飛べない狸の七つ芸

月澄狸

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ゴキブリ慰霊祭

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 ゴキブリ慰霊祭の、主催者の代理だか何だか、主催者サイドのおっさんがスピーチ的なやつを始めた。
「えー、本日は皆様、ゴキブリ慰霊祭などというふざけたイベントにお集まりいただき……ぶふっ……誠にありがとうございます」
 笑いをこらえきれないと言った様子で、ニヤニヤしながら喋っている。

「何を言ったら良いんですかねぇ? ゴキブリ……うちでも簡単に殺しちゃいますけどねぇ。だって人家に依存する不快害虫ですからねぇ……。妻はあんな虫ごときにキャアキャア言いますけどね、アイドルでもあるまいに。なんちって」
 本人としてはギャグの一種だったらしく、おっさんは自分の言葉にウケてウッハッハと笑った。我々参加者には笑いのツボが分からなかった。

「まぁね、今回、ゴキブリ慰霊祭の企画者が志半ばで食中毒でお亡くなりになるという、痛ましい事故があり……。ダブル慰霊祭と言いますか。ゴキブリ慰霊祭などというふざけたタイトルといえども笑いにくいイベントになっちゃいましたのでね。我々もしんみりいきましょう」
 スピーチの奴が口調を変え始めた。参加者の面々から立ち上る、謎の殺気を感じたのかもしれない。

「えー、ゴキブリさん、ゴキブリさん。いつも我々のために死んでくれてありがとうございます。あなた方の尊い犠牲により、この衛生的な社会を継続できております。あなた方が死んでくれるから、私らは清潔に過ごせるのです。その犠牲を忘れずに、ここに感謝を……」

 ところが何が気に障ったのか、突然参加者の一人が演説台的なやつに登り、スピーチのおっさんを殴った。「ボグッ!!」とかいう濁った音が、マイクを通してあたりにこだました。

「何が尊い犠牲だ! 犠牲になることが尊い命なんてあるもんか! すべての命が平等だ! 誰かのために誰かが死ぬなんて間違っている。犠牲が喜ばれる命なんてあってはならない。言うならこうだろう、『今はゴキブリ様を殺す世の中ですみません、いつか皆が幸せに生きていける世界にします。我々はなるべく近いうちにすべての生き物の可愛さに気づき、愛情の偏りなく、すべての種類を平等に可愛がります』とな! 生き物は人類にとって子どもやペットのような存在だ。我々は生き物から素材を搾取したり、自然界をコントロールするために生きているのではない! この地球すべてを可愛がるために生きているんだ!!」

 おっさんを殴り倒した参加者が叫び散らした。しかし賞賛や反論が沸き起こる暇はなかった。丁度このとき、どこぞの国の核ミサイルが誤作動で吹っ飛んでいき、奇跡的な軌跡を描いて核ミサイルの飛行最長記録を更新し、その核ミサイルが、某国が極秘に研究していた超ウルトラスーパー破滅爆弾に突っ込んだからである。ミサイルが爆弾に突っ込む様は、今まで人類の中で繰り返されてきたボケとツッコミをはるかに凌駕する、最高のツッコミであったと言えよう。

 瞬く間に地球は大爆発を起こし、月や火星まで、「なんで俺たちが」と呟きながら巻き添えを食らって大爆発した。月面着陸計画も火星移住計画もおじゃんになったわけである。ついでに余波が太陽にまで届いて、太陽系と周辺の星々も爆発した。

 こうして星のように大きなものも、クジラや巨樹も、目に見えないほど小さな生き物も、野に咲く花も寄生虫も、富める者も貧しい者も、健やかな者も病める者も、清い獣も清くない獣も、一匹残らず、すべて等しく木っ端みじんこになった。陸も海も国境も信仰も文明も、綺麗さっぱり消えた。

 もう人類もゴキブリもいない。
 そう、これこそが地球上で実現できる唯一の「平等」の形であった。
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☆ ★ ☆ ★

こちらは以前投稿した短編小説です。宜しければ覗いていってください。


↓人とロボットが共に暮らす世界を舞台にしたSF風ファンタジー
からくりの鼻唄

↓生き物たちが登場する童話風ファンタジー
月色の夏

↓夢の中をイメージした幻想系作品
ドッペルゲンガー

↓少女と観覧車の物語
ここよりずっとたかいところ

↓ハト好き男のコメディ
ハトにパンを

↓カビが主人公のパニックホラー風
風呂場カビの逆襲




ツギクルバナー
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