良くも悪くも、星の回転は止まらない

月澄狸

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これは幸せの手紙です……か?

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※修正をさせて頂きました。
誤解を招く文章でしたこと、深くお詫び致します。引き続きよろしくお願い致します。

___________





 信じられない提案だ。
 絶対に叶えることなんてできない。

 普通ならばそう考えるはずだが、相手はリヒト魔法使いである。
 プレセアをゴクリと息を飲む。
 手が、身体が震えているのが分かった。

「ほ、本当に忘れさせてくれるんですか?」

「勿論。だって....今の君を放っておけないから」

 余程酷い有り様なのだろうと直ぐ分かった。
 しかし、これだけの羞恥を晒しながらも、頭は【忘れたい】でいっぱいだった。

「お願いします。忘れさせてください。このままじゃ私、二人を祝福してあげられません....」

「うん、よく分かったから。もう我慢しなくていい。全部僕に任せて、全て委ねて」

 髪をくしゃりと優しく撫でられた。

 その瞬間、バチン……!!

 そう何かが張り裂けるような音がした。
 身体から一気に力が抜け、前方に倒れる。
 しかし、一向に痛みが訪れることは無かった。
 意識が一気に遠のいていく。
 まるで睡魔のような......なにかに誘われていくように、プレセアは意識を手放した。



 □△□

 ......バチン!!

 何かが弾けたような。
 そんな気がした。

「あれ……私」

 視界に入ったのは見慣れた天井。
 ふかふかとプレセアの身体を優しく包み込んでくれるベッド。
 直ぐに此処が自分の部屋だと分かった。

「プレセアちゃん! 目を覚ましたのね!」

 まだボーッとした視界に突然現れた人物。
 それは、プレセアの兄、ルカの婚約者であるディシアだった。

 ディシアはホッと胸を撫で下ろす。
 その表情は安堵した様なものだった。


「プレセアちゃん、覚えてる? 貴方、広場で倒れていたそうなの。それを親切な方が助けてくれて、運んで下さったのよ」

「そうなんだ.....」

 しかし、そう言われても何も思い出せない。
 広場で倒れた?
 そもそも広場に行った記憶さえ無い。
 ある記憶とすれば風邪で数日寝込んでいたことぐらいだ。

「私、広場に行った記憶も無くて......。どなたが私を助けてくてたの? お礼を伝えたいの」


 プレセアの言葉にディシアがわずかに目を見開いた。
 そして小さな声で「まさか、本当に......」と言葉をこぼした。
 一瞬視線をプレセアから逸らすも、すぐにディシアはその淡い水色の瞳に彼女を映す。
 そして、グッと溢れ出そうになる後悔を噛み締め、プレセアを抱きしめた。
 突然の事にプレセアは目を見張った。
 二人の関係性は本当の姉妹のように良好だ。
 特にディシアは可愛らしいものが大好きで、且つ非常に愛らしいプレセアを気に入り、とても可愛がっていた。


 そんなプレセアが傷ついていた・・・・・・事に気づく事が出来なかった事に不甲斐なさを感じた。


 だから、今度・・は絶対に守ってみせる。
 そう決めたのだ。


「......プレセア。 これから大切な話があるの。少し、いい?」

「はい...?」


 ディシアの真剣な眼差しに、プレセアは少し圧倒されながら頷いた。
 一体どんな話なのだろうか。
 プレセアは見当もつかなかった。



  
 それから支度を済ませたあと、プレセアの部屋に父親と兄のルカがやって来た。
 そしてそこにはもう一人、意外な人物の姿があった。

「どうやら彼....リヒトさんの話していたことは本当みたいです」

「そうか」

 ディシアと父の顔を交互に見つめ、プレセアは首を傾げる。
 一体何の話をしているのだろうか。
 それになぜ此処にリヒトが?
 特に接点があるわけではない。一度どこかで話した事があったような気がするが、記憶はおぼろげだ。

 ただこれまでの流れで、何となく察する事ができた。

「もしかして....私を助けてくれたのは」

「あぁ。彼だよ」

 ルカの言葉にリヒトが一礼をする。
 もしかして……とは思っていたが、どうやら当たりだった様だ。
 

 父親とルカはプレセアを見るなり、ホッと安堵した様な表情を浮かべた。
 酷く消沈した様子だったと聞いた時。
 そして同時に存在するか否かも危うい存在魔法に縋る程に追い込まれていたことにも気づいてあげられなかった己の愚かさに落胆した。

 しかし、今はどうだろう。
 どこかスッキリとした表情を浮かべるプレセアに、彼等は安堵を感じていた。

「プレセア。体調はどうだ?」

「うん、もう平気。お父様もお兄様も心配をかけてごめんなさい......。私、知らないうちにお屋敷を飛び出してしまっていたみたいだし。リヒト先輩にもご迷惑をおかけしてしまって。本当に申し訳ありません」

「いや、プレセアは何も悪くないよ。寧ろ謝るべきなのは俺たちの方だ」

「あぁ。本当にすまなかった、プレセア。辛い思いをさせてしまって。気づいてやれなくて」

 なぜ自分ではない兄たちが謝るのか、プレセアにはこれまた全く検討がつかなかった。
 なにせ勝手に家を飛び出し、迷惑をかけたのは自分なのだから。
 しかし、なぜだろう。頬に伝った生暖かい何か。それが涙だと気づくのに、時間を有した。

「あれ?なんで涙が..?」

 拭っても拭っても止まることをしらない涙。
 そんなプレセアをディシアは強く抱き締めた。
 そっと寄り添う父親。
 優しく頭を撫でるルカ。
 三人の温もりに触れて、プレセアは声を上げて涙を流した。


 
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