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出会い
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「そういえばあなたはずっと、子どもの私にとっての綺麗な思い出のままでいようとしてくれたよね……。本当は人間界で嫌なこともあったでしょう? それでもいつも子どもの気持ちに寄り添ってくれてありがとうね」
少女は急に感慨深そうに言いました。
会話の中での観覧車の言葉に気遣いを感じていたのでしょうか。「夢」を壊さずにいてくれる観覧車に、感謝の思いを伝えたのでした。
観覧車は観覧車で思うところがあるようです。
ああ、彼女はきっと、最初からこうだったのだ……と。
観覧車は記憶をたどり始めました。
それはまだ自分が現実の世界で回っていたときのこと……。
観覧車は元々、今ほどハッキリとした意識を持っていませんでした。自分が人を乗せる遊具であること、どこかに立っていることなどをぼんやりと感じていたくらいだったのです。
集まってくる人々の目的は自分に乗って回ること。景色を見ること。そして自分は回り続けている。きっとずっと、これからも……。
最初の頃の記憶は断片的で淡いものでした。
ただその中でなんとなく、人々があちらこちらへ向ける意識の流れを感じていました。
好んで自分の写真を撮っている人がちらほらいることも。
しかし大抵の人は観覧車を物として見ていました。そして観覧車は、自分に乗っている人にとって観覧車よりも大切なものがあることを感じていました。人間が同じ人間である仲間に対して向ける愛情。観覧車に乗る理由は、恋人や家族との会話や思い出づくりのためだったり……。中には大事な人形やぬいぐるみを抱えている子どももいたのです。
別にその輪の中に入りたいとか、自分も誰かにとって意味のある存在になりたいとか、そのような発想はありませんでした。観覧車はどこか他人事のように、自分だけが別世界にいるかのように……行き交う人々や景色の移り変わりを眺めていたのです。
そんな中、いつ頃からか、一人の少女が通ってくるようになりました。
この近くに住んでいるのでしょうか。いつも一人で、お気に入りの服を身にまとい、腰には小さなゲーム機を付けていました。よく独り言を言う少女でした。
「あのお店も、あっちの建物もよく見える。すごいね」
「今日はあったかいね」
ささやくように少女は話し続けます。
最初は特に気に留めていなかった観覧車も、やがて一人で通い続ける少女のことを覚え、彼女が何を言っているのか気になりだしたのでした。そしていつしか彼女の言葉に耳を傾け、心の中で言葉を返し、会話の真似事を楽しむようになりました。彼女の言葉が自分に向けられているなどとは思わないまま。
彼女の言葉が聞こえだした頃から観覧車の意識は段々鮮明になり始め、人間たちの話し言葉の意味や、自分の存在がより確かに認識できるようになりました。自分が観覧車だということ、それが自分の体だということをハッキリと自覚したのです。
そうなると、人々の様子を観察することを楽しんだり、そろそろ少女が来る頃かなとワクワクしながら待つようになったりしたのでした。
そうしてしばらく経った頃。乗客たちの間でこのような言葉が飛び交い始めました。
「もうすぐ終わるからね」
「最後だから」
「乗っておこうかと思って」
観覧車は人々から寂しげな空気を感じ取ります。それが一体何を意味するのか、誰のことを言っているのか、分からないままでいた時間はそう長くはありませんでした。
観覧車はいつものように黙ったまま、ゆっくりとあたりの町並みを見渡しました。その光景を記憶に焼き付けるかのように。
観覧車のまわりには、新しく建てられている途中の建物や、壊されてゆく建物がありました。
なるほど、自分もああいう物の一つだったのだと……。
役目を終えるのだと……。
観覧車はなんとなく自分の行く末を悟ったのです。
少女は急に感慨深そうに言いました。
会話の中での観覧車の言葉に気遣いを感じていたのでしょうか。「夢」を壊さずにいてくれる観覧車に、感謝の思いを伝えたのでした。
観覧車は観覧車で思うところがあるようです。
ああ、彼女はきっと、最初からこうだったのだ……と。
観覧車は記憶をたどり始めました。
それはまだ自分が現実の世界で回っていたときのこと……。
観覧車は元々、今ほどハッキリとした意識を持っていませんでした。自分が人を乗せる遊具であること、どこかに立っていることなどをぼんやりと感じていたくらいだったのです。
集まってくる人々の目的は自分に乗って回ること。景色を見ること。そして自分は回り続けている。きっとずっと、これからも……。
最初の頃の記憶は断片的で淡いものでした。
ただその中でなんとなく、人々があちらこちらへ向ける意識の流れを感じていました。
好んで自分の写真を撮っている人がちらほらいることも。
しかし大抵の人は観覧車を物として見ていました。そして観覧車は、自分に乗っている人にとって観覧車よりも大切なものがあることを感じていました。人間が同じ人間である仲間に対して向ける愛情。観覧車に乗る理由は、恋人や家族との会話や思い出づくりのためだったり……。中には大事な人形やぬいぐるみを抱えている子どももいたのです。
別にその輪の中に入りたいとか、自分も誰かにとって意味のある存在になりたいとか、そのような発想はありませんでした。観覧車はどこか他人事のように、自分だけが別世界にいるかのように……行き交う人々や景色の移り変わりを眺めていたのです。
そんな中、いつ頃からか、一人の少女が通ってくるようになりました。
この近くに住んでいるのでしょうか。いつも一人で、お気に入りの服を身にまとい、腰には小さなゲーム機を付けていました。よく独り言を言う少女でした。
「あのお店も、あっちの建物もよく見える。すごいね」
「今日はあったかいね」
ささやくように少女は話し続けます。
最初は特に気に留めていなかった観覧車も、やがて一人で通い続ける少女のことを覚え、彼女が何を言っているのか気になりだしたのでした。そしていつしか彼女の言葉に耳を傾け、心の中で言葉を返し、会話の真似事を楽しむようになりました。彼女の言葉が自分に向けられているなどとは思わないまま。
彼女の言葉が聞こえだした頃から観覧車の意識は段々鮮明になり始め、人間たちの話し言葉の意味や、自分の存在がより確かに認識できるようになりました。自分が観覧車だということ、それが自分の体だということをハッキリと自覚したのです。
そうなると、人々の様子を観察することを楽しんだり、そろそろ少女が来る頃かなとワクワクしながら待つようになったりしたのでした。
そうしてしばらく経った頃。乗客たちの間でこのような言葉が飛び交い始めました。
「もうすぐ終わるからね」
「最後だから」
「乗っておこうかと思って」
観覧車は人々から寂しげな空気を感じ取ります。それが一体何を意味するのか、誰のことを言っているのか、分からないままでいた時間はそう長くはありませんでした。
観覧車はいつものように黙ったまま、ゆっくりとあたりの町並みを見渡しました。その光景を記憶に焼き付けるかのように。
観覧車のまわりには、新しく建てられている途中の建物や、壊されてゆく建物がありました。
なるほど、自分もああいう物の一つだったのだと……。
役目を終えるのだと……。
観覧車はなんとなく自分の行く末を悟ったのです。
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