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たとえポの中ポポの中
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俺はパンを手に入れるため、自転車にまたがり、近所のスーパーを目指した。
俺は今スーパーへ向かっているが、この思いはもうすでにハトに向かっている。そして、これから向かうスーパーはもはやハトの一部であると言える。
ハトがパンを得るために俺を見つめるように、俺もまた、ハトの心をつかむためにパンへと向かうのだ。
そのとき、一生すれ違い続けるだけの俺たちの心が一瞬、パンの上で一つに重なり合う。壮大な奇跡のようなものなのである。
『ガサリ』
ぼんやりと考え事をしているうちに、俺はほぼ無意識にパン売り場の食パンの袋をつかんでいた。無意識でも目標のために淡々と歩を進めているなんて、流石俺である。
俺は多分ハトを愛しているが、高級パンを与える主義ではない。一番安いパンを選ぶ。シンプルであればあるほど、ハトの体に害を与えないと思うのだ。
よく、塩辛いスナック菓子をハトに与えている人がいるが、あれはおそらくハトの体に悪いだろう。
その点安いパンはほぼ無味で、何も付けずに食べようという気にはなれない。
この無味っぷりがハトには丁度いいはずだ。
というわけで俺は安い食パンをレジへ持って行った。ちなみに食パンの袋についているジグソーパズルのピースみたいなやつの名前は「バッグ・クロージャー」だ。
さて、レジへ向かったはずの俺の意識はそこで途絶え、気づいたときには広い公園にいた。
俺は基本的に、ハトと、ハトを構成する物質と、ハトに関連する物事にしか興味がない。買い物へ行くときも移動中も、俺の意識に刺激を与えるようなものは何一つなかったらしく、俺は流れるようにハトの元へと向かったのだ。
「クックゥ、クックゥ……」
──!!
──聞こえる。
俺は両耳に手を当て、10メートル先のハトのささやき声に耳を澄ませた。
ああ、なんと美しい声なのだろう。まるで人が足を踏み入れぬ静かな森を流れる、小川のせせらぎのようではないか。
いや、もはやこの美声を何かに例えることなど不可能だ。この世のどんな美しい歌声も音楽も、ハトのささやき声には敵わない。それは絶対的事実なのである。
──ああ、こうして遠くからもっと、ささやかな彼らの息づかいを感じていたい。ハトのいる公園そのものになってしまいたい。しかし同時に、一刻も早くハトの元へ歩み寄りたいのだ。この相反する思いをどうしろというのだろう。
とりあえず俺は、ハトとの間に距離があるうちに、パンの袋を開けて中身を取り出した。というのも、どうもハトは袋をガサガサとさせる音が苦手らしいからだ。捕食者である猛禽類の羽音にでも似ているのだろうか?
そうしてパンをしっかりと手に持った俺は、いつものベンチへと向かった。
さあ、ハトよ、ハトよ。
こっちへおいで。
その虚ろな瞳で俺を見つめておくれ。
「クックゥ」
ハトたちがこちらを見た。
さぁ、くるぞくるぞ。
パラパラ、と数羽のハトがこちらへ飛んできた。
ああっ!!
