うだつの上がらないエッセイ集(たまに自由研究)

月澄狸

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庭のスコーピオンフライ(Scorpionfly)「シリアゲムシ」

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 5月初めのある日。庭で、今まで見たことのない虫に出会った。
 会った時は動きの速さからその姿がなかなか確認できなかったのだが、撮った写真を確認してみるとそれはそれは美しい虫だった。

 黒く光沢のある体に綺麗な模様の羽を持ち、長い口がある。
 力強い眼差しはこちらに向けられているようだ。

 そして何より目を引くのは尾である。
 くるりと上へ巻いており、先端には針のようなものがついていた。
 その姿はまるでサソリ。


 この虫は一体……!? 庭にこんな虫がいたなんて。
 今までに、近所の虫とはほとんど出会い尽くしたものだと思っていた。

 調べたらその虫は、「シリアゲムシ」という名の原始的な昆虫だった。さらに、シリアゲムシの中の「ヤマトシリアゲ」という種類らしい。
 尻を上げているからシリアゲムシ。分かりやすい。

 体長は15~22mmくらいだ。
 ヤマトシリアゲは雑食だそうで、肉系も食べるが生きた虫を積極的に狩ることはなく、どちらかというと虫の死骸を探して食べる性質のようだ。

 そして目立つしっぽ(正確には腹端)の先にあるのは、毒針ではなくハサミだということだ。
 撮った写真をよく見てみると、先が二股に分かれている様子がうっすら確認できた。このような特徴ある尻をしているのはオスだけで、メスは普通である。



 さらに情報を見ていくと、シリアゲムシの多くはオスがメスに食べ物を贈るという文化があることを知った。
 虫ってそんなことをするのか。知らなかった。二度目の衝撃を受けた。

 シリアゲムシの後オドリバエの一種にも会ったのだが、オドリバエにも同様の習性があるものがいるらしい。


 ヤマトシリアゲの体色については、初夏に出てくるものは黒っぽく、晩夏に出てくるものは黄色っぽい色だということだ。
 黄色いヤマトシリアゲは「ベッコウシリアゲ」と呼ばれ、昔はヤマトシリアゲとベッコウシリアゲは別の種だと考えられていたらしい。

 シリアゲムシは世界各国わりとどこにでもいる普通の虫で、アメリカでは切手にもなっている。

 こんなユニークで美しい虫が世界中で見られる「普通の虫」だなんて……。
 私は「普通」を誤解していた。
 普通はつまらなくなんかない。素晴らしいのだ。

 そんなシリアゲムシ、英語だと「スコーピオンフライ(Scorpionfly)」と呼ばれている。
 ドラゴンフライ(トンボ)を思い出すようなカッコいい英名だ。先ほどのシリアゲムシ切手は「scorpionfly stamp」で検索すると見ることができる。

 個人的にはシリアゲムシも良いけどスコーピオンフライの名がしっくりくる。
 黒く輝く体に立派な尻尾、初めて出会った時は衝撃を受けた。本当にサソリのようだと思った。

 シリアゲムシは決して有名な虫ではない。
 けれどこれからも、シリアゲムシに出会ってその魅力にハマる人が多いのではないだろうか。
 今日もスコーピオンフライはきっと、すぐ近くを飛んでいる。

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