小さい頃に見ていた世界はもっと光り輝いていた

月澄狸

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小さい頃に見ていた世界はもっと光り輝いていた

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 小さい頃見た世界はなんであんなに光り輝いていたんだろう。

 薄暗い朝に聞こえてくるキジバトの鳴き声。プランターの中のチューリップ、ワタ、ピーマン。子ども番組の歌。幼稚園で流れていた歌、幼稚園の手洗い場。お花やジュズダマ。木の葉や木の実を使っての工作。年に一度のクリスマス、お誕生日、雪。夢中で遊んだおもちゃ、読んだ絵本……。


 ある程度の年齢までは「子どもの心」だった。
 中学生の頃、通学路で見つけたホタル。ときめいたなぁ。


 今はなぜだろう。あの頃に好きだったものまで、次々否定している。

 なぜあのときは輝いて見えたのか? なぜ今はいつも心苦しいのか? 考えれば考えるほど、根本的な理由から遠ざかる。


 小さい頃は、すべてにお金が関わっているとは知らなかった。学生の頃も、そういったことに疎かった。だから呑気でいられたのか。

 それとも時間があったからか。子どもとして大人から愛情を受けていたからか。


 昔もそれなりに嫌なことがいっぱいあったはずだ。でも今よりは心が希望で満ちあふれていた。好きなことをしていける、していいと思っていた。疑いもなく。

 なぜなんだろう……。何が違うんだろう……。
 昔は、世界の問題について考えなくちゃいけない、私たちが何かしなきゃいけないとは思っていなかったからかな。


 大らかな大人は、どんな子どもでもありのままの姿を受け入れてくれる。子どもは本などから「どんな子も素晴らしいんだよ」という光り輝くメッセージを受け取る。
 男の子らしく、女の子らしくなんてものはない。どんな遊びをしたっていいし、ランドセルの色だって決まっていない。子どもは純粋で、清らかで、大人が守り個性の芽を伸ばしてあげるものだと。

 でも大人になるとお金や自己判断が必要で……。


 小さい頃は物の名前も、仕組みも知らなかった。こうして文章や言葉を使って語りまくることもなかった。
 今はなんでも言いたいことは言える。分からないことは調べる。物の名前を知れる。
 でも知ったことが幸せには繋がっていないのではないか。

 昔はもっと知ることが楽しかったのに。
 今は幸せに繋がらないのは世界のせい? 自分の考え方のせい?


 昔は今ほどあれもこれも嫌いじゃなかった。いつも逃げてはいたけれど、嫌悪や憎悪的感情は強くなかった。いじめっ子のことですら時には思いやるような気持ちを持とうとしていた。

 いつからこうなったんだろう。


 たくさん間違いもした。それでも子どもの頃が輝いていた理由。いつまででも生きられると思って、大人になる頃が見えなかったからか。

 本当の理由は、こうして理屈を付けてみてももう思い出せないのかもしれない。
 魔法の物語に出てくる、子どもにしか見えない世界だ。


 今、道で見つけた生き物を調べると「外来種」と出てきたりする。なるほど外来種か、と思う。
 小さい頃なら関係ないだろう。外来種かどうかなんて。そこにいるべき命かどうかなんて。
 綺麗なものは綺麗。好きなものは好き。欲しいものは欲しい。
 自分以外の何者にも染まっていないのだ。情報にとらわれていないのだ。


 若かったからとか関係ないんじゃないか?
 無知だったからじゃないんじゃないか?
 あの頃に見ていた輝きは……。


 きっと今からでも輝く世界を見られる。早朝や夕暮れ時の美しさを味わえる。あの不思議で懐かしい空気を胸一杯吸える。ゆったりとした時を過ごせる。


 私の時間は、人生は私のものだ。
 戻れるはずだ。人間の寿命も肉体も、生き物の死も、人生の過ちも関係ない。

 もう一度輝く世界の中で生きる。自分の心を取り戻す。絶対。















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