらず近くにいる。耳を澄ませば5キロメートルほど先から、クックゥクックゥとあの声がする。ハトに近づくことをやめた俺は、かえってもっと遠くからでもハトを感じられるようになった。
今日も空を見上げればハトが飛ぶ。仲間と共にハトが飛ぶ。ぐるりと回って飛んでゆく。
そこには自由があった。
誰のものでもないハト。誰にも制限されないハト。
手が届かないからこそ抱く、ハトの世界への憧れとノスタルジー。
ハトを風景の中で見る時間、それは哲学や夢のようであった。
……今なら言える。ハトは俺のものではない。空のものだ。
ある程度落ち着いた俺は、ズーム機能付きのカメラを買い、ハトの写真を撮るようになった。また新たな形でハトと向き合えるようになったのだ。
俺を助けてくれたぬいぐるみは今でも部屋にある。辛くなったときはむぎゅっと抱きしめ、ハトに思いを馳せる。
まだぬいぐるみからは離れられそうにない。でもいつか手放しても大丈夫と思えた頃に……このぬいぐるみを誰かにあげたい。誰かの支えになってほしい。
俺と同じように苦しんでいる人が、きっとどこかにいると思うから……。
ハトの羽の一枚一枚が鮮明に見えるような幻を見た。
そして楽しそうにパンをまきまくる人々……息づかいまで聞こえてきそうなハトの集団……初めてパンをまいた、子どもの頃の思い出が、俺を襲う。
パンをまくのをやめたくないという、魂の抵抗。
ハトぽっぽタイムは俺の生き甲斐なんだ。それこそが幸せなんだ。せっかく手に入れた幸せをなぜ手放そうとする? 幸せを手放してまで何を求める? 別に今まで通りでいいじゃないか。大丈夫だって。もう一人の俺が囁いた。
感情の濁流に流されそうになる。
……本当はやめたくない。
だが負けない。好きなことに負けてなるものか。
こんな形で負けてなるものか。
今までのすべてが大切な思い出だからこそ……。
パンはまけなくなったけど、俺は負けない!!
むぎゅうっ。
俺はしがみつくようにハトのぬいぐるみを抱きしめた。
……。
そしてあの時の、壮絶な戦いから一年が過ぎた……。
俺はあれから一度もハトにエサをやらなかった。公園で子どもたちが投げたパンを、拾って千切って投げなおすこともしなかった。
最初のうちは、これはセーフだとか理屈を付けそうになった。ハトのエサならまいていいんじゃないかという気もした。でもそんなこと言っていたらまた逆戻りだと思ってやめた。
今なら分かる。俺はハトぽっぽタイムに向いていなかったのだ。
パンを手放した今、俺はもうハトに心をかき乱されることがない。
……と言っては嘘になるが、今までハトぽっぽタイムを愛するあまり、ハトを集めようとか、人にハトを奪われたくないとか、実に様々な感情に支配されていたことに気づいたのだ。
ハトは俺の癒しであったが、その分、心をかき乱す原因にもなっていた。だからハトぽっぽタイムができない今、そのことでムズムズしたりはするが、逆に心穏やかになった一面もあると思うのだ。プラスマイナス0かもしれない。
パンの切れ目が縁の切れ目……。それでもハトは相変わらず近くにいる。耳を澄ませば5キロメートルほど先から、クックゥクックゥとあの声がする。ハトに近づくことをやめた俺は、かえってもっと遠くからでもハトを感じられるようになった。
今日も空を見上げればハトが飛ぶ。仲間と共にハトが飛ぶ。ぐるりと回って飛んでゆく。
そこには自由があった。
誰のものでもないハト。誰にも制限されないハト。
手が届かないからこそ抱く、ハトの世界への憧れとノスタルジー。
ハトを風景の中で見る時間、それは哲学や夢のようであった。
……今なら言える。ハトは俺のものではない。空のものだ。
ある程度落ち着いた俺は、ズーム機能付きのカメラを買い、ハトの写真を撮るようになった。また新たな形でハトと向き合えるようになったのだ。
俺を助けてくれたぬいぐるみは今でも部屋にある。辛くなったときはむぎゅっと抱きしめ、ハトに思いを馳せる。
まだぬいぐるみからは離れられそうにない。でもいつか手放しても大丈夫と思えた頃に……このぬいぐるみを誰かにあげたい。誰かの支えになってほしい。
俺と同じように苦しんでいる人が、きっとどこかにいると思うから……。
10
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
𝐌𝐞𝐫𝐫𝐲𝐂𝐡𝐫𝐢𝐬𝐭𝐦𝐚𝐬 ツヅミちゃん🐾🎄.*
すごくすごく面白かった❣️
「俺」のハト愛が本物になったんだね🥰
文体に引き込まれて、ちょっとくすくす笑いながらも、真摯な「俺」の姿に魅了されてゆく。
これこそ無償の愛、なんかね敬虔な気持ちにさせられました。
ハトさまへの愛のお話を通して、人に対しても同じことが言えるなぁと、わかっててもその行動をとるのは中々難しいなぁ、などといろいろ考えさせられました。
さすが、ツヅミちゃん🐾♥️
最後に感動させる、究極の道徳でした。
ありがとう🕊🌻🐾🕊
弘生さん、メリークリスマスです🕊️🦌🎅🔔🎄☃️
楽しんでいただけて嬉しいです〜❣️✨
お読みいただき、ありがとうございます😆🙇
愛しているからこそ、これはやめた方が良いのかな……。愛だと思っていること、良かれと思ってやったこと、結局自分の楽しみやこだわりのためにやっていたんじゃないか……。ってこともありますが、結果的に距離を置くことになってしまう選択は、寂しいし難しいですよね。分かってもなかなか😂😭
今の世の中、自然や生き物、また私たち人類自身の体やライフサイクル(?)に対しても、どう向き合っていくのか模索中なんだと思いますが、もっとみんなでハッピーになれる未来があれば嬉しいですね🥰🌏🌈🕊️🪲
いつもありがとうございます🌻🌻🌻💕
ツヅミちゃん🐾✨
このお話、好きかも…😍
この文体がすごく好みで、にやにやしながら読んじゃった。
主人公の語りが、真面目なんだけど、ぷっ( *´艸`)ってちょっと吹き出したくなっちゃう微妙なリズム😆スキ
ぎうぎうに主人公の、いえ、ツヅミちゃんのハトさま愛が伝わってきます。
毎日1話ずつ楽しみに読むね🐦💕︎
ありがと〜🌻
弘生さん🌻
ありがとうございます〜🤩🐦💕
弘生さんのように小説の文章を上手に書けなくて、下手っぴなのですが、文体が好みと言っていただけて嬉しいです📝✨
どこへ向かうか分からない破茶滅茶ストーリーですが、楽しんでいただければ嬉しいです🎶