ここよりずっとたかいところ

月澄狸

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心の帰路

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 その後観覧車が役目を終えるときまで、少女が再び訪ねてくることはありませんでした。

 もしあの時言葉を返していれば少女と話すことができたのでしょうか。
 結局別れの挨拶はできませんでした。しかし観覧車の解体作業が始まった頃、少女は少し離れた場所でその様子を見守っていたのです。見届けたいような、見たくないような、複雑な面持ちで。



 解体が終わり、表の世界から姿を消し、観覧車というものではなくなった観覧車は、しかし別の世界で姿と意識を保ち続けました。

 いつ元の世界で意識を失ったのか分かりません。今いる場所がどこかも、回り続ける意味も、もう分からないのです。自分が発する無機質な音とどこからか流れてくる音楽以外、何も感じ取れない空間はまるで墓場でした。


 一番最初、淡い意識しかなかった頃のように……
 また観覧車は自分というものを見失いそうになっていました。

 体を失い、やがては心も、少しずつ溶けて消えてゆくように感じていたのです。



 そんな時、この場所に突然ひとつの人間の影が現れました。

 影はしばらく、自分の姿が分からないのか、迷っているかのようにぼんやりと揺らいでいました。


 観覧車が最後に人間の姿を見てから、どのくらいの時が経ったのでしょう。生命の気配を感じられないこの世界でたった1つの存在となった今、ここに現れた人間の気配は懐かしいものであるはずでした。しかし人影を見た観覧車は喜んではいないようです。


 意識を持った人間だ……
 そう感じた観覧車の心に、緊張感が走りました。
 来るはずのない、来てはいけないものが現れたという感覚でした。

 墓場のようなこの空間に潜り込んでしまった人間は、ここにいればやがて自分と一緒に消えてしまう運命なのかもしれません。

 消えるのは自分だけで十分……。
「元の世界に帰さなければ」
 観覧車は直感的にそう思ったのです。


 ここはまるで夢の中。長らく現実味のない世界に浸っていた観覧車は、今回は「人間に話しかけるべきではない」とは思いませんでした。

 地上での日々を思い出し、人間の声を思い浮かべ、「声」が届くことを願って、人間に向かってメッセージを発しました。できるだけ怖がらせないように穏やかに、自分の知っている言葉で。


「迷子ですか?」


 あたりにアナウンスのような音が響き、観覧車はそれが自分が発した声だと理解しました。

 案外簡単に声が出るものです。ここが夢や幻のような世界だからでしょうか……。観覧車はそんなことを思いつつふと気づきました。元の世界に帰る方法など知らないことに。


 そもそも今自分がいる世界が何なのか、観覧車にも分からないのです。それでもこの人間は今来たばかりなのだから、すぐに自分の意志で戻ろうとすれば帰れるかもしれないと考えました。元の世界で体や命を失っていなければ……。


 二言目、何を言うべきか。迷う観覧車に人影はゆっくりと視線を向け、段々と姿を現し始めました。そして観覧車に向かって駆け寄ってきたのです。

 その姿は、以前観覧車の元に通い続けていたあの少女でした。


『この子がなぜここに?』
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