その愛くるしい姿を目にした途端、頭を撃ち抜かれたようで、たまらず叫びたくなった。
もちろん心の中でだが。
扇子のように開いた尾羽と、翼の裏の白っぽいグレー、オーロラのように輝く首もとの緑と紫が美しい。
トテトテと歩く足元、目線、間近で聞く声、ハトの匂い、そしてオーラとでも呼ぶべき、ハトの存在そのもの。
何もかもがパーフェクトだ。
俺は目を閉じ思いを馳せる。
この広い宇宙の中に地球という星があること、地球に水があること、数多の生命がこの星の上で進化を遂げたこと、自然淘汰で滅びた種もいる中ずぶとく強かにハトが生き延びられたこと、そして今俺の目の前でクックゥクックゥと言っていること……
──そのすべてに心からの賛辞を贈りたい。
俺は心の中で絶叫した。
『ハトぽっぽおおぉぉ!!!』
俺は今スーパーへ向かっているが、この思いはもうすでにハトに向かっている。そして、これから向かうスーパーはもはやハトの一部であると言える。
ハトがパンを得るために俺を見つめるように、俺もまた、ハトの心をつかむためにパンへと向かうのだ。
そのとき、一生すれ違い続けるだけの俺たちの心が一瞬、パンの上で一つに重なり合う。壮大な奇跡のようなものなのである。
『ガサリ』
ぼんやりと考え事をしているうちに、俺はほぼ無意識にパン売り場の食パンの袋をつかんでいた。無意識でも目標のために淡々と歩を進めているなんて、流石俺である。
俺は多分ハトを愛しているが、高級パンを与える主義ではない。一番安いパンを選ぶ。シンプルであればあるほど、ハトの体に害を与えないと思うのだ。
よく、塩辛いスナック菓子をハトに与えている人がいるが、あれはおそらくハトの体に悪いだろう。
その点安いパンはほぼ無味で、何も付けずに食べようという気にはなれない。
この無味っぷりがハトには丁度いいはずだ。
というわけで俺は安い食パンをレジへ持って行った。ちなみに食パンの袋についているジグソーパズルのピースみたいなやつの名前は「バッグ・クロージャー」だ。
さて、レジへ向かったはずの俺の意識はそこで途絶え、気づいたときには広い公園にいた。
俺は基本的に、ハトと、ハトを構成する物質と、ハトに関連する物事にしか興味がない。買い物へ行くときも移動中も、俺の意識に刺激を与えるようなものは何一つなかったらしく、俺は流れるようにハトの元へと向かったのだ。
「クックゥ、クックゥ……」
──!!
──聞こえる。
俺は両耳に手を当て、10メートル先のハトのささやき声に耳を澄ませた。
ああ、なんと美しい声なのだろう。まるで人が足を踏み入れぬ静かな森を流れる、小川のせせらぎのようではないか。
いや、もはやこの美声を何かに例えることなど不可能だ。この世のどんな美しい歌声も音楽も、ハトのささやき声には敵わない。それは絶対的事実なのである。
──ああ、こうして遠くからもっと、ささやかな彼らの息づかいを感じていたい。ハトのいる公園そのものになってしまいたい。しかし同時に、一刻も早くハトの元へ歩み寄りたいのだ。この相反する思いをどうしろというのだろう。
とりあえず俺は、ハトとの間に距離があるうちに、パンの袋を開けて中身を取り出した。というのも、どうもハトは袋をガサガサとさせる音が苦手らしいからだ。捕食者である猛禽類の羽音にでも似ているのだろうか?
そうしてパンをしっかりと手に持った俺は、いつものベンチへと向かった。
さあ、ハトよ、ハトよ。
こっちへおいで。
その虚ろな瞳で俺を見つめておくれ。
「クックゥ」
ハトたちがこちらを見た。
さぁ、くるぞくるぞ。
パラパラ、と数羽のハトがこちらへ飛んできた。
ああっ!!
その愛くるしい姿を目にした途端、頭を撃ち抜かれたようで、たまらず叫びたくなった。
もちろん心の中でだが。
扇子のように開いた尾羽と、翼の裏の白っぽいグレー、オーロラのように輝く首もとの緑と紫が美しい。
トテトテと歩く足元、目線、間近で聞く声、ハトの匂い、そしてオーラとでも呼ぶべき、ハトの存在そのもの。
何もかもがパーフェクトだ。
俺は目を閉じ思いを馳せる。
この広い宇宙の中に地球という星があること、地球に水があること、数多の生命がこの星の上で進化を遂げたこと、自然淘汰で滅びた種もいる中ずぶとく強かにハトが生き延びられたこと、そして今俺の目の前でクックゥクックゥと言っていること……
──そのすべてに心からの賛辞を贈りたい。
俺は心の中で絶叫した。
『ハトぽっぽおおぉぉ!!!』
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