夢は嘘つき? 正直者? 夢の中で、現実ではしないような言動をしている

月澄狸

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夢は嘘つき? 正直者? 夢の中では、普段はしない言動をしている

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 ある日の夢の中。私は自分の家の前で、釣りをしていた。
 現実の我が家は海に面していないし、うちは海なし県で、釣りをすることもない。しかし私は食材を求めて釣りをする。横には、釣りに慣れた弟(という設定の男性)がいる。

 魚はなかなか釣れない。しかし私の頭にはなぜかシナリオが浮かんでいた。予知というのか、計画なのか。「諦めかけたその時、大物が釣れる」というようなシーンが頭に浮かんでいたのだ。
 そして予告通り、大きな生き物がかかった。引っ張り上げるとそれは、カニとエビが合体したような生き物だった。

 弟は慣れた様子である。
 私は獲物を生きたまま箱に押し込めようとしている。弟からの指示だったか、そうするのが当然のように。

 箱に詰めたカニエビはそのまま冷凍するのだろうか。次に蓋を開けた時にはもう死んでいるだろう。






 まだ生きているのに、動いているのに、ごめんなさい……。
 カニエビを箱に押し込めている時の感覚のまま、私はボロボロ泣きながら目を覚ました。


 可哀想なことをしたなぁ。
 とはいえ目を覚ました現実でも特に変わりはない。毎日誰かを食べて生きてゆくのだ。この食物連鎖の世界から脱出するにはどうしたら良いだろうと思うけれど、どうも一朝一夕では抜け出せそうにない。

 最近自分も含め、感覚の幼い人間が多い気がする。
 小さい頃は、生き物を殺すのが可哀想と泣き喚いて訴えれば、まわりの大人は子どもに酷なものを見せるのを避けて考慮してくれるかもしれない。そして子どもは「生き物さんが助かって良かった」とニコニコしながら唐揚げを食べるのだ。

 いや、子どもでも大人っぽい人はいるだろうから「幼い」という表現は失礼か。

 ネットで、生き物を殺して食べることに関する話や動画に憤って「可哀想」「動物虐待」と訴えている人を見かける。動物が動物を食べるという当然の摂理にショックを受ける人がいる。文章を見ると小学生とかではなさそうだ。
 その人たちは普段自分が何を食べて生きていると思っているのだろうか。ステーキを食べるテレビ番組には反応しないのだろうか。野菜も理屈上同じだとは思うけれど。


 さらに妙なのが屠殺動画のコメント欄。やたらと興奮し、煽り、「可哀想だ」と言っている人に対して「バーカバーカ」とあざ笑うようにはしゃいでいる輩が大勢いるのだ。
 ステーキには大喜びで、屠殺には「動物虐待だ!」と怒る人がいたとしたら確かに変である。けれど、「バーカバーカ」とか「頭おかしいんじゃないの?」などと低レベルでワンパターンな発言を繰り返す方もおかしい。彼らは一体どこに、何に興奮してはしゃいでいるのだろう?

 どうも理性ある人間の会話とは思えないというか、人間ってこんなレベルなのかと悲しくなる。






 私は夢の中でしょっちゅう「季節はずれのセミの声」を聴く。ついこの間もその夢を見た。そして決まってはしゃいでいるのだ。「こんな季節にセミの声が」と。

 まるで物心ついたばかりの子どもみたいだ。セミの声を聴いて喜ぶのも、カニエビを殺すことに涙するのも。現実では私はもっと冷酷だろう。そんなに喜びも泣きもしないはず。

 時が止まったかのように夢の中では幼い感覚だ。
 でも実は大人の感覚こそが嘘で、夢の中の、子どもの感覚が本物なんだろうな。


 昔大勢で鍋を囲んだとき、食材として生きたエビが出た。そしてそのエビを年上の人が躊躇なく鍋の中に押し込んで蓋を閉めた。エビは陸に上げられて弱り、もう抵抗する力もなく、食材として横たわっているだけのように見えたのに、その瞬間激しく暴れて息を引き取った。

