53 / 230
「小説家になろう」の「ランキングタグ設定」を使ってみた(なろうで新作エッセイ3つと詩集更新)
しおりを挟む『前に来た場所とは違うな、、ここはもっと深い。』
その世界には、一定の方向性を持つマシンオイルの臭いのする微風が常に吹いていた。
葛星の被った髑髏のフルフェイスヘルメットの表面にある血にそっくりなぬめりが、その風を捉え、葛星の嗅覚に置換して送り込んでくる。
葛星の姿で、一度目に降り立った場所は、この世界に至るまでの中間レベルの様だった。
「、、、そこはトワイライトゾーンだ。」
髑髏の赤い目で、葛星と同じ風景を見ている筈のアレンの呟きが聞こえた。
アクアリュウムと呼ばれる地上世界と、ゲヘナを分け隔てる中間層を、トワイライトゾーンと呼ぶ。
そこはかって人類が、地下から地上のアクアリュウム世界を拡張する際にベースにした世界であり、この空間には、人間が居住する為の配慮は一切なされていない。
人口太陽もなければ、空調設備もない。
その途方もなく水平に広がる空間を占めるのは、この世界を支える主柱と支柱、そしてアクアリュウムの世界樹たるママス&パパスのジェネレーターと用途も判らぬ雑多な機械類ばかりだ。
しかし、いかなる光源の恵みをもらってか、このトワイライトゾーンは銀灰色に鈍く輝いていた。
と突然、エレベーターの出口に当たる縦長のチューブの中央の空洞を背にして突っ立ったままの葛星を後目に、蜘蛛が何の前触れもなくカサカサと走り出した。
「蜘蛛はチャリオットを探しに行ったようだ。なに、ここには蜘蛛がアクセス出来る機械が山ほどある。直ぐに見つけだすさ。」
蜘蛛の突然の動きを、アレンはそう説明した。
しかし蜘蛛にその必要は、なかった様だ。
数分後にチャリオット本人が、トワイライトゾーンの中を滑るように走る数台の連結トロッコの様なものに乗って葛星に近づいて来たからだ。
チャリオットの乗る先頭車両の後ろの車両には、恐らくベースがビニィであろうと推測されるクリーチャー達が、ひしめき合っていた。
そして、チャリオットの隣には、あの女が座っていた。
服装は相変わらず、SMクラブの女王様風のレザースーツだったが、今回は眼鏡も白衣もつけていない。
「あの蜘蛛の様なものを呼び返してくれんか?あれは君のものだろう?奴がアクセスした後の機械は狂ってしまう。ここはこの世界、いや君たちのアクアリュウムを維持する為の内蔵ともいえる場所なんだ。アクアリュウムは君たちの世界なんだろう?その意味が分かるなら、呼び返してくれたまえ。」
チャリオットは初めてあった時の企業人然とした口振りで言った。
しかしその言葉の裏には、完全な動揺があった。
チャリオット達は、葛星たちが自分たちの領域に侵入してきた様子を、ある程度の余裕を持ってモニターしていたに違いない。
そしてその余裕を覆すような、予期せぬ蜘蛛のすばやい動きと、蜘蛛がアクセスした後の計器の混乱が、チャリオット達の登場を早める結果となったのだろう。
「あれは俺の下部ではない。自分で判断する。必要性がなければ自分で帰って来る。」
葛星の返答に不思議なものを感じたのかチャリオットは首を傾げた。
「君は何者だね?ただのキングの先兵とも思えんが?」
「お前達こそ、何者だ?」
チャリオットもあの女も自分たちの目の前に立っている怪物が、葛星だとは気づいていないようだつた。
過去、葛星は鎧装着によるビニィ狩りを何度も行っており、その現場の目撃者の数も相当になる筈だった。
しかし、鎧装着時の葛星の姿を正確に記憶したり、言い表せる人間は少ない。
鎧の神秘性を感じさせる強烈なデザインが、人々の記憶を混乱させ、伝説を生むのだろう。
チャリオット達は、今初めて鎧を見た状態にあり、更に葛星自身も鎧の中に入った時の自分は別の存在だという感覚が強くなる為に、二者の会話は初対面の様に行われていた。
「私はチャリオット、渾名だ。本名はもう忘れてしまった。こちらにいるのは、ゲザウエィさん。」
チャリオットは、少し企業人としての仮面が剥がれ掛けていた。
・・ゲザウエィ?生意気に人の名を持っているのか?
・・それにチャリオットはこの女を人のように扱っている。
インストラクターの威圧的で、どこか鋭利な理性を感じさせる物腰は初めて見たときと同じものだったが、鎧を着けた葛星を見る彼女の視線には少し変化があった。
そのエロッチクな顔立ちの中には、何か神秘的なものを目の前にしているような表情が浮かんでいたのだ。
「お前達二人は、このトワイライトゾーンで何をしている?」
葛星は髑髏のヘルメットから自分の声を吐き出した。
「哀れな地上の人間達の欲望処理と言ったらいいかしら。一種の慈善事業ね。あなたこそ何者なの?最近、あのブースから、この世界に入ろうとした人間がいたけど、その関係者?」
ゲザウェイと呼ばれたインストラクターが問い返した。
顔などの露出している肌には、この前の激闘の跡が一つもない。
と言うか、葛星には、あの奈落の底に彼女を投げ飛ばした記憶がある。