 生きた生物を調理することに慣れていなかった私はその場面に動揺した。

 エビはエビであるというだけで殺された。これが犬や猫だったら殺されないものを。……いや、犬や猫も裏では殺処分されているけど。

 その場にいる人全員、エビを生き物ではなく食材としか見ていなかった。食用として認知され、捕られ、予定通り運ばれてきた生き物だからだ。

 人間の善悪観は状況や時代によって左右される。もし私が殺されるべき立場になったら、人々は躊躇なく私を鍋にでもなんでも放り込むだろう。魔女狩りや死刑のように。そんなことを思いつつゾッとした。






 ここでふと疑問に思う。

 実は私は普段生き物を殺す夢ばかり見る。が、今回のように初々しく泣いたりはしない。
 採卵鶏のオスのひよこを圧死させるように、夢の中でよく小動物をギューッと押し潰しているのだ。

 意図や理由は分からないが夢の中のお決まりである。虫、鳥、哺乳類など色々潰す。気づいたら死んでいる、ということもある。

 こんな夢を見ている私の、現実での生物への好奇心は残虐性から来るのだろう。そう思っていた。だからペットを飼っていないし、現実の世界ではできるだけ生き物を傷つけず怖がらせずにいようとしている。ベジタリアンにはなれていないけど、釣りをしたり何かを捕ったり倒したりということはゲームの中だけにしている。


 さて、常に夢の中で生き物を押し潰しているというのに、今日夢の中で生き物を締めるのに大泣きしていた自分は何なのだろう。同じ人間の夢の中なのに人格が違うのか?

 そういえば、夢の中で主人公である、行動している自分を私は勝手に「私」だと認識しているが、実はそれは私ではないのかもしれない。誰か他の人の感覚を味わっていることもあるんじゃないか?

 生物を殺して泣く私と、意味もなくギューッと押し潰す私、どっちが本物の私だろう。どっちも私は持っているのだろうか。それともどっちも本物の私ではないのだろうか。







 もし人を殺してしまったら……。正義感や責任感の強い人なら死ぬまで自分を責め続け、償おうとするだろう。
 でも多分私は、人を殺してしまった自分に順応しようとする。

 やってしまったものはしょうがない。しかし迂闊に表に出せば批判と誹謗中傷の嵐。
 自分はこれから人を殺してしまった者として、どう生きてゆけばいいのか?
 ……そう考えるだろう。


 だって、エビの命も人間の命もそう大して違いはないと思うのだ。ただ姿と立場が違うだけ、人間は生き物の気持ちを関知できないだけ。昨日の晩御飯ももう忘れているのに、人を殺したことだけを悔い嘆き続けるというのもおかしな話だと思うのだ。他の人間だって今まで何かを犠牲にしつつ生きてきたはず。殺人だけが大罪というのも妙である。

 もちろん、自分が殺されそうになったら全力で抵抗するが。善とか悪とか関係なく死にたくないし。
 生き物はそうだろう。善も悪もなく生き残ろうとする。


 もし人を殺してしまったら、私の本当の心は「その前」に置き忘れてしまうだろう。「前」と「後」ではきっと全然違う。やってしまった後ではもう前に戻れない。そうやって順応していくのだ。

 いや、それならもうとっくに「本当の心」なんて置き忘れてきたかもしれない。
 一体どこでだろう?
 初めて肉を口にした時か、母乳を口にした時か。それとも生まれた瞬間か、発生した瞬間か?


 雪に、セミの声に、チューリップに、歌に、光景に……
 ありとあらゆるものに感動し、素直に影響された幼い頃。
 お金も時間も存在しない世界ではしゃぎ、泣いていた夢の中。そこだけが自分の本心に近い気がする。
 生き物を押し潰している私は私ではなく、何かの象徴なのだと思いたい。


 どこかに置き忘れてきた本当の心。
 今ここにいると思っている自分は本当に自分なのだろうか。


 自分って誰だ。





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みんなの感想(1件)

大林和正
2023.12.05 大林和正

やっぱり凄いです
文も内容も写真も全て…
その…凄いです
すみません🙇
上手く言えないです
面白かったです
ありがとうございます😊

2023.12.05 月澄狸

大林さん
ありがとうございます😭
文章の中では自分のことを棚に上げて大層なことを書いたり、かと思えば承認欲求とトラウマに取り憑かれまくったり、あと、「ゲームの中でしか何かを捕ったり倒したりしない」と書いてるのにムカデを捕まえて上から横から写真を撮っているのはどういうことだろうと思ったりしますが、写真や文に「作品」として何かがこもっていたら嬉しいです😆

解除

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