「自ら名乗る名前はない。人は俺の事を(赤と黒)と言ったり、死神と呼んだりするようだが。」
「R&Bね。気に入ったわ。」
ゲザウェイは何の畏れもないようにトロッコから降りて葛星に近づき、その革に包まれた細長い指先で葛星の鎧の胸の部分をなぞった。
途端に指先が切れ、ゲザウェイはその指を赤い唇にくわえた。
「どうやら君は、キングの先兵ではないようだな。とにかく迷い込んだんなら、とっとと退散してくれたまえ。普通なら強制的にそうさせて貰うところだが、君は途轍もなく危険そうだ。」
「そういうお前達は危険ではないのか?お前達はキングの息子に何をした?」
葛星は、チャリオットの攻撃の号令を、今や遅しと待ちかまえているクリーチャー達を眺めながらゆっくりとした口調で尋ねた。
(ダンク!見つけたぞ!蜘蛛から連絡があった!)
どうやら蜘蛛はチャリオットを探しに行った時に、違うものを見つけたようだ。
(やかましい。今は駆け引きのまっ最中だ。黙ってろ!)
(その駆け引きに役立つ。チャリオットの後ろにいるクリーチャーどもはみんな例のプラグインのマリオネットだ!)
「蜘蛛から知らせがあった。蜘蛛は帰って来ない。蜘蛛はその醜い生き物どもの正体を掴んだ。生き物の綾釣り糸を手繰って、その背後にいる人間にダメージを与える準備が整ったとも言っている。」
ややあってチャリオットの身体が一瞬震えた。
目の前の怪物がチャリオットに言った内容よりも、その後にその怪物が漏らした押し殺したような笑いに恐怖を覚えたからだ。
葛星のはったりに、チャリオットの顔が蒼白になって、次の指示を仰ぐかのように隣に立っているゲザウェイの方を見た。
「なら、ついて来なさい、R&B。ここで貴方と戦うのも面白そうだけど、私は貴方ともう少しお話がしたくなったわ。私たちの館に案内してあげる。『愛の繭』よ、地上の人間達は全てを投げ打ってでも、ここに来たいと願ってるみたいだわよ。」
ゲザウェイは歯切れのいい口調でその場のケリを付けると、ついて来いと言わんばかりに、再びトロッコに乗り込んだ。
そして葛星は、いや、赤と黒の死神は、怪物どもがひしめき合うトロッコにゆっくりと乗り込んで行った。
0
【うだつの上がらないエッセイ集】
生き物の話や夢の日記、思い出や星占いの話など、思いついたことを色々詰め込んだ連載です。
【良くも悪くも、星の回転は止まらない】
詩集です。すぐ読める短いものが多いです。20編で完結しました。
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

連載をしても全然スコアが上がらなかったのでヤケになって短~い文章を連発しています
月澄狸
エッセイ・ノンフィクション
連載し続けて現在7万字を越えたエッセイ集で、今までに得た見込みスコアは1(未完結)。9500文字の詩集の見込みスコアは完結時まで0、完結ブーストでちょっと上がって3。ちなみに文字数1万6000字程度のSF風短編(完結済み)の見込みスコアは0。
で、500文字で一話完結で投稿した現代文学作品の見込みスコアは4。同じく一話完結で投稿した文字数177の詩の見込みスコアは2。たくさん書いても文字数が少なくても見込みスコアが同じくらいってどういうこと?


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

毎月一本投稿で、9ヶ月累計30000pt収益について
ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
9ヶ月で毎月一本の投稿にて累計ポイントが30000pt突破した作品が出来ました!
ぜひより多くの方に読んでいただけた事についてお話しできたらと思います!
アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための10の技
MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。
私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。
すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。
そんな方に言いたいです。
アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。
あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。
アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。
書いたまま放ったらかしではいけません。
自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる